誕生
400キロレースは、曇天で、大陸から低気圧が張り出した、今にも雨が落ちそうな空模様であった。300キロレースまで好条件に恵まれて、参加羽数も5856羽と、この時点までは帰還率も高かった。これまで白熱したレース展開だったが、こう言うレースにぶつかると、鳩の優劣は顕著な形になってくる。方向判断力に優れたレーサー(競翔鳩)が、こう言うレースを制するのは言うまでも無い。それに、400キロレースはこれから後の大レースの為に重要なステップとなる。殆どの主力はこのレースに投入されるのだ。ここで、今春のレースの行方が決まると言っても過言では無い。
このレースの持ち寄り日の事、香月は磯川に、放出鳩の事を尋ねた。
「ああ、その放出鳩は、昨秋の10連合会合同レースで、総合3位。今年の賞金レースの総合優勝の鳩だよ」
「その鳩は、BCのメスだったですよね?」
「その通り。アンダーソンの血が4分の1入ってる鳩だ。」
「惜しいですよね。今からの鳩なのに・・」
「まあ・・でも、他にも居るからね。昨秋の総合1位、2位も居るし、今年の運輸大臣杯の優勝鳩も居るしね。それに、出した鳩は、純血じゃ無かったから・・ね。」
「・・そうですか?・・・ところで話は変わりますけど、僕の所では、このレース前からハチミツを与えています。磯川さんは?」
「ははは。まだレースは序盤。500キロを過ぎたら、後はGPだから、その期間に調整すれば良いよ。君は師匠に似て、慎重派だね。まだ短距離なんだから、それほど、過敏に対応する事は無いと思うよ」
香月は、もうそれ以上磯川にはもう聞かなかった。




