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#10フェンディ

▼フェンディ


 時間は前後することになる。

『エストラーザ一に着き、カイト皇子との謁見を終え滞在のための部屋を案内された『サリバーン』の一行は、明日からの『キリアートン』の出方を待つべく体を休めていた。

「父上、『キリアートン』は、この申し出に答えてくるでしょうか?」

 と、冷静な目で見据えたフェンディは、父ハザウェイに問いかけた。

「そうであれはよいが……」

 良い表情を見せない父ハザウェイに、

「と、申されますと?」

 問いかけた。

 用意された椅子に腰掛けた二人はお互いを確認するかのごとく対峙していた。

「『キリアートン』のグェイン国王は、何か確信を持って行動している感じがする。余りにも事の運びが不自然過ぎるのだ」

「確かに、今回の不可侵条約を簡単に見過ぎている気がしますね。それに、『エストラーザ』の国内の事を把握しすぎている気がします」

 フェンディは考えるように首を動かす。

「明日『キリアートン』が動かなければ、カイト皇子はどう出るのでしょうか?それが、この先鍵になる気がします」

 国王ハザウェイも同感だと頷く。

「全ては、明日はっきりするであろう」

「はい」


 かくして、『キリアートン』からの使者は来なかった。その事にフェンディは問う。

「このまま、カイト皇子をゆかせて大丈夫なのでしょうか?」

 それはカイト皇子の判断が下されて、『サリバーン』の国王の耳に入って間もなくの事であった。

「わからん。が、しかしこのまま動かないでいるのは不味い。人質を取られている以上、『エストラーザ』にがないのだからな……」

 カイルの事を聞かされている以上、カイト皇子が動かざる負えないのだ。

「何とかならないものでしょうか?出来れば力をお貸ししたいのですが、好い方法が思い浮かばない以上『サリバーン』も動けません」

「確かに、事情が事情なだけに手が出せない。ここは、カイト皇子に任せるしかあるまいな……」

 従って、どう仕様もならないこの状況を嘆いたものの、『サリバーン』に手はないのである。

「父上、もしカイト皇子の身に何か起こるようでしたら、私を『キリアートン』に派遣させて下さい。出来れば、カイト皇子の後をついていきたいのですが、それが出来ないのであれば、いた仕方ありません」

 この申し出を聞いてハザウェイは疑問符を投げかけた。

「何か策でもあるのか?」

「いえ。そう言う訳ではございませんが……ただ、『キリアートン』のグェイン国王に一度会ってみたくございます。会って、色々尋ねてみたい事がありますので……」

「グェイン国王は、残虐非道な人物だと聞く。それなのにそうやすやす、そなたを奴の元に遣りたくはないのだが」

 フェンディの身を案ずるハザウェイの気持ちがそのまま言葉として発せられた。

「いえ、ご安心下さい。みすみす罠にかかろうなどとは思っておりません。供の者と、間者を引き連れて参ります。実は、もしもの時のために武力の温存をして参りました。できれば、役立たせたいのです」

 息子フェンディの言葉に意外な面が見えた。まさかそのようなことを視野に入れ、事を運んでいるとは思っていなかったからであった。

「お主がそこまで言うのなら、考えておこう。ただし、無茶な事だけはするな!」

「心得ております」

 こうして、『サリバーン』の、フェンディ皇子の決心が固まり、時は流れ、カイト皇子の事が『エストラーザ』中に流れた頃、カイト皇子奪還の幕が、切って下ろされたのである。

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