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零条  作者: しゃこ
1/2

いち

私はてっきり、自分だけが傷ついているものばかりだとたかをくくっていた。



今日で何度目の浮気現場発覚なのだろうか。


ドアの向こうから聞こえてくる音に思わず立ちすくんでしまう。


もう少し静かにコトをしてくれればいいものの。


思い出すだけでも彼は既に10以上。幸いなのは毎回違う女である事、


そして、私に隠したがっているという事だ。


まだ、少しでも私を思ってくれているのではないだろうかと勘違いが出来る。


彼は知らないのだろう、私が、彼と関係を持った物達から受け取っているメッセージの数々を。


彼は自信の携帯をロックしないから、彼女である私などいとも簡単に割り出せるという事。


安心そうに、浮気相手の隣で寝ている彼を幾度となく写真で送られてきた事。


毎回違う人なのだから、まあ彼もたいした者だろう。


と言ってはいるが、実際私にはそんな余裕は全くない。


もともとあまり感情を出すのが得意でない分、


私の苛立や、虚しさは彼には届いていない、そう感じている。


なぜなら今も、彼はきっと、私に特別優しい。 


その罪悪感のない、慈しみしか向けてくれなかった瞳が余計に痛かった。


初めてあった時から、彼は優しかった。


表情のあまり出ない私の、僅かながらの変化を見分け取れる人だった。 



大事にされていると


過信していた。


だからこそ、一通のメールを見てしまった時、心臓が破裂しそうになった。



普段あまり、たいした変化のない私の表情が、心が、そのときは豪雨のように、または台風のように荒れていたに違いないと豪語出来る。


そして、それほどに私は彼を愛していたと、その時になって気づく程の、ゆっくりとした恋だったが、


それでも彼は私に取って、今も一番だ。



でもだから、もう限界だった。


今日、終止符を打ちたい。その為に、ここに来た。


今でも、


彼はそれでも私を優先してくれるから、私がしたい、と言った事を断られた事はない。


だからこそ、今日、彼の家に来たことを、彼には伝えていなかった。


ばれていないと思っている彼に、突きつけたかった、私が今まで知っていたという事実を。


そうして、彼に真実を話してもらいたかった。


私が信じていた彼が、嘘なのかもしれないと、私は彼の事を全く理解出来なかった、


という言い訳が欲しかった。


それなのに、けれど、私は玄関のチャイムを鳴らせない。


合鍵ももっているのに、空けられない。


足の力が抜ける、目の前が歪む、声が溶けていく。


目の前の出来事を拒絶する。 


耳鳴りが酷く、まるで私自身がこの場にとけ込んでいくかのようだ。 


体が、私の声を全身で拒絶している。 


まだ、私は彼を、諦めきれない。


どうしよう、どうすればいいのだろう。



雨の音が、酷くうるさい。


それなのに、心と酷く同期している。


リズミカルな音色が、うるさく、そして心地よくなる。


決めた。


私は、ある決断とともに、チャイムを鳴らした。











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