白川老人
佐野からの電話で、本年度の東日本GPの行方が見えつつあったが、香月は翌朝5時半に起床した。既に薄明い空はしていたが、まだ乳白色の霧が立ち込め、昨日より更に悪い天候であった。日没までに鳩舎の近くまで帰っていれば、今朝帰る筈・・そんな香月の思いからであった。まだ、昨年の1000キロ記録鳩が1羽帰ってないのだ。この鳩は、悪天候の時の帰舎は遅いのだが、その機知を悟ると言うか、小雨でも降れば、外で遊ばせていても、すぐ鳩舎に飛び込んでくる鳩だった。どんなレースでも疲れた表情すらせず、ケロっとして戻ってくる。非常に聡明な超長距離向きの鳩であると香月は期待している1羽であった。この鳩こそ、文部杯全国優勝した、「ピン太号」香月の尤も大事にしている鳩であった。そのピン太号が・・6時過ぎだった。
「帰ってきた!」
案の定だ。昨夜の雨にも関らず、全く羽毛は濡れておらず、ケロっとした顔で、すぐ鳩舎に入ると餌をついばみ始めた。香月は自分でコンディションを整えられる、こう言う鳩こそが、優秀な競翔鳩であると思っている。源鳩パパ号と、ママ号との最初の子、そして初めてレースの参加させた文部杯で、全国優勝した鳩。まさに、香月鳩舎を象徴する代表的競翔鳩であった。
この日、学校から戻って来ると更に2羽の鳩が帰舎していた。この2羽まで打刻すると、香月は鳩時計を持って、川上氏の家に向かった。14羽中、10羽記録。香織が待っていた。
「どうだったの?香月君」
香織が聞いた。
「ああ、3羽帰って来たんで、全部で10羽だ。まあまあって所かな」
「そう、良かったわね。学校でもそわそわして落ちつかなかったから」
「はは・・。ところで?お父さんは?」
「何かねえ・・すっごい気難しい顔をして鳩舎の方に居るの。私が戻ってきてからも一度も下へ降りて来ないのよ・・調子が悪いのかしら・・」
「じゃ・・ちょっと見てくるね」




