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#16適わない想い

▼適わない想い


 この日をどれだけ待ち望んだことだろう。

 グェインは考えていた。過去の事など、とうの昔に捨て去っていたつもりでは有るが、次から次へと沸き出して来る過去の産物を薙ぎ払いつつ自室の大きな木の椅子に腰掛け笑いを隠しきれない。

 しかし、ただ一つだけ彼の中に不安要因が残った。

 カイルである。


―このまま、あの地に止めていて良いものなのか?―


『サリバーン』のフェンディ皇子の目にはカイルの姿を見たと言う事実が残されている。

 あの場所は、もう知られている。ならば移動させなければならない。例えカイル自身が逃げ出さなくとも、グェインにとっては大切な一つの駒なのである。


―あいつはオレのエゴで手に入れた駒だ。それも特上のな―


 しかし、そう考えれば考える程、グェインの中に憤りが沸き起こる。


―なぜ、逃げなかったのだろう。オレの事を探りたいのか?そして、『エストラーザ』にその情報を?―


 誰もが、やはりそう考えるであろう。それならば、道理が通るからだ。


―もっと身近で、そして、強引にでも引き連れておいた方が良いのかも知れない―


 そうは言ったものの、一度死んでいる人間だ。ここで皆の前に連れだせるものなら…こんなに気にかける事もなかった。

 一度助け出している人間を陽の光の中に出す事は控えたい。


―いっそ、違う人間として引き出そうか?―


 まるで、自分と同じ境遇のように見せかけて……つまり、この国の重要人物として祭り上げる。それが出来るとしたら……


―何を考えているのだオレは…―


 いきなり自分の中で何かが芽生えようとしている感情を、自力で押さえつけた。


―もしそうだとして、それでオレはどうするつもりだというのだ―


 否定と肯定が、入り乱れる。


―感脩と言うものは厄介だ……そんな事さえ忘れてしまったのか?―


 そう考える。しかし相談出来る者さえいない。


―安らぎなど欲しくない―


 そう今までそうしてきた。これから先もそれに頼るつもりはない。そう決心できたからこそ今までやって来れたのだ。


―明日から、オレは戦いの王者になる。それは望んできた事だ。今さら顧みる必要など、これっぽっちもないのだ―


 より高みへと上りはじめる。これはほんの序章に過ぎない。


―不安の芽は摘み取るのに限る!―


 グェインは、決心を固めて立ち上がった。そして静かにこの部屋を後にした。


「もう寝たのか?」

 ギシリと床の軋む音が聞こえてきた。

 それが耳もとに届いた時、始めてカイルは目を醒ました。

「オレの『エゴ』ぎみ?」

 グェインの声が耳もとで聴こえる。

「明日早朝にも、『エストラーザ』と『サリバーン』の連中はこの城に向かって動き始めるだろう。オレの思い通りにこの平穏な世の中は、戦乱の世となる」

「それでは、やはり……」

 カイルは静かにその声の主に向かって覚醒しきれない様子で問いかけた。

 グェインはお気の毒様とでも言いたい表情で、

「カイト皇子は無事、一度『エストラーザ』に帰還された…が、あの身だとまだ自由に動けないであろう」

「カイトが?『エストラーザ』の地を譲ると彼は言ったのか?そんな……」

 カイルは困惑した。

「それはない。これから始まる戦での事だからな……つまり、承諾は戦う事のみ、とあいなった!」

「……」

 黙り込むカイル。

「そこでこれからの、お前の身の振り方だ。どうしたい?」

「一度死んだ身、いかようにも……」

 静寂の暗闇の中、カイルは観念しているように呟く。

 それをグェインは、この暗闇の中でさえカイルの表情を読むがごとく眺めていた。

「……」

「やはり、お主は他の者とは違う。普通懇願して来るものだ…殺さないでくれと」

 今までがそうであった、最後には命を奪われる事を恐れ、命乞いをする者ばかりだった。所詮人間などそんなものよと高を括っていた。

「それはあなたがお決めになるものでしょう……ボクは、今、『キリアートン』の…敵国の中にいるのですから」

 俯くカイル。その様子に、グェインは動揺してしまう。

「…不思議だ……やはり、オレにお前を殺す事が出来ないでいる。これは一体どうした事なんだろうな…お前に生きてもらいたいとそう願う」

 そういうと、カイルのいる所まで歩み寄り、肩を掴む。

「ボクは、何処にいても、不自由な身。いっそ、戦いの場に出て死ねるのであれば本望。しかし、それさえも適わないでいる」

「…お主の目は治る。解毒剤があるからな……そうすれば、見えるようになる」

 カイルがその言葉に反応した。

「この目が見えるようになると?」

「そうだ」

 グェインの表情が曇った。それをカイルが感じる事は無い。

「もし目が治ったらカイル、そなたは如何致す?やはり、我と戦って、対峙すると申すか?」

「…そうしたい……と言えば、あなたの行為を裏切る事になりますね……そんな事ボクには出来ません」

 力強く掴まれた肩の骨が軋む。グェインはその言葉に反応したかのように、力強く握り締めた。まるで、屈辱とでも言うかのごとく。

「恩は返すと言うのか?」

 的外れの言葉にグェインは心から癒されない憤りを感じた。

「何故そんなふうに考えられる?」

「ボクの身の振り方は、今ここにいると言う事で既に決まっているのです。運命には逆らえられません」

「オレなら、運命を変えてやる。と、そう考える……神の領分を超える事になったとしてもだ!」

