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#8サリバーン

▼『サリバーン』


 年中真夏のように暑いこの地方は、西に行く程雨さえ降らないそんな地帯であった。民のほとんどは、『エストラーザ』寄りの東側に居を構えている。また、オアシスを求め歩く遊牧民は、夏は東に、冬は西に移動する。そんな、戦いを微塵にも意臓しない平和な国であった。

 食料になる作物は雨期に麦を植えては取っている。しかし、それではほとんど生活が成り立たないので、隣の国『エストラーザ』に半分頼っていた。

 現国王ハザウェイは、おおらかで懐の広い男である。一つ間違うと、民衆に埋もれても気づかれないほどに、国王としてより人間味のある人物かもしれない。

 そのためか、民衆受けする人物でもあった。

 そして、この人物の父の名はマクエル・ラ・シュメール。

 つまり、『エストラーザ』の現国王ラシュエル・ラ・シュメールの弟であり、『エストラーザ』とは親戚格の国であった。

 その、弟であったマクエルは、兄のラシュエルの政治の仕方に不満を持ち、配下を引き連れて、この『サリバーン』を建てた。

 今では亡きマクエルの事を、その子ハザウェイは、勇敢な人物として後世の書に記してはいるものの、その政治とは打って変わった国政を敷いている。

 つまりは、『エストラーザ』無くして、この国の政治、そして生活は成り立たなかったのであった。

 そして現国王には二人の子供が居た。

 長男にフェンディ、長女にウェンディと言う子らを授かっていた。

「お前達もそろそろ成人をする頃だな」

 フェンディは今年で十五歳。妹のウェンディは来年十五歳になる。

「はい、父上!」

 聡明な瞳をしたフェンディははっきりした口調で答える。

「私も、今年で十五になります。そろそろ、国内の仕事も覚え、父上の片腕になりたく思います」

 そう答える姿勢は、この国を背負って立つ皇子として充分に足る程であった。

「はっはっは。よくぞ申した。近い内にお前には一働きしてもらうだろう。心しておけよ!」

「はっ」

 その隣に座している少し引っ込み思案なウェンディはその様子を暖かく見守っていた。

「それからウェンディよ、そちもそろそろ嫁に行く準備をしなくてはならんのだが……お前の方でこの男なら……という者はおらぬのか?」

 突然自分に話を振られ戸惑うウェンディ。

「いや、何……ちょっとした縁談を考えてはおるのじゃが…そちに意中の男がいては、申し訳ないのでな……」

 少し控えた言い方は、ハザウェイ国王らしい優しさを秘めていたりする。

「意中の男の方などと……そんな方おりません」

 少し顔を赤らめたウェンディは恥ずかし気に下を向いた。

「そうか、わかった。それならば、父が探して来た男であっても良いと申すのだな?」

 微笑みながら、ウェンディに聞き返す。

「実は、この国と『エストラーザ』の国間をゆるぎのないものにしたいと思ってる。出来れば、国王となるであろうカイト皇子はどうであろうかと思案していた所だ」

 下を向いていたウェンディその言葉を聴くや否やはすぐさま顔をあげた。

「カイト皇子と申しますと……一度『サリバーン』に、雨季祭で参られたあの方でございますか?」

「そうだ」

 ウェンディの頬が先程よりも赤らんだ。

「不満か?」

「いえ、とんでもございません……あの方が、私の夫になって下さるのでしたら喜んで、お受け致します」

 と、そんな言葉がウェンディの口からもれる。

「はっはっは。なんだ、お前も気に入っていたようだな。気に病む事などなかった。実は、そのような話を持って来た事があるのだ」

 そして、今までのハザウェイが考えていた事のいきさつを伝えた。


「良い話じゃないか」

 フェンディが相槌を打つ。

「しかし、カイル皇子はこの事をご存じなのですか?」

 少し不安そうに、ウェンディは訊き返す。

「そのことであるが、皇子にはまだ知らされていないようだ」

「そうですか……」

『エストラーザ』からの緊急の使者が現われたのは、そんな平和な話をしている頃だった。


「それでは、『キリアートン』が、反乱軍をよこしたと申されるのか!」

 ここ広間の一角で、一同にざわめきが起こる。

 ここ『サリバーン』の広間に『エストラーザ』からの使者を迎えその報告を聴いていた。

「グェインめ、今を期に兵を挙げて来たのか……侮れん奴だ!」

「つきましては、二日後、緊急に三国問での話し合いを持つこととその旨をお伝えしたく参上つかまつりました」

「確かに、分かり申したと伝えて頂きたい。我が国は、今、戦をすることは望んでおらんのでな。そう伝えて頂きたい」

「承知致しました」

『エストラーザ』からの使者が立ち上がり、広間から立ち去る。未だ、この事態を飲み込めない人々はざわめきを止めない。


「皆のもの、静まれ!」

 この声の主フェンディは広間の中央に進み出て、制した。不安を漏らす者どもはその言葉に眼を向ける。

「この国は、誰の手にも渡さない。今までの平和な国を死守する事態の時が来た。グェインの企みを討つためにも我は、二日後の会議に望む!安心せよ!」

 国王ハザウェイはフェンディの後ろの座から立ち上がる。

「父上!私もお供致します!」

 フェンディがハザウェイを振り返った。此処で自分の今までの成果を見届けてもらいたいが為でもあった。

「ここは後学のためにも、私をお連れ下さい」

 頼もしい面持ちのフェンディの瞳が、ハザウェイの前にあった。

「わかった。明日にでも『エストラーザ』に旅立つ。そなたも用意を致せ!なれば、我と、フェンディが不在の後のことは、宰相トレビュウに任せる。後の事、宜しく頼むぞ」

「ははぁ!」

 宰相トレビュウの声が辺りに響き渡った。

「皆の者聴いておるな!陛下のおられぬ間、全て私の意志が陛下の言葉と聞き入れよ。ここ『サリバーン』を統括する。気を引き締めて陛下の帰国を待つのだ!」

 こうして『サリバーン』の民はこれからの事を念頭に置き、一つの心になる意志を固めたのであった。


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