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#29未知なる城

▼未知なる城


「カイル皇子!!何処にいらっしゃいますか!!」

 広聞に出たフェンディは、この騒ぎの中、自分の使命を全うしようとカイル皇子を捜していた。膝上にまで及ぶ水が、この城の中にまで流れ込んでいる。歩く度に思うのは、着込んでいる甲胃を投げ出したくなる程に動きづらいということだ。

「カイル皇子!」

 後からこの広間に入って来る兵は、四方に別れて、襲って来る兵や逃げまどう人々を選り分けながら城内を巡回して行った。


―こんな時ハイルがいれば……―


 ハイルこそが、この城内を知り尽くしているであろうと思い一瞬心が揺らぐ。


―もっと、情報を訊き集めておくべきだった―


 フェンディは、自分のいたら無さに歯がゆい気持ちになっていた。

 その時、カイルが、女性として扱われているという事をふと思い出した。


―ならば、逃げまどう女から訊き出す事ができるやも……―


 一か八か賭けに出る気持ちで、フェンディは、出会う女に声を掛けて歩いた。

「お主、目の見えぬ女を知らないか?」

 何が起こったのか分からないこの状態。ただ、パニック状腹に陥っている者に声を掛けたところで、はっきりした答えなど返って来る事など無い事は分かっているのにフェンディは一人一人訊いて回った。

「そんな者知りません。誰か助けて!!!」

「何が起こったの?イヤーー!!」

 返って来る答えなどこんなものである。

 しかし、フェンディは諦めなかった。暫く、辺りを落ち着いて見回した。

 左奥から、女中らしい者達が広間へと流れ込んで来る。


―この奥か?―


 フェンディは確信に似た物を感じ取った。



 オレが二の門をくぐり抜けた先。街は、水浸しであった。

 屋根に上って命乞いをしている者の姿が見える。


―凄まじい―


 オレは思った。

 敵とは言えども、今まで平和に暮らしていた者も居たのだ。

 それを考えると、政治的理由でこんな戦をしている自分達はなんとも罪深い者のように思われる。

「後少しで、城内です!」

「一度来た事が有るから分かる。広間に……いや……謁見の間に向かう」

「カイト皇子!くれぐれもお気をつけ下さい!!」

「わかっているさ!」

 暫くすると、少し高台になっている階段を上る。膝下までの水嵩でなんとか動きも楽になった。


―グェイン、覚悟していろ―


 オレは、今一度見える『キリアートン』の王に今度こそ恥ずかし目を受けない勢いで前を急いだ。


 一方、フェンディ皇子と別れて行動していたメイトは、牢獄の有る通路へと足を踏み入れていた。

「どうか、そこのお方……お助け下さい!!」

 湿った石畳の上に横になったり、うずくまった男達が牢の中、口々にメイトや他の兵に声を掛けて来る。

「お主達は?」

「私たちは王の怒りをかった者共です」

「鍵は?」

「そこの角を曲がった先の所に居る兵が持っています」

「わかった。今暫く辛抱していろ!」

 メイトは兵に指示を出し、兵を倒す算段をたてた。

 遠くで叫び声が上がる。

「ぎゃー」

 暫くすると、悲鳴と共に足音が聴こえて来た。

「メイト様!鍵です」

「今すぐ出してやるぞ!何処へなりとも逃げるが良い」

「助かった〜!!」

「ありがとう、ネエちゃん」

 いろいろな声が上がる。

 そんな中、メイトはこの先に通路があったかを、鍵を取ってきた兵に訊く。

「今の兵の奥には道はあったか?」

「いえ、行き止まりでございました」

 その言葉に、

「全兵よ!もと来た道を進め!!そして、先程分かれ道があった逆の道に急いで進むのだ!!」


―しまった―


 とメイトは思った。

―フェンディ皇子……早まった行動は決して為さらないで下さい!―


 味方の兵の列の後尾。一人メイトはこの成りゆきを焦る気持ちで見守るしか無かった。


「カイル皇子!!」

 フェンディは、女達が騒いで逃げて来る道を逆行していた。時々そんな女達に声をかける。

しかし、誰一人として、その言葉に耳を貸す者は無かった。

 暫く行くと、いくつかの部屋前を通り過ぎるようになった。その部屋をくまなく見て回る。

しかし、既にもぬけの殻であった。


―このまま行くと、最奥の間に行き着く……―


 もしかしたらと思う一心で、重い足を動かした。

 暫くすると、日差しの当たる渡り廊下に出た。

「カイル皇子!何処ですか!?」

 もうここまで来ると逃げまどう者もいない。


―一番奥の部屋だ!―


 フェンディは、そのドアの前まで来ると思いのたけを込めてそのドアを開いた。

 水の重みもあったため、『ズズズ、ギーッ』という音がした。

「カイル皇子!?」

 その部屋を見回す。暗い部屋。先程の渡り廊下で、既に辺りが夕日のために赤く染まっていた事を初めて知った様な気がした。

「フェンディ皇子か?久しいの。ここまで来れるとは……してやられたわ!」

 聴き覚えの有る声。

「グ、グェイン……」

 フェンディの目の前には、女の胸に剣をたずさえた格好のグェインが、立ちはだかっていたのである。

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