プロローグ
打ちっぱなしのコンクリの壁で四方は灰色に囲まれている。中央には、古臭い机にスタンドライト。そこに向かい合うように、パイプ椅子がおかれ、僕と男がそれぞれ座っている。
少ない光源のうちのひとつである、壁の高い位置にある小さな小窓には、ご丁寧に鉄格子までかけられている。
グレーのスーツを着た中年の男は、威圧的な視線を絶えず僕に向けている。
疑われている。しかし、いかなる弁明も彼には信じてもらえそうにない。
だが、再び僕は事の起こりを話す事にした。分かっている。この男の様な一般人には、到底理解してもらえない事を。
しかし、今の僕には、それくらいの事しか出来なかった。僕は超人でも怪人でもないからだ。
「そろそろ、本当の事を話したらどうだ。田口順平を惨殺死体を最初に発見したのは君だろう。冗談ばかり言っていると、君の疑いがますます深くなるばかりだよ。氷室尚人くん」
男は僕の肩をポンポンと叩きながら言った。
「だから、さっきから何度も言っているじゃないですか。あの黒服の女がやったに違いないのです。信じて下さい」
男は肩をすくめ、座った目付きで僕を見つめた。不服だ。こんな態度をとられる覚えはない。
「では、最初からお話しますよ。どうせ、信じてはくれないのでしょうけど」
一瞬、男は静止し、わざとらしく溜め息をはいてみせた。 僕は事の次第を説明するため、最近起こった出来事を頭の中で整理した。
まず最初に妙な事が起こったのは、あの標本に出会ってからである。