人喰い蜂
エメラルドゴキブリバチという、ゴキブリ嫌いでさえゴキブリを哀れに思わせる恐ろしい蜂をご存知でしょうか?
まぁこの蜂、綺麗な見た目を裏切って、やることなすこと恐ろしい。
ゴキブリを奴隷化し巣穴に連れて行くと、腹に卵を産みつけ、巣穴の入り口に土をかけ閉じてしまうと、蜂は次の哀れな犠牲を探しに行きます。
哀れなゴキブリは自ら自由に動き回れるにも関わらず、逃げることなくじっとしています。
卵が孵り、生まれながらに餌の食べ方を知っている幼虫に内臓を食い荒らされようと、ただじっとしています。
自らの意思を殺され、生きながら内臓を食い荒らされ、寄生虫のために自分の身体を提供し続けるゴキブリ。なんと哀れなんでしょう。
一週間内臓を食い荒らされ、幼虫が蛹となる時、ゴキブリはひっそりと生を終えます。
その何週間後、成虫となったエメラルドゴキブリバチは、荒々しく腹を食い破り、外へと出て行きます。
これが人間だったらどうでしょう?
なかなかに面白いと思うのですが。
え?面白い訳ないだろう?
まぁまぁ、そう仰らずに。所詮、単なる想像ですから。
どうぞ、素晴らしく馬鹿な想像にお付き合いください。
さてさて、この物語の哀れな主人公を麻衣としましょう。
彼氏にふられてしまい、いつか彼氏が帰ってきてくれると妄想し続け引きこもり続ける、イタイ女です。
破綻した恋愛にしがみつくほど、醜いモノはないですよね。
なぜ、そこまで恋愛などにしがみつけるのか、理解し難いです。
おっと、話を戻しましょう。
麻衣はいつも通り彼氏との思い出のアルバムを見ながら、彼氏が帰ってくるのを待っています。
働かずに金はどうしているのかなどは、省きましょう。
まぁ、親の臑齧り、穀潰しとでも認識しておいてください。
インターホンが鳴り、急いで玄関を開けます。
頼んでおいたピザが来たようです。しかし、本人は頼んだにも関わらず、少し残念そうな表情をしてますね。
きっと彼氏だと期待したのでしょう。
麻衣はさっさと金を払いピザを受け取り部屋に引きこもります。
この間に悪魔のような蜂が紛れ込んだなど、夢にも思わないでしょう。
ああ、ご安心あれ。そのような蜂は日本にはいませんから。
恐ろしい蜂が紛れ込んだにも関わらず、麻衣は暢気にぼーっとテレビを見ています。
蜂はというと、物影に隠れてじっとしています。
潰されてしまっては元も子もないですからね。
チャンスを待ちじっとしています。
夜になり、麻衣が寝静まった頃。
蜂がようやく動き出しました。
無防備に露わとなっている腹に止まります。
そして、針を出しそのままブッスリ。容赦なく卵を送り込んでいきます。
卵を産みつけ終えた蜂は、針を抜き飛び立とうとした瞬間、なんと麻衣の手によって叩き潰されてしまいました。
まぁ、卵を産みつけられた後なので遅いですが。
腹の中では容赦なく、卵が成長し続けます。
卵が孵るまでの三日間、勿論麻衣は気づくことなく、いつも通りの日常を送ります。
腹の中で、自らを食い潰す寄生虫が生まれることなど知らずに。
そして四日後、麻衣は便秘に首を傾げます。
便通だけはすこぶるよかったので疑問には思いましたが、ちょっと身体の調子が悪いだけだろうとそれ以上気にすることはありません。
まぁ、実際は腹の中で成長し続ける恐ろしい数の幼虫達が、大腸を食い尽くしたからなのですが。
恐ろしい数といっても、四十匹ほどですがね。
幼虫達は常に新鮮な餌を食べたいので、成虫となるまで餌を生かしたまま、食べられていることなど感づかせることなく、静かに宿主を食い潰していきます。
成虫となれば用済みなので、出て行く時は遠慮なしですが。
さてさて、成虫となったエメラルドゴキブリバチに腹を食い破られる瞬間が楽しみですね。
さてさて、蜂が蛹となり四週間が経ちました。
そろそろ蛹が孵化し、腹を食い破って出てくる時期です。
蛹となった時点で麻衣の内臓は心臓と肺、胃を残しほとんど食い荒らされてしまっており、最早手遅れです。
蜂を安全に孵化させるためだけに、生きているようなものです。
蜂も賢いですね。幼虫を安全に孵化させるために心臓と肺を食べずに残すなど。
胃を残したのは、流石に胃酸はこの蜂でも浴びてしまえば一大事だからでしょう。
胃が残っているので食べることは出来ますが、腸がないせいで栄養吸収と排泄が出来ないので、老廃物が溜まるばかりです。
病院に行くなりすればいいものを、やはり彼氏が帰ってくることを考えると病院さえ行けません。
まぁ、そうしているうちに、蜂に腹を食い破られる瞬間が近づいていきます。
最初はチクッとした痛みでした。針などでつついたような。
しかし、痛みが徐々に強くなっていきます。
痛みを感じてから数分も経つと、悶えるほどの激痛に変わっていきます。
身体の中では蜂が腹だけではなく、新たなる出口を見つけ食い破ろうとしています。
流石の麻衣も、やっと大変なことになっていると気づき、救急車を呼ぶために電話をかけます。
もう手遅れも手遅れですが。
声を出そうとした瞬間、声の代わりに血が噴き出しました。
喉に強烈な違和感が走り、咳き込みます。
血と共に出てきたのは、エメラルドグリーンをした綺麗な蜂。
気管支を食い破った蜂は、食い破った場所から我先にと雪崩れ込んでいきます。
そして腹の皮膚の下から、血が滲み始めました。
いよいよ身体に力が入らなくなり、床に寝転がり腹を押さえ悶え苦しみます。
手に何か触れたのを感じ腹を見てみると、蜂の身体が半分腹から飛び出していました。
蜂が完全に出ると、次の蜂が顔を出します。
早く外に出たい蜂は、更に穴を広げていきます。
麻衣は消えゆく意識の中、腹から飛び出していく蜂をただ見ているしかありません。
救急車が到着した頃には、麻衣は死体となっていました。
さぞかし驚いたことでしょう。
蜂が人間の死体を食っているのですから。
腹は食い破られ、目も食われ眼窩は窪み、流石の救急隊員でも思わず嘔吐しかけたくらいですから。
まぁ、このようなこと現実で起こり得ませんが、このような惨めな人生を送らぬよう気をつけましょう。
では、また違う物語でお会いしましょう。
人喰い蜂 了