誕生
香月には、その人の言動や、蓄積された現データを正確に把握出来る機敏な頭脳と、その「天性」の洞察力がある。川上氏は、自分の持てる全てを傾注しなければ、今後この若者にはもう競翔では勝てないだろう・・。この時、本当にそう感じた。
集合場所に着いた香月と川上氏であったが、磯川は無言であった。既に、情報は届いているようで、この場にはベテラン競翔家の顔が多かった。今回は集計も早かったようで、すぐ成績が発表されると、磯川は口を真一文字に結んで、この場から出て行った。磯川の成績はそれほど悪い訳ではない、13、16、19位であった。ペパーマン系を使翔して初めて、10位内入賞を逃したのはこの時ではあったが。
香月が優勝から、5位までを独占。しかし、その後を川上氏が、6位から12位まで・その後も、14、15、17位と、打刻したした鳩の全てが入賞した。このレース、師弟の2人がほぼ独占の形だった。が、川上氏はこの400キロレースには、最初からまだ比重を置いていないと香月は見ている。しかしそれで居て、10羽一団で帰って来る白川系の、凄まじい血の底力をひしひしと感じていた。
続く500キロレースでは、高橋会長が優勝、川上氏が2、3、4位。渡辺鳩舎が5位、桐生鳩舎が7位、郡上鳩舎、7、8、9位、柳鳩舎10位であった。香月はこのレースには主力を参加させて居ない。昨秋の2次鳩と、後日帰りの鳩12羽を参加させていたが、12羽中2羽記録と散々な成績だった。3シーズン目を迎える源鳩同士交配の子鳩はほぼ全滅状態。生まれ持った資質だけは、管理だけでは如何ともし難かった。それに比して、シューマン交配の直仔群は、2羽落としただけで、順調過ぎる程の成績だ。現血統との交配が成功したと言える。シューマン系の血の濃さが結果を出しているとも言えるが、その親鳩の1羽である、グランプリ号は、300キロレースで3位入賞と、絶好調を維持しており、記録鳩群は1羽も落伍していなかった。




