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第二話 カンユウの男

 けたたたましい目覚まし時計の音が眠っている意識に働き掛ける。

 窓からはカーテン越しに光がさしこんでいる。

 体が重い。昨日の疲れが、抜けていないようだ。事実、あんなグロい物体を目のあたりにした衝撃の後に、あの深夜までのバイトはかなり堪えた。

 ゆっくりと体を起こし、身支度を整える。

 朝のニュースを見るともなしに見ながら、朝飯をたいらげた。双子座は何位かね。昨日がついてない日なら、今日くらいついていてもいいだろう。

 外に出て、時計に目を移す。バスの時間までは、まだあるようだ。

 アパートの外に見慣れない男が立っていた。近所の人間ではない。まぁ、珍しい事でもない。

 グレーのスーツにジュラルミンケースを持った男は、僕を見るなり、ゆっくりと近付いてきた。歳は二十七、八。よくみると、右目が腫れ、青痣になっている。

 道がわからないのだろうか。この辺りは道が複雑なので、道を尋ねられる事はよくあるのだ。

 僕が、近所の地図情報を頭の中で再生していると、痣の男は僕に話かけてきた。

「氷室尚人さん、ですね?」

 誰だ? あっさりと名前を尋ねられたので、遠い親戚のおじさんか何かだと思った。

「えぇ。そうですが」

「貴方は原生生物研究会に所属していますね?」

 原生生物研究会とは、あのサークルの名前である。実体はUMA研究会と化しているが。

 しかし、サークル名まで問われる事で、ますます男が誰なのか、わからなくなった。

「すみませんが、どちら様ですか?」

 男はハッとした様に、答えた。

「すみません。質問がぶしつけでしたね。私は、宗教法人『あけの明星』能動派に属する、望月尚人という者です」

 望月と名乗る男は、ゴソゴソと内ポケットから名刺を取り出し、僕に渡した。

「貴方を訪ねたのは、折りいったお願いがあるからです」

 いち大学生に頼み事をする、宗教団体。明らかに怪しい。新手の勧誘か。

 僕があからさまに、怪しむ目線を向けていたのか、望月は両手を左右に振りながら言った。

「怪しむのは無理もありませんが、話だけでも聞いてください。悪い話ではありませんよ」

 バスの時間が迫っている。さっさと話を付けて行かなければ。

「何です? お願いとは」

「貴方は最近、サークル活動でとある標本を見た筈です。あの指の標本を」

 あの灰色の指か? なぜこの男が、あの標本の事を知っている。荒川先生は誰にも話すなと言っていたが。

 望月は神妙な面持ちで言った。

「単刀直入に言いましょう。我々は、あの指が欲しいのです。貴方にしてもらいたい事は、あれを偽物と摩り替え、本物を我々に渡して欲しいのです」

 驚いた。

「は? あんなものが欲しいんですか?」

「えぇ。もちろん、タダでとは言いません。それなりの報酬は用意してあります」 望月はおもむろにジュラルミンケースに手をかけ、ツメを外すと中から大きく膨らんだ茶色の封筒を取り出した。

 封筒を開けると、中には札束が1、2、3……、10束入っている。

「一千万入っています。貴方が無事、私に標本を届けたあかつきには、これらを全て貴方に差し上げます」

 にわかには信じられない額だ。あんな気味の悪いだけの標本が一千万? いや、あの標本が只グロいだけの代物じゃないとでもいうのか。

 信じられない。いや、信じたくない。

「お引き受け下さいますか? 無理強いはしたくありませんが、我々には貴方以外あてがないのです」

 男が迫る。

 いや、待て。わざわざ、一千万払って僕にやらせる必要があるのか?

 うちの大学は私立の三流大学だ。セキュリティもそれほど高いとはいえないだろう。

 よそ者がふらふらと、入り込み標本のひとつやふたつ持ってくる事など、簡単な筈だ。

 警備員が学生や教授の顔をひとり一人覚えているわけもない。

「なぜ、一千万も支払って僕なんかにやらせるんです。おたくのうちの誰かが、適当に忍び込んで取ってくればいいだけの話じゃないですか」

 望月はなにやらニヤけながら答えた。

「そう思うのは当然ですね。今の貴方の立場では。我々の動きは誰にも悟られてはならないのです。あの標本を欲している人間は我々だけではないのです。不特定多数の人間があれを狙っているのです。

畑中が、あれをわざわざ荒川に預けたのは、盗まれる危険性を察知したからです。今、あれが荒川のもとにあると知っている組織は、そう多くないと思いますが、油断はできません。大きな組織である我々はみだりに動くことが出来ないのです。その点、貴方が標本に近い立場にあるのは、他の組織にも最早自明です。貴方が標本について何も知らない一般人であることも。つまり貴方に接触し、標本を獲らせることが最も手っ取り早い方法だと我々は考えたのです」

 望月は自信ありげな様子だ。根拠はわからない。

 というか、この男はどこまで事情を知っているんだ。

 一方で、僕は全く関係のないことを考えていた。一千万の使い道である。バイトの月給が四万とすると、年間で約五十万。大学四年間で、二百万か。一千万あれば、あのバイトも辞められる。奨学金だって解約できる。マイカーだって買えるかもしれない。

 標本を盗み出すだけ。あの指一本を盗むだけで、大学生活は大分楽になる。

 確かに悪い話じゃない気がする。

「貴方にリスクはありません」

 突然、望月は語った。

「もし貴方が失敗したとしても、我々が一千万を貴方に押し払いしないだけで、貴方は元の生活に戻るだけです。基が標本ですし、持ってくる最中に誰かに見付かったとしても、貴方は学生ですから、実験で使うとでも言っておけば、問題ないでしょう。貴方にリスクは無いのです」

 男は一歩、歩み寄り言った。

「我々は貴方に委ねるしかないのです。選択権は貴方にあります」

 受けてもいい話だと思った。もちろん騙されている可能性も捨てきれない。しかし単に詐欺師だとすれば、いろいろと詳しすぎると思う。いや、そう僕に思わせているのか。

 何にしても今、答えを出すことは難しい。

「少し考えさせてくれませんか?」

 望月は大きく頷き、

「はい。では、後ほど名刺の連絡先にお電話下さい。ただし、期限を設けさせて下さい。我々が貴方に接触したということが、他にわれるまえに事を片付けなければなりませんから。本日の深夜十二時を期限とします。それまでになんらかの答えを用意し、お電話下さい」

 望月はそう言い残し、そそくさと何処かへ言ってしまった。

 時計を見ると、既に一現目が始まっていた。

 ぼんやりと、今朝の占いを思い返す。……はて、何だったっけ。

 どうでもいいか。

 僕はちんたらと、学校に向かうことにした。

何度か推敲しましたが、文章的なボロがかなり出てきました。初めて小説というものを書きましたが、改めて自分の語彙の少なさや、表現力のなさを実感しました。読みづらいですが、よろしくお願いします。

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