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#25奇襲

▼奇襲


 この日は、朝から夕刻まで、兵の看病と統率に余念なく行動していた。

 一日中管理体制をしいていた兵は、見張りも交代制で上々である。見張られてはいるものの敵の動きは一向に無い。

「一体『キリアートン』の者は何を考えているのでしょうか?」

クルトは疑問だとオレに話し掛ける。その答えが欲しいのだろう。

「本日は、戦う気が無いのかも知れない」

「……にしても、見張りは絶えずこちらを伺っておりますね」

「ああ、だからとて気を抜くな。いつ奇襲をしかけてくるかも分からない」

「ええ、その事は皆承知の上です」

 まだ、物資の余裕は有る。また何かをしかけられてもその算段を怠ってはいない。

「もし、仕掛けてくるとしたら夜半であろうな」

 オレは確信していた。

 疲労している兵。休んでいるのはなにぶん夜の者達が多い中、攻められて困るのは夜であった。

 刻々と日が暮れる。

 この一日が長く感じられた。

 早く約束の日が来る事を願って止まない。

 オレは昨夜、余り休む事が出来なかったから、今頃眠気が襲ってきた。

 中央で焚き木を絶やさないように兵が寝ずの晩をしている中、岩影でオレは『うつらうつら』していたそんな時であった。

 地鳴りがしてきたのである。

「我は、『キリアートン』軍大将アランである!カイト皇子の首を貰い受けに参上つかまつった!」

 騎乗した兵とその配下の者たちが一気に坂を駆け下りてきたのである。

「カイト皇子!」

 身近に控えていたクルトがオレを揺さぶり起こす。

「敵の兵が参りました!」

 慌ただしく退く『エストラーザ』の兵達。再びの戦闘。闇の中戦い慣れない『エストラーザ』には、分が無い。

「この闇に隠れているようでは、何と腰抜けの皇子であろうぞ!」

 敵はと言えば、言いたい放題言っている。

「クルト、オレは出るぞ!」

 その言葉に一気に頭に血が上ったオレは、すばやく立ち上がり、剣をたずさえてその音のする場へと走り出した。

「カイト皇子!」

 叫ぶクルト。しかしその言葉も聴こえないため、オレは中央の灯りがある場所まで走り込んでいた。

「お主がカイト皇子か?」

「いかにも。オレがカイトだ!」

「腰抜けかと思ったが、少しは骨の有る奴の様だな?」

 アランの口元が笑いのため釣りあがるのを見落とさなかった。オレの血がたぎった。

「では、覚悟!」

 剣を鞘から引き抜き襲い掛かるアラン。

 周りでも他の兵がそれに続く勢いで突進して来る。

『カキーン』と、一度刀を重ねるカとカの勝負が続く。でも後に引かないオレに、

「少しはできる様だな」

「ほざけ!」

 息巻くオレ。この有様を見ていると、イラついてしまった。そして瞬時後ろに飛び退く。身を翻すアラン。

 再び重ね合う剣。馬上で身を翻すアラン。

「馬なんかに乗っているから動きもままならんってか?下りて戦ったらどうだ!」

「きさまごとき、このままで十分だ!」

 その言葉に、馬に切り掛かった。オレはかなりムキになっていた。

「姑息な!」

 足を負傷した馬が、前のめりに倒れ込む。

「これで、対等に戦えるな!」

 転げ落ちるアランを見下ろす。これで、対等だ。それを見て、アランはすぐさま身を立て直す。

「後悔するなよ、カイト皇子!」

 再び切り合いになる両者。

 誰かが森に火を放ったのか、辺りはいつの間にか、火の海になっていた。

『カキーン』閃光が走る。

『ギリギリギリッ』力押しの剣は、オレの頭上を掠める程間近に迫っている。どうやらオレは力負けしているようだ。再び、後ろに退く。

 こうしてみると、アランの方が背格好から見ても有利である。


―足下を狙って懐に入る他無いな―


 オレは大剣を操っているアランを一睨みして構えを改める。

 汗ばむ手の平。

 そこに、クルトが走り込んできた。

「カイト皇子!この者の相手は私が致します!」

 そう言うと、オレと、アランの間に入り込んで来た。

「邪魔をするな、クルト!」

「皇子には、他にやるべき事が有るはずです!もう少し御自分の身をお考え下さい!」

その言葉に打ちのめされた。

「自分の身?」

「あなたがこの場で打たれでもしたらこの先の『エストラーザ』はどうして繁栄して行くのですか!?」

 クルトの背中を眺めながらオレはその言葉を聴いていた。

「オレが?」

『カキーン』ぶつかり合う剣。大きな背中がアランの剣を阻止している。

「……」

「皆はあなたに、未来を託しているのですよ!」

 アランの翻るマント。それがオレを掻き立てる。

「カイト皇子!お逃げください!」

「させるか!」

『キーン』離れるアランとクルト。後ろから見ていても互角の二人。

「……すまない。わかった……しかし決して死ぬなよ!生きてオレの元に戻れ!」

 再び重ねられる剣。

 オレはその姿を最後に見届け、坂を駆け上がった。周りに居る味方の兵と共に。


 道すがら敵の兵がオレ達の前に立ちふさがった。が、今のオレは、後の者達の事を考えては、ここで踏ん張る事こそが生きている証なんだと思い、その剣は冴え渡った。

「『エストラーザ』の兵よ臆するな!進め進め!」

 燃え盛る火の勢いに負けじとオレは先を急いだ。

 それは当て所も無い道であった。

 一中夜、火は辺りを朱色に染めていた。それは、夜空さえも飲み込んでいた。


 やっと東の空が白む頃、敵の兵の追っ手も途絶え、オレは近くの木にもたれ掛かるかのようにして倒れ込んでいた。

 夜露が鼻先を滑り落ちる。

『ピチョーン』と言う音で目を醒ました。

 木の葉の間から霧雨のような雨の雫が体の熱を奪い去って行った。目の前には霧が立ち篭めていて、身動きもとれない。

「カイト皇子、お目覚めですか?」

 マクベ大将が、オレの側でその様子を見守っていた。

「ああ……ここは?今は何時だ?」

「森の中に迷い込んだようです。少し歩けばもとの道に戻れるとは思いますが……時聞の方も分かりません。多分、明け六つ程ではないかと……」

「他の兵は?」

「みな、四方に逃げましたので、今の所は十余名と言った所しか判りません」

「そうか……ご苦労であった。お主も少し休め。疲労しているだろう?」

「……」

「オレは、少し見回りをして来る」

「では、私もお供します」

「良いから休んでろ!これ以上の犠牲は出したく無いんだ!」

「…承知致しました。お気を付け下さい」

 そう言うと、マクベは木に寄り掛かるようにして、仮眠を取る体勢を取った。

 オレは周りを緋徊していた。

 歩けば歩く程、辺りは疲れ眠りに就いている味方の兵に出くわす。


―こんなになってまでする戦とは一体なんだ?一国を守るため?平和な世の中にするため?


 そのためにこんなに犠牲を出さなければならないのか?―

 オレは知らない。こんな時代なんかに生きた事は無い。そのはずだ!


―早く終わりにしたい!―


 この世をそして、『キリアートン』のグェインをこれほどに憎いと思う事は無かった。


―オレは、何のためにこの世に生を受けたんだ?神よ、教えてくれ!―


 オレは天を仰ぎ見る。しかしその返事は返ってはこなかった。

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