回顧・・希望
「あの・・僕も余りベルランジェ系の特徴については知らないのですが、良ければ、お伺いしたいのですが」
「君が知らない?ふふふ。君はとっくに研究済みであろう、敢えて聞くと言う事はヒントになる事を私から探りたい・・そう言う事かな?」
笑いながら川上氏は答えた。図星されて、香月も正直に打ち明けた。無論隠し事など一切無い師弟の間柄である。
「類似点は、旧主流と比べて、方向判断力に優れている。勇敢でもある。更に、血統の固定化が1羽の銘鳩に集約されるのでは無く、数羽の一群によって固定されてきた事であろう。これは、近親によって固定化された血統よりも、鳩質(体型、能力)のばらつきが生じる訳だが、逆に考えれば、比較的改良し易い血統とも言えよう。数々のレースで淘汰された一群の中で、第2代、第3代の精鋭を作って・・そうした血統に更に白川氏は日本の在来系である、南部系、今西系などと交配させて、その中から30数年に渡る徹底した少数精鋭主義で、淘汰を繰り返し、完成させてきた血統なのだ」
「現川上系とどう違いますか?」
言い出さない川上氏に、敢えて香月は質問をぶつけた。
「私の主流血統のノーマンサウスウェル系は勇敢で、悪天候でも強い。それは、頭抜けていて、実証されても居る。だが、白川系は更に、その上を行く。私がどんなに改良して頑張っても遠い存在だった。近年私はブリクー、ハンセン、そして、勢山系を導入しているが、改良を重ねて得られたのは、結局の所在来系である勢山系一群の飛び筋なんだ。それが主流なんだよ」
苦しい胸の内を香月は敢えて聞こうとしている。これまで築きあげてきたこの血統を、放出する無念はいかばかりか。それを素直に香月が受け止めてあげたかった。
「では・・何故その白川系に自鳩舎の血統を交配して、新しい可能性を探らないのですか?」
川上氏の顔が曇った。
「君は、私の真の狙いを見抜いているようだね・・・。残念なんだが・・私の血統では全てにおいて勝てない。特に晴天のレースでは。使翔法が全く違うのだ」
「あっ・・」




