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#20招かれざる客

▼招かれざる客


「グェイン国王。朝の支度に参りました」

 静かで冷たい響きの声が聴こえててきた。その声は目覚めて間もないカイルの耳に届いた。

「入れ」

 既に目覚めていたのであろうグェインは、その声に反応するように声をあげる。

「失礼します」

 とその隔てたドアが開く。

「今日から、この者の世話を頼む。我は暫く戦場に赴く」

 そういうと、カイルの手を取リベッドから立ち上がらせた。

「この方は?」

 見かけない者に驚く女中。

「我の客だ。名はジャスティ。失礼のないように接客しろ」

 前もって用意していたかのようなグェインの言葉。

 そして、未だ信じられないものを見たかのように女は大きな目を見開いて自国の王グェインを見ていた。

「オレが、女を連れ込んでいるのがそんなに不思議か?」

 その立ち尽くしている女中に軽く皮肉を込めてグェインは言う。

「いえ、失礼いたしました…お言葉に背かないように努力致します」

 一礼をし、カイルの元にその女は足を進めた。

「彼女は、目が不自由なのでな。少し手間取ることだとは思うが宜しく頼む。後で良いから薬師に診てもらうように取りはからっておくように。オレはこのまま一度会議に出る」

 それだけ言うとグェインはこの部屋を静かに後にした。

 女はそれをただ訝し気に見送っていた。

 それから暫くすると、侍女は動き始める。

「ジャスティ様。それでは、こちらへ」

 カイルの手を取りその侍女は、部屋に案内するという風にこの部屋を出るようにと導いて行った。


「グェイン国王は、何故こんな時にこのような女に現を抜かしているのだろう…」

 カイルはわざとその手を引いている女に聞こえるように言葉を漏らした。

「…分かりましたか?」

 女は答えた。隠す気は無いらしい。

「そう言う事は誰もが感じるであろう?実際、ボ…私がそなたでも感じる事です。所であなたの名前はなんと?」

『カツーンカツーン』二人の足音だけが石廊下に響き渡る。

「メイと申します。以後御見知りおきください」

「ではメイ。一つ聞きたい事が有る」

「なんでしよう?」

「何故、あんなグェイン国王のような男に従っているのだ?」

 何を?いぶかし気な表情でメイは、

「異な事を…誰もが恐ろしいからにございます……」

「恐ろしい?そんな国王をよく奉って来れましたね……謀反を起こす者はいないのですか?」

「謀反者など居やしませんよ。そんな事を考えるだけの力を持った時には、それこそ国王の偉大さを身を持って痛感する事になりましょうから」

「…立ち上がる者はいないと?」

「立ち上がる必要などございません。強さこそが全てです。あの方がいらっしゃるから今の今までこの国はあったのです」

 それこそ当然な事で有るとでもいうかのようにメイは語った。

 そして、こちらにとでも言うようにカイルの手を引くメイは右に曲がる廊下を指し示した。

「まず、浴場で御くつろぎ下さい…その様子ですと、何日も入られていないでしょうから。それから、貴女様のお部屋に御案内したくございますゆえ…」

 そう言うとカイルは御呂場へと導かれて行く羽目になった。


―戦場に赴くグェイン国王。彼が背負う者達は、ただ一途にも自分達の王を信頼している?―


 湯舟に浸かったカイルは、立ち篭める湯気の中一人考えていた。


―ここ、『キリアートン』では、平和イコール、グェイン国王の政治の仕方。を心から信じているのであろうか?ならば、戦争を招いても誰一人として逆らう事などないかも知れない。いや、まだ成り始めた国一代。その事がすべてそう思い込ませるのかも知れない。もしそうで有るのであれば、これから起こる悲惨な出来事をかの者達はどう思うであろうか?―

「お湯のお加減は如何ですか?」

 控えているメイが声を掛けてくる。

「ありがとう。気持ちの良いお湯です」

 響き渡る声が耳に心地よい。

 カイルは、思う所をズバリ聞いてみたくなった。

「メイ、ところで、平和な国とはどのような国を言うのだと思われます?」

 先程の続き、メイはまたそんな事かという風に、

「我が国、グェイン国王が統治しているこの国こそを言うのに決まっております」

「本心か?」

 カイルは、それが訊きたかった。

 またもや訊き返される。こうも自分の国の事を訊かれると流石に認し気に思いメイは返す。

「ジャスティ様。あなたは一体何が言いたいのですか?あたしは、グェイン国王に貴女様の事を預かった身では有りますが、あまりに不躾ぶしつけな事を訊かれます…もしや、あたしを謀反人に仕立てたいのですか?」

 少し語尾に険が篭っている。それを察知した、

「ごめんなさい。そう言うつもりはないのです…ただ、あなたの事が知りたいと思ったから…」

 カイルは、誤魔化すのに骨を折る思いであった。

「そうですか。ならば結構です」

メイがそう言うと、湯舟に流れ込んで来る水の音だけが辺りに響く。


―メイにとっても、この国にとっても、ボクという存在は招かれざる客なんだな…―


 そう思いながらカイルは暫くゆったりと湯舟に浸かっていた。


 程なくカイルは、メイに導かれこれから先自分が身を置く部屋へと向かったのである。

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