誕生
「はい・・先頭集団を常に形成する勇敢で、スピード豊かな系統なんですが、非常に短期間で、作られて来たせいか、神経質な鳩が多いようです。それは近親による弊害と見ます。やや疲れて来た中盤頃には、早く帰舎してもすぐに鳩舎に入らないのです。それは、磯川鳩舎の構造にも問題があるのです」
「ほお!君の理論は整然としている。磯川君の鳩舎の構造は別として、私もペパーマン系・・そのパイロン号直系群はそう見る」
「ですから、これからある、400キロレース以降・・川上さんにレースを押さえられたら彼はきっと疑問を抱き、そして研究するでしょう。それがある限り、きっと賞金レースには向かないでしょう」
「私が磯川君を押さえるなんて、どうして予想出来ようか?」
川上氏は目をぱちぱちさせた。香月は、自分をも既に驚かせる競翔家に育っている。それも高次元の理論を持って・・。感心しながら聞いていたが、その磯川を自分が押さえる所には、苦笑した。
「僕はこう見ます。磯川さんと川上さんが決定的に違うのは・・一括管理と、個別管理でしょう・・そして、それは、今春の川上鳩舎の狙う700キロレース以降の照準にあります。ですから、自由舎外にしてるのでしょう?400キロレースからは主力を投入される筈・・と見ます」
川上氏の顔が少し硬直した。
「・・うむぅ・・驚いたよ。そこまで私の狙いを見ていたのか・・」
「だって師匠のやリ方を参照するのは弟子として当然じゃないですか」
「わっはっはっは!君には負けたよ。君も400キロにはエースを持ってきそうだし・・ね」
2人は大きな声で笑った。大きな、春・・・・成長の春であった。どこまで駆け上って行くのだろう・・この若者は急激な勢いで・・川上氏はその成長が嬉しかった。




