誕生
川上氏の打刻タイムだが、若鳩の1羽が早かったのと、全部で8羽打刻した中で7羽が記録鳩と言う事もあって、入賞圏内に居るのは確実と見られていた。8時10分頃だと言う打刻タイムだが、8羽の打刻した時間が2分前後と言うのだ。流石に実力者である。
開函場所の会長宅では、既にほぼ全員集まっていたが、香月が鳩時計を持ってない事に佐野が不思議そうに尋ねた。
文部杯常勝の香月が・・何故?そんな疑問であった。
「どうしたの?時計・・」
「打ちませんでした」
「何で?」
「とても打刻出来るタイムじゃ無かったです。8時30分に1羽。その後夕方にやっと最後の1羽ですから・・」
「そう・・意外だね・・君程の鳩舎が・・見せて貰った時も出来が悪いっては聞いてたけど・・」
ところで、来ている筈の磯川が見えない。佐野に香月は聞いた。
「ところで、磯川さんは・・?」
「まだだよ。まだ少し時間があるからね。でも・・皆、肝を潰してるよ・・あのパイロン直仔群は凄い・・ダントツで、5羽同時に帰舎したそうだ。そのタイムが8時2、3分と言うから、この悪天の中・・本当に凄いよね」
香月が当然その事を知っているかのように、佐野は言った。香月は実は全くその情報を知らなかった。
「そんなに・・早いんですか?やっぱり・・見間違いかと思った一群がそうだったんですね?若鳩とは言え、この逆風の悪条件の中、そんな分速で戻ってくるとは・・」
「あれ?知らなかったのか・・。余りの差に他の会員達も今晩は大人しいだろ?川上さん位だよ・・次に近いのは」
話し合ってる所に磯川が入って来たが、時間スレスレで、間も無く開函となった。




