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#11再生

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「気が付いたか?」

 カイルにとって、目を開いても何も変わらない暗闇。

「昔、お前に助けられた者だ。今回だけは特別お前を救ってやる。この近くにある山荘にお前のための場所を作ってやった。そこで生涯生活しろ」

「何故、ボクを助ける様な事を?」

 幽かに動いた影に向かってカイルは問う。

「言っただろう。借りを返すためだ」

「それだけの為とは思えない。何を企んでいる?」

 この声の主がグェインである事を悟り、残酷な事この上もない人物と謳われる、この男に助けられるとはカイルには納得が出来なかった。

「大きな声を出すな。この事は、オレと、お前の間にしか用いられない秘密だ!」

「何を言っている!?」

「いいから静にしろ!」

『キーッ、ガチャン』扉の開く音。

 暫くすると、白んだ空気に触れる。鳥のさえずりが聴こえた。

「オレは、一日足りとも忘れる事が出来なかった。グェイン・マイル・ド・キイル。この名をお前は忘れているかも知れないが、このオレはお前の名を忘れる事など出来なかった。カイル・ラ・シュメールよ」

「!」

 見る見るカイルの驚いた顔がグェインの眼に見て取れた。

「キミは、あの時の?」

「もう少しで着く。話は後だ……」

 グェインの手の平を右手に感じながら、カイルは導かれるまま歩いていった。

『スーッ、ガラッ』乾いた木製の物が擦れるような音がした。

「ここがお前の過ごす世界だ。たまに来てやる。さすがに食べるものくらいは、毎日用意してやるが……」

 グェインが、カイルの両腕を掴み近くにある椅子に座らせるように導いた。

「ここに椅子」

 そして、そこからという風に手を使って教えた。

「ここにベッドがある。この小屋にある生活に必要なものはこのくらいだ」

 薄くて硬い、布の手触りを感じた。

「この場を提供してくれるのか?」

「そうだ」

 カイルは考えるように顎下で手を組んだ。

「グェイン国王。あなたの考えてる事、それは一体なんなのだ?」

「カイル、お前を助ける事だ」

「助ける?」

「そうだ」

 ますます分からない。

「これでキミに、何の得があるんだ?」

「得?」

 グェインがベッドに腰をおろす。

『ギシッ』と鈍い、木が軋む音が聴こえた。

「オレにとっての得は、カイルと言う人物におつりが来る程の貸しを作る事くらいだな」

「それは、これからと言う意昧か?」

 次には冷めたような顔つきで、カイルはグェインがいるであろう方を見る。

「でも、オレはそれを貸しだなんて思わない」

 グェインの眼はまるで愛おしいようにカイルを見つめていた。でもそんな事は、カイルには判らない。

「オレ自身に対しての、これはエゴだ」

 さっぱり分からない。この男の言っていること自体、全てが矛盾している。

「エゴ?」

「そうだ。これはオレのエゴなんだ」

 一瞬の沈黙。隙間から流れ込む冷たい風。それが肌に感じられた。

「過去の自分と、今の自分を愛して止まないオレの、罪と罰をこんなふうに補おうという、なんとも虚しいエゴだ!」


―このグェインの心の内に潜む悲しい何かがそうさせているというのか?―


 それが、今カイルが幽かに感じたこと。

 グェインは手の平で頭を抱える様に俯いた。

「オレには弟がいた。お前の様に義弟という駅ではないのだがな……」

 遠くで鳴る、鐘の音が聴こえてきた。

「オレは実の弟をこの手で殺めてしまった。この国を愛していた弟をな!」

 鳴り響く鐘の音。

「あいつは、平和を望んでいた。しかしそれはこの手で葬らなければならなかった。聴こえるだろう?あれは、オレの弟の死を知らせる鐘の音だ」

 暫く静かに聴き入るようにグェインは黙った。

「おれたち兄弟は、双子の兄弟だった」

「双…子……」

 それを聴いたカイルの顔に、不思瞳な影が落ちる。

「そうだ。知っての通り、双子というのは、凶兆の証だ。オレたち兄弟にかせられた証。産まれた時、兄であるオレは……未だ『キリアートン』の国を起こす前のオレは……生きる証をもらう事が出来なかった」

「生きる証?」

 カイルの言葉を無視するかのようにグェインは、話の先を続ける。

「母は、兄として産まれたこのオレを殺そうと言ったらしいが、父はこの事を、政治的目的で生かした。利用出来る全ての事……あいつは、それをオレに求めたんだ!」

 窮屈な場所でもがいている大きな生き物のような……そんな印象をカイルは感じた。

「オレはそれが許せなかった。飽くまでオレは弟の影としか生きられないのだからな……」

「影…それでは、『キリアートン』を建てたのは…いったい……」

「オレ達の名前は一つしかない」

「えっ?」

 それは一体どう言う事なのだ?

