一通目 社会の中で、呼吸が浅くなる
社会生活に疲れた大人へ。
朝、目が開いた瞬間に
「今日が始まってしまった」と思う日がある。
それは、怠けているからじゃない。
あなたの中のどこかが、もう少しだけ静けさを求めているだけです。
眠いのとも違う。
休みたいのとも、少し違う。
“整っていないまま外に出る怖さ”に近い。
人に会う、返事をする、段取りを踏む。
その前に、自分の気持ちを片づけなきゃいけない気がして
でも片づけ方が分からないまま
靴を履く。
通知が鳴る。
予定が並ぶ。
やることが、増える。
ひとつひとつは小さいのに
全部が同時に胸に乗ってくる。
あなたはそれを、ちゃんとこなしてしまう。
ちゃんとこなせるからこそ
周りは気づかない。
あなた自身も、気づきにくい。
社会の疲れは
体力の消耗だけじゃありません。
「自分をいつも整えて見せる」疲れです。
大丈夫そうに返す。
普通に笑う。
空気を乱さない。
言葉を選ぶ。
相手の機嫌を先に読む。
その繰り返しで
あなたの呼吸は、少しずつ浅くなる。
帰宅して、座った途端に動けなくなる日があるでしょう。
何か大きな出来事があったわけじゃないのに
ただ、電源が落ちるみたいに。
それは心が弱いからじゃない。
一日じゅう、見えないところで力を入れていたからです。
糸が切れたんじゃなくて
ようやく、手を離せた。
「何も起きていないのにしんどい」
その感覚は、ちゃんと理由がある。
何も起きていないように見せるために
あなたは毎日、たくさんのことをしている。
崩れないように
刺さらないように
誰かを困らせないように。
それは、やさしさでもあるし
生き延びる技術でもあります。
だから、あなたはえらい。
……と言いたいところだけど
ここでは、褒めなくていい。
褒められると、また頑張ってしまう人もいるから。
今日は、ひとつだけ。
自分に聞いてみてください。
「いま、どこが苦しい?」
言葉にならなくてもいい。
答えが出なくてもいい。
ただ、聞いてあげる。
それだけで
あなたの中の誰かが
「やっと気づいてくれた」と息をします。
この連作は、鎮痛剤みたいなものです。
治せないこともある。
でも、痛みが痛みのままで
置いておける場所は作れる。
置けるだけで
明日の呼吸が、少しだけ変わることがある。
社会生活に疲れた大人へ。
今日も、生きていてくれてありがとう。
明日を全部うまくやらなくていい。
まず、今日の終わりまで。
そこまで一緒に行けたら、十分です。




