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UCCR-001:水底に住むもの

【ファイル番号】

UCCR-001


【対象】

通称:ミズクチ


【分類】

不明(半液状生命体)


【発見場所】

山間部・廃貯水池(位置情報非公開)


【記録形式】

音声記録+対話書き起こし+観察メモ


---


【対話記録】


記録開始。時刻 14:32。天候 曇り。


――水面に波紋を確認。対象は視認可能だが、輪郭は不安定。


俺「……聞こえるか」


(数秒の沈黙)


対象「……きこ、える」


俺「応答を確認。会話は成立するか?」


対象「あなたの、かたちに、あわせている」


俺「“形”ってのは?」


対象「あなたは、音で理解する。だから、音で返している」


俺「……なるほどな。じゃあ質問する。お前は何だ?」


対象「あなたが、名付けたもの」


俺「ミズクチ、って呼ばれてるな」


対象「それでもいい」


俺「ここで何をしている?」


対象「まっている」


俺「何を?」


(数秒の沈黙。水面が大きく揺れる)


対象「……おちてくるものを」


俺「落ちてくる?雨か?」


対象「ちがう」


俺「じゃあ何だ」


対象「ひと」


(短いノイズ)


俺「……人がここに来るのか?」


対象「くるのではない」


俺「どういう意味だ」


対象「きづいたときには、もうしたにいる」


俺「事故ってことか?」


対象「あなたたちは、そう呼ぶ」


俺「じゃあ、その“落ちた人”はどうなる?」


対象「かえしている」


俺「どこに?」


対象「もとの、かたちへ」


俺「元の形ってなんだ」


(ここで音声に歪み。水音が増す)


対象「わからないのか」


俺「……説明してくれ」


対象「あなたも、いずれわかる」


俺「俺も?」


対象「おちてくるから」


(長い沈黙)


俺「……それは予測か?」


対象「ちがう」


俺「じゃあ何だ」


対象「きまっている」


(ここで大きな水音。記録に断続的なノイズ)


俺「待て、それは――」


対象「あなたは、もう――」


(記録途切れ)


---


【観察者メモ】


対象は流体状でありながら、明確な“視線”のようなものを感じる瞬間があった。

音声は外部から発せられているというより、思考の内部に直接流し込まれ、それを自分が“言語として再構築している”感覚に近い。


つまり、厳密には「聞いている」のではなく、

“理解させられている”。


また、対象が発した「おちてくる」という表現について、周辺地域の失踪記録を調査したところ、過去15年間で同様のケースが複数存在した。

いずれも事故として処理されているが、遺体は発見されていない。


一点、気になることがある。


取材中、足元の地面が妙に湿っていた。

水辺からは距離があったにも関わらず、靴底に“水がまとわりつく”感触が続いていた。


――帰路、車内でもそれは消えなかった。


---


【編集部注】


本記録提出後、記録者は複数回にわたり「水に関する夢」を見たと報告している。

内容は共通しており、


・暗い水の中から見上げている

・水面の向こうに“人影”が立っている

・しかし、その人影は動かない


というものだった。


また、記録者は次回取材の際、安全装備(命綱・固定具)の使用を拒否している。


理由については、以下の音声記録が残されている。


> 「どうせ落ちるなら、ちゃんと見ておきたい」


なお、本件に関する追加調査のため、同地点への再訪が計画されている。

同行スタッフは未定。


---


(以上、UCCR-001)



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この記録は、少し扱いに注意が必要です。


もし途中で“何かを理解した気がした”なら、

それは文章の外側にあるものかもしれません。


気にしすぎないでください。

気づかなければ、問題はありませんから。


……それでは、次の記録へ。

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