「グェイン・マイル・ド・キイルこの名前しかないんだ」

 たった一つの名前。それは人間の生きる証を排除した印といえよう。

「こんな事を、君は何故敵国のこのボクに話す?」

 カイルは、思った。これは『キリアトーン』の極秘事項なのではないか?と。

「だからエゴなんだ。このオレの……」

 十三回日の鐘の音が鳴り終わった。

「カイル。お前の事はいろんな手段を使って調べた。お前の周りにオレの間者を差し向けてまでな……」

『ガタツ』と椅子が揺れるほど驚カイルは驚いた。そこまでして?

「そして思った。お前は、義弟の事を妬ましいと思った事はなかったのか?只でさえ側室の子として産まれ、あまつさえ目を見えなくしてしまった……そんな義弟を憎いと思った事はないのか?」

 カイルは、グェインの真っ直ぐな視線を感じていた。

「それは…ボクに、カイト皇子のように産まれていれば良かった……と、そう言わせたいんですか?」

 カイルの顔が鈍い色で翳った。

「羨ましいと思った事はないのか?」

 グェイン国王が知りたかったのは、こんな事だったのか?

「羨ましい…と思わなかったと言えば嘘になる……だけどボクは、カイトの事を憎いと思った事は一度だってない!」

 何も映さない、緑色の大きな瞳が力強く揺らいだ。

「それがオレには分からない……何故そんなに、他人に優しくなれるのだ?」

 今ここに、全く違う道を選んだ人物が相対していた。

「守りたいと思う者達がいるから……そう言ったら分かるだろうか?」

「守りたい者?」

 グェインの心に過ったものがなんだったのか分からないが……微かに彼の心に何かが生まれているようだった。

「そう。守りたい者……それがあるからボクは強くなれた。今だって守りたいとそう思っている」

 考えるようにグェインは頭を下に向けた。

「オレには無い。自分を保つので精一杯だ……それがお前とオレの違いだと言うのか?」

 それは、まるで自分が誰なのかまだ分かっていない……そんな子供に見受けられる。

「ボクは、この世の平和と、幸せを夢に見る。それは、どんなに小さくても、それがボクにとっての守りたいものであれば、毎日が楽しいから……幸せな気分になるんだ……キミはこういう気持ちは感じないの?」

 どうしてだろうか?あやすようにカイルはグェインに問いかけてしまった。

「幸せを感じた事など無い。すべて、自分のためになる事しか頭に無いからな…お前は……まるでオレの弟のような事を言う。あいつは、平和な国を作りたがっていた……しかし、そんなものなど何も面自く無いではないか!」

 グェインは、吐き捨てるように言った。そんなものが何だというのだと!

「お、面自くない?」

 その言葉にカイルは、憤りを感じてしまった。面白いから、面白くないから。そんな理由で国を、民を従える?そんなことが有って良い物では無い!

「そうだ、毎日同じ事の繰リ替えしで、一体何が面白いと言うのだ?オレには理解できない……」

「それは、君が産まれ付いて、ずっと苦しい目にあっていないからそう思うんだ!」

 その言葉に、グェインの目に妖しい光が揺らぐ。

「苦しい目にあってきていないだと?!」

「安らぎを感じる暇なく、自分を不幸だとしか思わずに……甘えてきたんだ!」

「まるで説教を受けてる様だな……」

 静かに時が流れていく。これは、意味のある時間なのか?グェインはふと考えた。

「説教のつもりなど無い…ただキミは、逆らいきれない運命の中で生き、そして、まだ知らない優しさを欲しがっている…子供のように戸惑っているようにボクには感じられる。だから探してみればいいんじゃ無いかなと思う。自分にとって大切なモノがなんなのかを……」

 まるで、子供に相談されている……そんな気がしてならない。

「オレは、子供なんかじゃない。既に、一国の『主』だ!」

 そう言うグェインが子供だと、やはりカイルは思った。そして変な気分に陥る。


―何故神はこんな事をボクにさせるのか―


「今日はここまでだ。明日また来る」

 話はここまでだ……と言うように急にグェインは腰を上げた。

『ギシッ』と、言う音が聴こえたかと思うと、『スー、ガラッ、タンッ』そして、少しだけ感じた光の海が再び闇に閉ざされた。

 カイルは思った。


―ボクにできること。それはここにいること。ただそれだけなんだ……―


 時は余りにも早く動いていた……

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