回顧・・希望
香月はこの言葉に川上氏の競翔家としての別の姿勢を見た。連合会では通用しても、中央の鳩界には通用しない。川上氏はその卓越した手腕を誇りながらも、やはり中央の連合会には一歩及んでいなかったのだ。
「分かったようだね。私だって、自鳩舎の艱難銀苦した鳩を勿論手放したくは無い。しかし、やっぱり私も競翔家なんだね。いつまでも頂点を目指して行きたいのだ。そして、それが、偉大な師に一歩でも近ずく為に・・その遺志を継ぐ為に」
川上氏の目に光る涙を見た時、香月は改めてその決意を見た。何と言う・・素晴らしい人なのだ・・・この人は・・総身がしびれるような感動を覚えた。白川系を託されると言うのは、自らも白川氏使翔法を貫くと言う事。その決意無くして、川上氏は使翔など出来はしない。愛鳩家の姿勢だけでは、使翔仕切れない程重く、大きなものを託されたのだから。
「だがね・・私も選手鳩だけは分譲したくない。この中から残った鳩は君も言った通り、白川系との異種交配となるだろう。しかし、私の血統は白川系の中に埋没するだろう。これは非常に競翔家として、悔しい事なんだが、白川さんの鳩舎に居た、200数十羽の鳩のどの血統をとっても、私の旧主流血統では苦戦を強いられるだろう。それほど・・偉大だったのだ、白川鳩舎とは。この白川系を自分の鳩舎に置いて私も実感している。それは、実は今春のレースにも既に使ったからだよ」
「えっ?」
香月は驚いた。
「昨年より、白川さんから依頼された配合で、4羽既に導入していた。その鳩の仔鳩が既に今春のレースを戦い、君のエースには負けたが、500キロレースまでの私の鳩舎の1着、2着だ」
川上氏は既にもう白川系を使翔していたのだ・・香月はもう、何も言う事が出来なかった。その選手鳩が、早熟で、図抜けた鳩だと言う事は言わないでも分かる。来春の台風の目になるのは間違い無い事だ・・。
この日、関西から人柄の良い、新川さんと言う人がトラックに乗って川上氏の所へやって来たのは午後をかなり回っての事であった。




