誕生
「でも・・・なんで急に?」
香月には疑問があった。
「その事か・・」
「知って居られるのですか?」
「聞いた話だが・・彼がパイロン号直系を導入出来たのは、ブローカーを介してだ。プロと言うのは、外国じゃ常識になっていて、当然優秀な血統の鳩は高く売買されるから、そのブローカーもかなり現地の事情に詳しく、オークションを通じて手に入れる仕組みが出来ているそうだ。彼はそのブローカーを通じて導入したそうだが、何百万と言う大金が動くと言う。それはそれで、私は個人の勝手で、個人が幾等鳩に金を出そうが、構わないじゃないかと思っている。事実彼は導入以来素晴らしい成績を上げているからね。しかし、今回のその賞金レース参加には、その人物との導入にあたっての取り決めがあったらしいんだよ。何でも、もうパイロン号は死んでしまって、その直子群は数倍にも値段が跳ね上がって手に入りにくくなってしまったようなんだ。そこで、昨秋の西コースで、総合3位までを独占した中の1羽を今回の賞金レースに出して、優秀さを証明した上で、その鳩を譲渡すると言ったね・・しかし、まさかそれが総合優勝するとは思わなかっただろうけど。そんな銘鳩をみすみす手放すなんて・・惜しいと思わないか?もう引退させてしまうなんて」
「・・複雑なようですね・・。でも、一つだけ磯川さんについて川上さんの誤解があります」
「・・と、言うと?」
「彼の眼は、やはり今の所、川上さんや僕に向いていると言う事です。今春のレースが好調に来てると言う事もあるでしょうが、ペパーマン系は、100キロ~300キロの短距離には強いですが、昨秋のように、400キロ~700キロの中距離には難点を持っています。昨秋の400キロ、500キロを落としたのはそのせいです」
「ほお・・断言できるほど、君には確信があるんだね?聞こう」
川上氏は、日毎に逞しくなって行く香月に眼を細めた。




