#12気掛かり
▼気掛かり
暗い闇の中の夢を見た。
それは、死の臭い立つ草原に、二人の少年が対峙している。そんな夢だった。
それを外から見ているオレは、そんな二人をどこかで見た事あるような気がして、ただ眺めていた。
白い服を着た少年と、黒い服の少年。
暫くすると周りが明るくなり、次第に辺りの情景がはっきりして来た。
突如、それが何なのか?に気が付き吐き気がした。
周りには、積み重なるように首のない死体がゴロゴロとしていたからだった。
すぐにその視界から逃れようと視線をそらす。
目をそらした先には、またあの二人の光景が。すると、一瞬『キラリ』と光ったのが判った。それは、二人の間に差し出された剣。
黒服を着た少年が、先に切り掛かる。それを制するように白い服を着た少年が受け止めた。
それの繰り返しが永遠に暫く続く。
オレはただ見ていた。声は発したくても発せられなかった。
―何をそんなにこの二人はいがみ合っているのだろう?―
特に黒服の少年……闇雲にただ突進してる感がある。
『カキーン、カキーン』
辺りに響き渡る金属音。
どうやら、自服の少年が押されているようである。
かすかに声が聴こえてきた。どこかで聴いた事のある声。
「そろそろ諦めて、オレに切られろ!」
「そういう訳にはいかない。ここでオレが引けば死んでいった者達が浮かばれない!」
こちらの少年は金髪をなびかせ、力強い言葉を発していた。そう、どちらも聴き覚えがあるような声。
「カイトよ、それがお前の本心なのか?」
黒い服の少年が尋ねる。
「当然だ!」
白い服の少年が答える。
「ならば覚悟しろ!お前に勝機はない!」
続けて追い込もうとしている。
「グェイン!勝機は、最後までやらねば分からぬ!」
オレは、この二つの名前に覚えがあった。
―カイト?グェイン?―
我が名を忘れ、ただ浮遊してこの情景見ている……
「これでどうだ!」
カイトと言う少年の横っ腹に剣が差し出されるが、それを間一髪避ける。
しかし、またまた押されていくだけでこの勝負あったかと思われた時、
「この勝負、待った!」
と、票毛色の髪の少年が割って入って来た。
「カイト、グェイン、こんな事して、何の実がある!」
中座させられる二人。オレはハラハラしながらそれを見ていた。
「決まっている。富みと栄誉のためだ!」
グェインと呼ばれた少年が何を今さら……というふうに、その少年を見据えて答える。
「こんな状態で……何が富みと栄誉だ!誰も居なくなったんだぞ!」
攻め立てる栗色の髪の少年。
「カイル……」
―カイル…?―
その名前を聴いて何故だか胸に痛みが走った。
程なくして、目の前が真っ白になる。
『ピチョーン』
何処からか水滴が落ちる音を聴いた。そしてフェードインしてくる声を聴いた。
「カイト皇子!カイト皇子!」
その声に引き戻されるようにオレの意職は覚醒し始める。暗闇に微かに聞こえる声で。
そしてオレは目を開いた。
「カイト皇子!何と、ご無事でしたか!」
終に現実に引き戻された。
「かなり魘されていたようですが……気付かれて何よりです」
どうやら鉄格子の外からの声であるようだ。
「誰なんだ……?」
『キリアートン』の兵に捕まりそのまま牢獄に入れられてから、一体、何日?それともそう経っていないのか?オレには時間の観念に乏しかった。
「私は、『サリバーン』のフェンディ皇子の密偵で、ハイルと申します。あなたが、この場所に入ってから一日が経った。という所でしょうか!」
「『サリバーン』の…?それでは、我が国に加勢の手が回ったというのか?」
とオレ何となく判るような……と問う。
「そうです。『エストラーザ』の危機は我が国の危機!今に、我が国のフェンディ皇子がやって参ります。御安心を……」
その男、ハイルは安心してくださいとでも言うかのように答える。
「暫くこのまま我慢なさって下さい。必ずお助け致します」
すると『ガシャガシャ』と言う鎧を擦るような音が聴こえてきた。それを切っ掛けに、近付いて来た兵から身を隠すようにこの場を去っていった。
―『サリバーン』とは何処の国なんだ?何だか聴いた事のある名前なのにはっきりと思い出せない―
オレは暫く考えていた。そして、再びカイルの事が頭に浮かんだ。
―オレにとって『エストラーザ』という国。そしてカイル―
未だこの世界の住人となってから、一週間も経っていないのに……この世界が大事な何かのように感じ始めている。
オレが、カイト皇子という一個人である事実がこの世界の秩序なんだと思い始めてきていた。余りにもリアルすぎる。これは、変えようのない事実なんだ…!と改めて自覚してみた。
―オレはこの先どうなってしまうんだろうか?……―
今のオレには頭では理解できない事が、実際、体では反応している事でもう今の状況下でハッキリと分かった。馬に等乗れないはずだたのに……等色々と。
ならば、この世界のオレは剣術くらいは嗜んでいるだろう。と開き直る。
自分自身、剣術を嗜んでいたような覚えがあるし。だからだろうか?少しは見当はついている。
頭でも理解出来る事があって助かったと思った。
そして、ふと思い出した。既に一つ、失ってしまった者が有るのだと。
―でも、もう、カイルは居ない―
この地に来て、もう守るべき者が居なくなっている気がして来た。
―オレはどうしてここまでカイルの事を案じているのか?―
あの時、投げ出された首の中にカイルの首を見た瞬間、確かに逆上する程の怒りを感じた。そして今では絶望を感じている。
―カイルはもう居ない―
本当はカイル自身に否定して欲しかった……しかしもうその相手は居ない。
―誰かこのオレを救ってくれ!―
何故なのか判らないが、切に心の底からそう思った。
―オレのせいで、カイルは…―
カイルの面影が脳裏を駆け巡る。
しかし、気掛かりはそれだけに留まらない。
―『サリバーン』の使者としてやって来る一行の身に何か怒らねば良いが、このオレのように……―
フェンディ皇子、彼の者はこの状況下、如何なる策を講じているというのだろうか?
自分のように、おろかな行為はしないであろうとは判っていても心配になる。
―どうか無事にこの国から出ていかれますように……―
オレは自分の心配よりも、フェンディ皇子の身を案じた。
一度入ったら出るもの適わず……
何だかこの国はそんな国のように感じられた。
本当に運命は変えられないのか?この世界の教えの様に……
そうはなりたくはない。
運命は切り開ける。
オレはそう思いたかった……