 有り得ない!グェインは思った。細いカイルの肩がガクガクと揺れる。

「グェイン、あなたは恐ろしい方ですね」

 神をも恐れない闘志。それをヒシヒシ感じた。

「神などいないのだ。どこにもな……ならば何を恐れる必要が有る?」

 信じようとしない者の言葉だった。グェインは、肩に引っ掛けていた物を下ろし、

「この服を着ろ。そしてオレの言うまま、今からお前は女として振る舞え……そうすればこの状況下、何の不利なく動きがとれる」

「どうしても、ボクを助けると?」

「お前にはまだ、やってもらわなければならない事が有るからな」

「やってもらいたいこと?」

「ああ、そうだ。今は言えないが……お前でなくては出来ない事だ」

 そう言うと、グェインは立ち上り、この部屋を後にした。

 暫くすると隣の部屋から、

「着替えすんだら、教えろ。我が部屋にお前を連れて行く」


 カイルは、着替えだと渡されたその布を、ベッドの上に広げた。

 この不自由な目で、何処まで思い通りにこの服を着こなす事ができるのであろうか?初めての経験であった。


―母上は?他の給仕の女の人たちは…どんなふうに着こなしていただろうか?―


 ただでさえ、国が違うのだ。それなりの着こなしの違いだってある。

 ここで、グェインに、『着る事が出来ない』などとは言えない。決して言えないのだ。

「どうした……手伝わないといけないのか?」

 カイルはその言葉に反発する。

「一人で十分。少し黙っていてもらおうか!」


―確か……―


と、思い出せるだけの女性の衣類の着方を思い巡らしながら悪戦苦闘する。


―何となくこれのような……―


 手探りで屠蘇の布を頭から被る。

 程なく広げられた布達はカイルの体を取り巻いた。


「準備は出来た」


 そう言うと、壁伝いに隣の部屋へと向かった。

 暗闇の中、この部屋に取り付けられた蝋燭の火がぼんやりとカイルを照らし出す。

 悪戦苦闘したのが分かる着こなしに、

「やっぱり、手伝った方が良かった様だな」

 と、含み笑いをするグェイン。

「ククク、後ろと前が逆だぞ!」

『えっ』と言うふうにカイルは服を触った。

「どれ、貸してみな……下の方はまあこれでも良いだろう」

 と、一番上に来ている布だけをとってカイルに腕を通させる。

「すまない…」

 なーになんて事ない。とでも言うふうにグェインは、それでも着こなしたカイルを眺めながら微笑んだ。

「髪…その後ろで結んでいる物は外せ」

「いや…これは……」

 カイルが少し焦っているのを横目にグェインは、その結んである金属を取り外す。今まで固まっていたその茶色の髪は、柔らかなウェーブを描きカイルの肩を覆った。

「その髪止めを返して下さい!」

 グェインに迫る勢いでカイルはグェインの腕を掴んでいた。

「何?そんなに大事な物なのか?」

 少し興味深くカイルを観察しているようにじらした。

「ええ、そうです!」

 それ以上は何も言葉を発さない。

「分かった。返してやる。ほら!」

 そう言うと、カイルの手を掴むとそれを握らせる。

「なんとか、化けられそうだな……戻ったら、お前用の侍女を宛がってやろう。」

「そんな事をすれば…ばれてしまうのでは……」

 逆にカイルは焦っていた。

「何も焦る事はないだろう……カイル殿…お主の秘密くらいとうの昔に知り尽くしている」

 カイルの焦りで周りの空気が蠢いた。微妙に揺れている蝋鱈の炎。

 立ち尽くしているカイルが今にも崩れ落ちそうに顔色が蒼白になっていた。

「知っているって…な……何を?」

 沈黙が続く。それは、この夜の静けさにも増して広がりを感じた。

「何を?そのくらい、自分の事なのだから分かるであろう?カイル・ラ・シュメール?」

 グェインは見下ろしながら優越感を感じていた。

「そんな……知っているのは、母上と、周りの侍女と……そしてカイト……」

 ボソボソと咳く。

「オレが、『エストラーザ』に送り込んでいた者が教えてくれたわ」

「ボクの……周りは徹底した防衙の中で。しかも、そうやすやすとは……」

 混乱しているカイルは、今までの『エストラーザ』のことを思っていた。

「だから、大丈夫だ。どういう経緯でお前が男として、生きてきたかは知らぬが安心しろ……

これからオレの元にいる限り何の心配もいらない」

 グェインは、静かにカイルの手を取ると、燭台を持ち外へと促した。

「『キリアートン』では、お前は女として扱ってやるから、安心しろ」

 凍えるような夜の星空の下、二人は秘密の穴を抜け『キリアートン』の城へと歩いた。

 ただ、カイルの胸の内に知られざる恐怖が渦巻いていた。

 山下、遠くで炎が燃え盛っている。それを、カイルは今はまだ知らなかった。


カイルは女の子です。

って、多分、此処で驚かれた方沢山いると思う。。。済みません・・・

男装の麗人風なイメージでここまで書かせていただいておりました。

後書き・・・最終話で書こうかなと思ったのですが、一応此処で書いておこうかなと。。。

もしかして、男の子だとやはり思ってらっしゃってたらごめんなさいm(--)m

って、ずっとそう言う風にしてたから、皆さんやっぱどんでん返し食らってしまったのでは・・・

一応謝罪をこめて。

でも、あたし的には女の子でいて欲しいです望)

まだまだ続きますが、これからも温かくこのキャラたちを見守っていただけると嬉しいです^^

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