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世界平和=人類滅亡

「ねぇ、僕を恨むかい?」


「いいや。例え目的のために邪魔だと言われ殺されたとしても、私は恨まないよ。お前と出会えてよかった。私は、永遠にお前と親友だ」


「そっか、よかった。君だけは、僕を理解してくれるんだね。きっと僕は、いつか君を殺したいと思うようになるよ?君は絶対、僕を超える。劣ってると思ってるのは、君だけだ」


「…………なら、私はお前を止める。人類のためじゃない。私のために、私の独りよがりのために、お前を止める。お前にこれ以上、そんな顔をしてほしくない」


「はは。僕、そんな酷い顔してる?」


「してるさ。そんな疲れきった顔をして、泣いているような笑顔をして。そんな笑顔、お前らしくない。お前はもっと、子供のように明るく笑ってなきゃ駄目だ」


「…………もう、無理だよ。僕はもう、戻れない。あの頃みたいに、もう笑えない。僕は殺しちゃったんだ。僕は……」


「もう何も言うな。分かってる」


「はは、僕のことはなんでもお見通しか」


「当たり前だろ?生まれた時からの付き合いだぞ?」


「うん、そうだね。だから、僕がどうするか、もう分かってるんでしょ?」


「…………お前は、止まらないつもりだろう?人類の敵となるつもりだろう?」


「…………」


「そうか。なら、仕方ないな」


「ねぇあきら、君は諦めないでね。僕は、諦めた。僕は、僕に負けたんだ。君は、僕みたいになっちゃ駄目だ」


「ああ。りょう、それでも私達は一緒だ。生まれ変わることがあるのなら、来世でも」


「うん」




最初、そのことを聴いた時は衝撃だった。

大国への攻撃。そして人類だけに感染する、未知なる殺人ウイルス。

潜伏期間は一日。たった一日で体内で爆発的に増殖し、確実に人を死に至らしめる。

死体からウイルスが大量に発生したための二次感染。

信じたくなかった。あいつが、こんなことをするなど。

だが、あいつで間違いないだろう。

あんな高性能な爆弾と、確実に死に至らしめる殺人ウイルスを作れるような人物、確実にあいつしかいない。

しかし、どうしてだ?お前が、どうしてこんなことをする?

お前は優しい奴じゃないか。

ずっと、戦ってきたじゃないか。

戦うことに疲れてしまったのか?どれだけ訴えても、伝わらないから。

伝わらない現実が、お前を変えてしまったのか?

優しすぎるくらい優しい奴なのに。

この前会った時、あの時にはもう決めてたのか?

「これから僕がすることに、幻滅するよ」それはこのことなのか?

幻滅などするものか。ただ、悲しい。

お前が、こんな選択をしなければならないことが。



「珍しいね。晃が連絡もなしにいきなり来るなんて」


いてもたってもいられず、亮の自宅に押しかけた。

Tシャツにジーンズという、いつものラフな格好。

ソファに座り、向き合う。

足を組みながら指を組み、いつものように笑う。だが、私だから分かる。

何かを決意した瞳。寂しさと哀しみが滲み出る笑顔。


「世界中をパニックにしたウイルス、お前だろう?」


「うん」


笑顔のまま答える。


「……お前が、どうして……」


「だって、仕方ないじゃないか。伝わらないんだ、伝わらないんだよ!僕なんかが訴えたって、誰も耳を傾けてくれないんだ!」


「…………」


初めて聴いた。亮が声を荒げるところを。

生まれてから二十二年間、私と亮はずっと一緒だった。だが、声を荒げるところなど初めて見た。

唇を噛みしめながら涙を流すところなど。

お前は、そこまで……。


「この前ね、言われたよ。善人ぶった偽善者がって、平和なんて馬鹿馬鹿しいって、死んでしまえって。ナイフで殺されそうになったよ」


「そんな……」


「皆、僕を応援するフリして思ってるんだよ。平和なんて馬鹿馬鹿しい、死んでしまえばいいのにって。僕は、ホントはずっと一人だったんだよ」


「…………」


私は何も言えない。亮が流す涙を前に、何も言えない。


「だから、決めたんだ。もう誰も信じない。言葉で伝わらないから、行動を起こした。人類が滅びたって、世界は困らない。人類なんて滅びればいいんだ」


「本当に、そう思ってるのか?」


「そうだよ。平和のために、僕は殺戮者になる」


そうか。何を言っても、もうお前は止まらないんだな。届かないんだな。


「人類を滅ぼせると思うか?」


「思ってないよ。人類は狡賢くてしぶとい。だから、何度でも繰り返す。何度失敗しても、人類を滅ぼすまで僕は繰り返すよ」


それはつまり、生まれ変わったとしても繰り返すということか。輪廻転生を信じてるお前らしいな。


「そうか、決めたんだな」


「うん。幻滅した?」


「するものか。じゃあ、私が亮と同じ選択をしたら、亮は私を蔑むのか?」


「しないよ。する訳ない」


「だろう?私達の仲じゃないか。お互い、訊かなくても分かりきってる」


「うん、そうだね。……そうだよね」


そこで、また泣き出した。


「ねぇ、僕を恨むかい?」


いきなり、そう訊いてきた。

泣きながら肩を震わせて。


「いいや。例え目的のために邪魔だと言われ殺されたとしても、私は恨まないよ。お前と出会えてよかった。私は、永遠にお前と親友だ」


そう言ったら、嬉しそうに笑った。今にも消えてしまいそうな、淡い笑顔。


「そっか、よかった。君だけは、僕を理解してくれるんだね。きっと僕は、いつか君を殺したいと思うようになるよ?君は絶対、僕を超える。劣ってると思ってるのは、君だけだ」


