とある少年の話-或いは猫の話-
ぼくはねこだ。白と黒の綺麗な毛並みが自慢のねこだ。
名前はナナ。七月七日に拾われたから、ナナ。
ぼくは野良猫だった。それを拾ってくれたのが、ご主人だった。
とても優しい、虫さえ殺せない優しい人だった。
なのに、なのに、あんなに優しいご主人が人を殺した。
人を一人、殺した。
自分を、殺した。
自分を殺して、殺人者になった。
自分を殺さなきゃならないほどご主人を追い詰めたのは、いじめだった。
めでぃあ、というものに晒し者にされるご主人。
これ見よがしに悲しむ、家族。
ぼくから言わせれば、おとうさんもおかあさんも、おねえちゃんもおとうとも、皆悪い。
てれびの向こうで、今日もご主人は晒し者にされてる。
てれびの向こうで、今日も知らないだれかが、いじめは駄目だとか命は大切にしなきゃ駄目だとか気づいてあげれなかったのかとか、綺麗事ばかり言ってる。言うのはタダだもんね。
皆、やっぱり変だ。
ご主人が死んでから一年も経ってるのに、なんで今頃なの?
なんで今頃騒ぐの?
今まで、ご主人が死んでも見向きもしなかったくせに。
なんで、今になって。遅すぎるよ。
どうして死んでからじゃないと、見向きもしないの?
ぼくの名前を呼んでくれるあの優しい声がだいすきだった。優しく撫でてくれる、小さくても温かい掌がだいすきだった。
もう呼んでもらえないし撫でてもらえない。
まるで不幸を待ってるみたいなめでぃあ。
死ぬまで見向きもしなかった人達。
皆だいきらいだ。異変に気づいたのは、ぼくだけかもしれない。
それか、皆気づいてて、トラブルを起こしたくないから、気づかないようにしてたのかな。
見殺しにしたのかな。
ご主人は日に日に笑わなくなって、喋らなくなっていった。
あまり喋らない人だったけど、いつも穏やかに笑っている人だった。
おとなしい人だったけど、引きこもる人じゃなかった。
なのに仮面みたいな無表情をするようになって、ある日を境に不登校になって、引きこもるようになった。
最初こそ皆心配したけど、引きこもり続けるご主人を誰も心配しなくなった。
きっとぼくだけが知ってる。毎日のように、『死ね』と書かれためーるが来ることを。
それを見てご主人は、いつも不気味に微笑んでた。
今に見てろ、そう言って。
今に見てろ、その意味が死んでからようやく分かった。
その日、ご主人は半年ぶりに部屋を出た。
久々に部屋を出たご主人を、皆気味悪がった。でも、ご主人はやっぱり微笑んでた。
そして学校に行ったご主人は、いじめてた奴らと沢山の野次馬が見てる前で、嗤いながら首を切って死んだ。嗤いながら首を切って死んだご主人を、苛めてた人や見て見ぬ振りをしてた人達は、どんな思いで見てたんだろう?
ぼくには分からない。ご主人がどんな思いで死んだのか。
家族の皆は最初こそ悲しんだけど、何もしなかった。
何も調べなかった。
気にならなかったのかな。ご主人がなんで死んだのか。
どうでもよかったのかな。ご主人が死んだのに。
めでぃあが騒ぎ出してから、いかにも悲しんでますみたいなあぴーるしてるけど。
今は市と学校を相手取って裁判中だけど。
所詮、金なんだね。ご主人の死は、金で解決されちゃうんだね。
そういえば苛めてた人の一人は転校したらしい。一人は目の前でご主人が死んだのを見て、精神に異常を来したらしい。
一人は不登校になって自殺したとか。
苛めはなくならないんだろうな。
だってほら、ご主人が死んで一年しか経ってないのに、同じ学校で苛めの逮捕者が出てる。
ねぇご主人。ぼくの隣に座って、どんな思いで見てるの?
とある少年の話-或いは猫の話- 了