#22予告
▼予告
フェンディ一行が、小屋を訪れてみると、中はもぬけの殻であった。
はじめ、これがカイル皇子の不在を意味するのであるのか。それとも、既に『キリアートン』に人質として捕われた事を意味するのか皆目見当が付かなかった。
「フェンディ皇子、これは一体どう言う事なのでしょう?」
一人歩きをするだけの気量が、彼にあったのか?否、ないはずだ。
「あの目だ、そう遠くには行く事は出来ないはずだ。なれば、人質として囚われていると解釈するのが妥当であろう」
フェンディは小屋の中のあらゆる所を見回す。
別段荒らされている様子もない。この前訪れた時と変わらない内装であった。
そこに、背後からハイルが現われた。ハイルは直ぐ様フェンディに跪く。
「フェンディ皇子、カイル様は昨夜グェイン王に連れられて、『キリアートン』城に入られました。今は城内にいらっしゃいます…」
最後の方は語尾が聞こえづらく、何とも言いがたい表情である。
「どうした?何かあったのか?」
その様子を不審に思い、フェンディは、ハイルに問い返す。
「…いえ大した事ではございませんが、ただ引っ掛かった事がございましたので…」
少し勿体ぶった物言いが、フェンディにとって気に入らない事のように思え、
「何?言いたい事が有るならば申せ!」
と少しロ調を荒げる。只でさえ、大切な『エストラーザ』の第二皇子がいなくて緊追している時であるのだ。
「実は、彼は…カイル皇子は女性である様なのです」
「何!?」
「グェインが単に、女装させたのであれば気にもならない事なのですが…実際、敵国で、目を不自由な身をさらす事から気にして見守っていたのですが、侍女をつけ且つ女として振る舞える事ができるように、配慮されている点が……」
「わかった。それが、『エストラーザ』にとってまた、カイル殿の隠し事とであるかも知れないと申すのであれば、我らは、少し考えて行動する他あるまい。男であろうが、女であろうが関係はない。見聞違いだけはするな!」
フェンディ自身驚きの表情を隠す事は出来なかった。しかし、誤った行為を避けなければならない事だけは事実なのである。
「承知致しました。それから、ハザウェイ国王側からの伝言が有ります」
そう言うとハイルは、事の次第をフェンディ一行に伝えた。
「分かった。御苦労であった。また何かあったら連絡をくれ」
「それでは……」
ハイルはその場をすみやかに立ち去る。
「ハザウェイ国王も、難しい手を考えつかれましたな」
メイトは、フェンディの側に仕えたまま言葉を発する。
「東側でこれからやることの前に、我々も気を引き締めておかなければならないな…それに成功すれば、一気に正面からと、この西からの攻撃を果たさなければ成らない」
「…カイル皇子を助け出すだけの余裕は有るのでしょうか?」
おくびにも見せてはいなかったが、メイトは気にしているようだった。
「そのためにも、ハイルには気を配ってもらわなくてはならない…大事な事だ」
そう言うと、小屋から出ようとフェンディは歩き出した。
「どこかに、抜け道が有るはずだ……しかし、この状況下で見つけたとしても、ただ罠にかかる事になるかも知れない。よって、下調べをするだけに止めておこう」
そう言い残すと、東側の動向を待ってからの行動を出来るだけしておこうとフェンディは、『キリアートン』の者らに気取られないように城周りを重点的に見回るよう伝令を出したのである。
城、正面側で待機をしているオレ達は、今は只これからの算段を昧方に伝える事で持ち切りであった。
一通りの事は、やっていた。あと残った兵力。そして、生け捕った『キリアートン』の者から情報を聞き出す事は、ほとんど終わっていた。
「グェイン国王の手の内は大体分かったが……すべて、向こうの思う通りの策にはまっている。焦りは禁物だ!」
オレは思っていた。
―もし、東側の攻略までをも配盧していた時にはどうする?―
ただ不安に駆られていた。
―この高台での戦略は既に深い痛手を負っている…きっと、西側の方も計算に入っている事であるだろう―
きっと、その事は、フェンディ皇子の方で対処している事では有ろうと考え、まずは、
「ユール殿、申し訳ないが、一時『エストラーザ』に戻り、『キリアートン』の夜盗が出て来ていないか調べてきてはくれまいか?」
オレは、『エストラーザ』に、緊急の兵力を置いていない事に気付き、『サリバーン』の将校に遣いを出そうと思い立った。
「承知致しました」
「伝令を伝えたら、またこの場に戻ってきて頂きたい」
ユールは、その言葉に返事をすると、来た道を馬で駆け降りて行った。
もう日も沈もうとしている頃であった。
三日後の夕刻。ハザウェイ王の策。これが、最後の賭けになるであろう事。それを頭に入れオレは自らの体を休める事にした。