競翔仲間
そして、川上氏が2人の前に、にこやかな顔で現れた。
「いやあ、凄く楽しいご両親だねえ。私も、こんなお付き合いが出来るとは幸運だよ。香織の成績もぐんと上がって、今日は君にも感謝しに来たんだよ」
「いや、とんでも無いです。僕の方こそ香織ちゃんのおかげで、随分復習が出来ました」
もう、すっかり川上家と香月家の間柄は、一羽の鳩によってこんな短期間に深い付き合いにまで発展していたのだった。
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川上氏が、香月鳩舎の初作出鳩を見る・・川上氏の鋭い触診は、アイサイン、竜骨、主翼、副翼、羽毛余す所なく見抜いていた・・。
「よく・・これだけ粒が揃ったね。初めて鳩を飼って、まして初めて秋に競翔をする者とは思えない出来だ。良くここまで育て上げたね」
これ以上に無い川上氏の言葉に、香月も体に震える熱さを感じた。
又、香月と川上氏の師弟関係とも言える深い間柄と、家族をも包容してしまった、一羽の鳩を巡っての不思議な縁・・。
春・・夏・・季節は巡った。兄弟関係とも、親戚とも言える付き合いは益々深まり、香織と香月の間も、微笑ましい程の仲になっていた、香織の成績はうなぎのぼりに上がった。香月も見違える程明るくなり、クラスでも人気者に変貌するほどで、その成績も県下で指折り数える程の優秀さを発揮していた。
そして・・秋。香月が鳩に出合った季節から、もう一年近くが来ようとしていた。
香月は学生が資格ある、100キロレースの「文部大臣杯」の鳩の持ち寄りの場所へ来ていた。鳩レースとは、持ち寄った鳩を目的地から一斉に放鳩し、鳩舎に戻った鳩の番号付きゴム輪を外し、鳩時計で打刻し、その所要時間を放鳩地からの実距離で割り、分速○○○○・○○○メートルで順位を表すものである。




