回顧・・希望
恰幅の良い、いかにも人の良さそうな*新川さんは、家具屋さんを営まれている方だが、数年前奥さんを交通事故で亡くされてから、競翔を中断していたとの事で、関西では有名な強豪競翔家であった。(*新川さんは、白い雲2部にも重要な人物として登場します)だが、その際に自分の鳩を全て処分してしまって、数年間は、全く中断していたのだが、やはり競翔鳩が忘れられなくて数年来の知己である、川上氏に一ヶ月前に電話してきたそうだ。その電話では何羽か譲って欲しいとの事で、既に何羽か分譲しているが、この人なら・・川上氏は新川氏のお人柄を良く知っていて、関西でなら自分の血筋が・・そう決断したと言う。
「いやあ・・わしは幸運ですわ。川上さんに主流種鳩を譲って貰えるなんて」
童顔のように、恰幅の良い腹でにこにこして新川さんは言った。大きなトラックは、鳩舎が丸ごと入りそうな放鳩車であった。並の人では無い、香月も思った。
「丁度・・どなたかに・と思っていた矢先・・それが競翔を再開される新川さんなら私も安心だ」
お互いの知己は、和やかに談笑となった。
「しかし・・あれでんなあ・・わしも自分の鳩を他所に出す時は、大声で泣いたもんです。よくぞ決心してくれました。有難い事ですわ。絶対この血統は関西で活躍します」
「私も正直辛い・・ですが、思い切った鳩の入れ替えをしなければ、決断が鈍る」
川上氏は新川氏と固く握手した。香月もこの人ならと思った。・・愛鳩を手放す時泣いた程の愛鳩家ならば・・。
「それに・・私が関西の鳩舎に譲るのは、是非、稚内GN1300キロを・・その夢を託すのですから」
香月は、納得した。この人なら・・川上鳩舎の主要血統なら成しえる事であろうと・・思った。
新川氏が、何度も礼を言いながら帰った直後の事であった。
川上氏の真意を感じ取って、香月は正直に気持ちを打ち明けた。
*修二の青春