お前はいつもそう言うな。私に自信を持てと。

私はお前を超えられるはずがないのに。


「…………なら、私はお前を止める。人類のためじゃない。私のために、私の独りよがりのために、お前を止める。お前にこれ以上、そんな顔をしてほしくない」


「はは。僕、そんな酷い顔してる?」


「してるさ。そんな疲れきった顔をして、泣いているような笑顔をして。そんな笑顔、お前らしくない。お前はもっと、子供のように明るく笑ってなきゃ駄目だ」



「…………もう、無理だよ。僕はもう、戻れない。あの頃みたいに、もう笑えない。僕は殺しちゃったんだ。僕は……」


「もう何も言うな。分かってる」


「はは、僕のことはなんでもお見通しか」


涙を拭いながら困ったように笑う。


「当たり前だろ?生まれた時からの付き合いだぞ?」


「うん、そうだね。だから、僕がどうするか、もう分かってるんでしょ?」


「…………お前は、止まらないつもりだろう?人類の敵となるつもりだろう?」


私が何を言いたいのか、分かりきってるだろう?


「…………」


「そうか。なら、仕方ないな」


「ねぇ晃、君は諦めないでね。僕は、諦めた。僕は、僕に負けたんだ。君は、僕みたいになっちゃ駄目だ」


「ああ。亮、それでも私達は一緒だ。生まれ変わることがあるのなら、来世でも」


「うん」


私は手を差し出す。笑顔で、私の手を握ってくれた。


「辿る道が違っても、私達は一緒だ。そうだろう?」


「うん。ずっと」


私達はもう、会うことはないだろう。




亮が死んだと聴かされて、分かりきっていたはずなのに、私はやはり泣いた。

ナイフで首を切り自殺したと聴かされて、あいつらしいなと、泣きながら笑った。

とてつもない喪失感。身体の半分を失ったかのような。

なぁ亮、お前は私を恨むか?お前の目的を挫いてしまった私を、恨むか?

はは、と自虐的に笑う。私は何を聴いているのだろう。

お前のことだ。人類を、挫いてしまった私のことを恨んだんだろう。

でも、それは表面上だ。本当は人類が大好きなくせに。

聴いたぞ。抗ウイルスのことも、お前は喜んだって。

「ほら見ろ。言った通りじゃんか、僕より君の方が優れてる」って、喜んではしゃいでたって。

なぁ亮、こんな時代に生まれなければ、幸せになれたんだろうなぁ。こんな終わり方、せずに済んだだろうなぁ。

なぜ、世界は醜い争いで溢れてるのだろう。



あの日、あの後、私達はたわいもない話をしながら笑い合った。

酒を飲み、酔った勢いでふざけあった。

そして、決して叶うことのない約束をした。


いつか、故郷に帰ろう。


もう帰ることの出来ない、今では地図にすら載っていない故郷に、帰ろうと。

今やただの焼け野原だろう。無数の屍が転がるだけの。

私達の始まりの場所。辛い記憶が詰まった場所。

しかし、愛しい記憶が詰まった大切な場所。

お前は今、そこにいるのか?

待っていてくれ。いずれ、お前のところに行くから。

お前を、一人にするものか。


待ってるよ、と聴こえた気がした。




「はぁ…………」


少年は男の子達を見つめながら、溜息を吐きます。

戦争がいよいよ、始まってしまうのです。


「戦争が始まっちゃうんだ……。リョウ達の先祖が繰り返したことを、僕達が繰り返そうとしてるんだ」


それでも、この二人の男の子を見つめていると、そんな不安も和らぐ気がしました。

とてもとても仲のよい、二人の男の子。何をするにも、ずっと一緒です。

飼う時も一人だけ飼うはずが、どうしても離れようとしなかったために、二人共飼うことにしたのです。

二人共とても賢く、少年や家族を困らせたことなど一度もありません。

少年がお母さんに、夕食だと呼ばれました。

少年ははーいと答え、部屋を出ました。

少年がいなくなった部屋で、


「やっぱり、こうなっちゃうんだね……」


「……そうだな」


「……あの子も、僕達みたいになるのかな?」


「かもしれんな。忘れたまま生まれ変わって、忘れていた大切なことを思い出して死んで、そのうち忘れることが出来なくなるのかもな。亮、まだ繰り返すのか?」


「まだ、繰り返すよ。世界に本当の平和が訪れるまで、僕は終わらない」


「そうか。なら、私は一緒にいよう」


「うん、ずっと一緒だよ。でも、あいつを見つけてやらなきゃな」


「お前が迎えにくるのを、ずっと待ってるだろうしな」


「おかえりなさいって、笑ってくれるかな」


「笑ってくれるさ」


少年が部屋に戻った時、二人が笑っているのを見て、少年も表情を綻ばせました。






世界平和=人類滅亡 了

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