法律廃止日
なぜかは分からない
一日だけ、法律がなくなる
政府は何を考えてんだろうな
俺には関係ないけどな
ニュースで今日一日限り、法律がなくなると騒いでる。
どの番組もこればっかりだ。
法律が停止してるから、やりたい放題。
殺そうが犯そうが盗もうが騙そうが、罪に問われない。
今日一日の中で犯した犯行は、罪にならない。
だから、なんとも思わない奴は盗むわ殺すわ、集団でレイプとかし放題。
法律がないと、人って簡単に罪を犯せるんだな。
俺だって、やっちまったしな。
当分の間の食料調達。金払う必要ないしな。
店はたまったもんじゃないだろうけど、そんなこと知らねぇし。
そして、恨んでたあいつの娘を誘拐したしな。
今頃あいつ、無様な面晒してこっち来てんのかな?
無事に娘を返す訳ねぇだろ。
「もっとだ。もっとヤってやれ。まだ体力残ってるみたいだからな」
金で買った野郎共に犯される娘を、笑いながら見つめる。
「はぁ……つまんね」
煙草を吸いながら、窓から空を眺める。
ずっと恨んでたけど、実際にやっちまうとつまんなくなるな。
しっかし、流石あいつの娘。レイプされてんのに楽しんじゃうなんてな。
嫌がったら面白いのになぁ……。
「外に出ても変わんねぇ、か」
外に出ても面白いことなんてありゃしない。
つまんねぇから、奴らに気が済むまでいたらいいとだけ言って出てきた。
悲鳴と破壊音と赤い景色。しっかし、縛るものがないとここまでやれるのか。
確かにあいつの娘を汚したのは事実だ。俺自身がヤってなくても、汚したことに変わりない。
でも、殺しまではしない。殺したら終わりだ。
本当なら娘を殺してあいつを苦しめてやりたかったけど、それは無理だ。
殺したら、俺まで終わる。
馬鹿な奴らだ。殺しはこの国で一番重い罪。最近本当に殺人が多い。
法律が一日だけなくなる。裏返せばどういうことなのか、少し考えたら分かるだろうに。
「そこのお前、止まれ」
呼び止められて振り返ると、銃を構えた男が無表情で佇んでいた。
俺に止まれって言ったのか?それとも俺以外の誰かか?
俺は殺人は犯してない。だから、俺は処刑されないはずだ。
周りの奴らは笑って馬鹿にしてやがる。馬鹿なのはお前らだ。
あいつが死刑執行人だと知らないで。
死刑執行人が左手に持ったファイルを気怠げに捲っていく。
「え~、あ~、そこの姶良 和美。夫と夫の愛人を殺害した罪により、死刑。人殺しといて暢気に窃盗してんじゃねぇよ」
スーパーの割れた自動扉の前にいた女が逃げようとする。
死刑執行人が逃げる女に向かって銃を構える。
「じゃあな。人殺し」
パンッと乾いた音が響く。女の身体が地面に叩きつけられて、血が広がっていく。
そして、俺の隣で青くなって逃げようとした男の頭に穴が空いて、地面が赤く彩られる。
「名塚 慧。てめぇも殺人罪で死刑だ。養ってもらってる分際で、親を殺してんじゃねぇよ。てめぇらみたいな人間が多いから、俺の仕事が終わらねぇじゃねぇか」
頭を掻きながら欠伸をして、銃をポケットに入れる。
死刑執行人が俺を見る。ファイルを欠伸しながら捲って、馬鹿にしたように笑う。
「はっ、お前は狡賢いな。強盗、窃盗、拉致、監禁、強姦。あの大病院の院長の娘を拉致とはな。復讐か?」
「まぁ、そんなとこだ」
「復讐相手の娘を金で買ったクズ共に拉致させて、強姦させるなんてうまく殺ったもんだよ。あんたの復讐相手はクズ共と娘を殺した罪で、さっき処刑されたよ」
そうか。殺人を犯せば処刑される。分かってたはずだ。
法律を無くすことによって、殺人を犯す可能性のある人間を炙り出して、法律が戻る前に始末する。
法律で裁くには限界がある。
だから逃げられる前に、罠を仕掛けてこの世から消す。
一般人になって、そんなことも忘れたのか。
やっぱりあいつは馬鹿だったのか。
「だんまりか。まぁいいけどな。殺人を犯してない以上、俺は手出し出来ねぇからな」
「……お前は名前も何もかも捨てて、人殺しをする仕事が楽しいか?」
なんとなく訊いてみる。作業的に人を殺してると、段々と感情も死んでいくもんだ。
「…………お前、なんで知ってる?俺と同じ執行人か?」
「元、な」
「馬鹿な……。辞めようとした奴は処分されるはずだ」
「ふん、お前も馬鹿だな」
あいつは俺を裏切り者に貶めて一般人となった。
俺が死んだように見せかけて、今までどんな思いで生きてきたか。
「じゃあな。俺のことは調べたって何も出てきやしないぞ」
まだまだ若い死刑執行人に向かって手を振りながら背を向ける。
さぁて、また逃げる場所探さないとな。
法律廃止日 了