春の息吹
香織は胸から熱いものが湧き上がるのをが押さえ切れなかった。涙が頬を伝わって流れた。最後に控えるS工大獣医学部の受験。香織にはそんな難関も彼なら突破するのでは・・予感があった。香織は知っている。数多くの偉業を残し、死ぬ間際まで、香月の名を呼び続けていた、白川正造氏の深い業績が、その愛情が、香月を明らかに変え、一段と彼を逞しく成長させている事を。白川氏の動物生態学の研究を自らが受け継ごうとしている事を。その為、どんなに香月がこの3年間努力して来たのかを。だから、決して香月は受験に於いても敗北する事は無い。持って生まれた天分と、老競翔家との深い心の繋がりと信頼の絆。そして、自分との愛。彼は それに答えてくれる大きな人間である事を香織は誰よりも知っている。
香月の両親も、川上夫妻もこの卒業式に来ていた。息子の晴れ姿に涙する母親奈津子、父親泰樹。川上夫妻も涙ぐんでいた。素朴で、生真面目な香月の父親だが、自分の息子をこれほど成長させてくれた、川上氏に感謝していた。そして、香織の存在。川上氏は自分にとって、1羽の鳩が取り持った不思議な縁で、これほど天分を有した競翔家に育ち、一人娘とも確かな結びつき。そして、逞しく成長して行く彼の姿が嬉しかった。それぞれの胸に香月一男と言う少年の3年間の姿が昨日のように浮かぶのだった。




