出会い
再び雑談後、川上氏は無造作に書棚の中の木箱を取り出してきた。中を開けると、それは血統書であった。
無言で一枚、一枚血統書に眼を通して行く。やがてその中の一枚を抜き、しばらく考えている様子の後、
「うん!」
と頷くと、香月に微笑みながら、
「香月君、君に差し上げた鳩はイギリスのノーマンサウスウェル系×ブリクー系です。この血筋の鳩は非常に悪天候に強く、勇敢で、方向判断力に優れます。君の鳩は生後3年で、2才時に700キロレースで連合会で2着に入賞してますが、この時も非常に悪天候だった。君の所へたどり着いた時は300キロレースの最中だったが、その前の100キロレースでも3位に入っています。このように君の鳩は、短距離から中距離にかけてスピードが出る中距離鳩ですから、この雄に見合う血統には、長距離型の粘り強い在来種の雌が良い。この雌は勢山系と言って日本の国土に順応してきた優れた系統の鳩です。この鳩を差し上げよう。この配合で、仔鳩を作出して下さい。君が競翔に興味を持ったら、是非その時にはこの仔鳩達を参加させて下さい。中学生の君ですが、大勢同じような年の少年達も居ますからね」
芳川も香月も口を揃えて、それは断った。
「と・・とんでもないです。聞けば聞くほど。こんなに競翔って大変だし、凄い事なんだと分かりました。興味もあります。けど、それ以上にこんな素晴らしい鳩を飼育できるだけでも嬉しくて、頂いて良いのかな・・と思っている上に、又そのような鳩まで頂くなんて」
「君達のような少年だからこそ!鳩を愛してくださる方だからこそなんです。動物を飼う気構えは教えて出来るものじゃない・。それは自然と香月君達には備わっているからです」
・・ここまで言われては、もう2人にはお断りできる言葉も無かった。何度も礼を言いながら、彼等は帰路についた。




