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【07 ある日の教室にて】

・【07 ある日の教室にて】


 いつも通りの毎日。

 菜緒さんも少しずつだけども、他の女子や男子と馴染んでいき、日常会話くらいはするようになってきた。

 相変わらず会津の話は俺とだけだけども、でもまあ他の人に興味あるかどうか分からん話を切り出すのって難しいよなぁ、とは思った。

 俺は別にどっちでも良い人間だから、どうでもいいんだけども、と思っていると、杉下が菜緒さんに近付いてきて、

「そのペンケース! 可愛い! 何それ!」

 とめちゃくちゃドデカい声でそう言ったのだ!

 その瞬間、教室が凍り付いた感じがした。

 そりゃそうだ、俺が『菜緒さんに可愛いって言わないで』と言っていたからだ。

 菜緒さんは女子から『可愛い』と言われることにトラウマがあるので、言わないでほしいと事前に俺が菜緒さんのいない時に言っていたのだ。

 菜緒さんは案の定、俯いた状態で固まってしまい、あっ、どうしようと思っていると、何でも思ったことを口にしてしまう杉下がこう言った。

「そうだ! 田中が菜緒ちゃんに可愛いって言っちゃいけないって言ってたんだ! ゴメン!」

 と謝り出して、コイツわざとかよ、マジかよ、と思ってしまった。

 菜緒さんは俺の顔を見て、明らかにショックそうな面持ちをすると、スクッと立ち上がって、そのままどこかへ走り去ろうとしたので、俺も慌てて追いかけるために、立ち上がってついていこうとすると、杉下が俺の肩を力強く掴んで止めてから、

「ゴメン! 全部言っちゃった!」

 と涙目で言ってきたので、まあわざとじゃなかったんなら別にいいけど、と思いながら、

「杉下のことはあとで! 今は菜緒さん! あと、つい言ってしまったことは全部悪くないから! たまたまだからな!」

 そう言いながら俺は振り切って、教室から飛び出した。

 菜緒さんはひとけの無い教室の中に入っていき、そこで肩落として佇み、外のほうを向いていた。

 俺は菜緒さんの表情はとてもじゃないけども見れなくて、その状態のまま、後ろから謝罪することにした。

「ゴメン、俺がお節介まわして、菜緒さんにそう言わないように止めていた。勝手なことをして申し訳無い!」

 見ていないけども頭を下げた俺、と同時に自分のトラウマがじわぁ~っと脳内に広がっていく感覚がして、何だかそのまま頭から地面に倒れ込みそうだった。

 何で俺はこんなお節介をしてしまったのか、短絡的にすぐ行動してしまったせいだ、何で俺はこんなにお節介を焼いてしまうのだろうか、しかも余計なヤツ。

 俺は最低だ、何でこんなことばっかして、バカみたいだ、俺のお節介なんて誰のためにもならないのに。

 菜緒さんの声がした。俺はまだ頭を下げている。

「みんなに気を遣わせていたんですね、私」

 でも、と思って、思い切って言うことにした。

「でも仲良くなりたい人に気を遣うって当然のことじゃないか、それに菜緒さんがさせてしまったわけじゃない。俺が勝手にやったんだ」

「でも私のせいでしょう」

「せいって何だよ、せいなら俺のせいだよ、俺が勝手にやったんだから」

「違う! 私がこんなんだから!」

 俺は頭を上げながら、訴えかけるように語気を強めて叫んだ。

「菜緒さんは何も悪くない! 俺が勝手にお節介しただけだから!」

 と頭を上げ切った時、菜緒さんはこっちを向いていて、涙をボロボロ流していた。

 菜緒さんは涙声で喋る。

「私が『可愛い』と言われると嫌な思い出があるから、こうなってるだけ。私が悪いの」

「違う……だとしたらそんなことを言って菜緒さんを暗い気持ちにさせた連中が悪いんだよ。傷ついたほうが悪いなんてありえないじゃん。というか今のことで傷ついたのなら、傷つけた俺が悪い!」

「違う! 永嗣くんは何も悪くない!」

「いいや俺が悪い!」

「永嗣くんは何も悪くないって!」

「じゃあ菜緒さんも悪くない! 菜緒さんが悪くないと言っている、まっとうな人間である俺が菜緒さんのことを悪くないって言ってるんだ! 俺の言うことを信じてほしい!」

「永嗣くんの、言うことを、信じる……」

 そう小声で反芻した菜緒さんに、俺は一歩前に出て、

「そう、俺が悪くないんだったら菜緒さんも悪くない。だって俺は菜緒さんいわく悪い人間じゃないから。良い人間の言うことを信じてくれるよな」

「そんな、こと、言われたら……」

「今回は俺のお節介が招いたことだ。その事実は変わらない。でも俺が悪くないなら、みんな悪くない。言い出したのは俺だから」

「でも私の思い出……」

「思い出なんて変えられない。でも今なら変えられる。俺は菜緒さんと一緒に楽しく生活したい。クラスメイトだってみんな菜緒さんと仲良くしたいと思っている。だから今まで俺の言うことを聞いてくれていたんだ。杉下のアレはただの杉下のミス。でもそれをミスにさせてしまったのは俺が勝手にみんなに『言うな』と言ってしまったからだ。でも俺は悪くないなら・・・」

 と言ったところで菜緒さんが俺の言葉に割って入るように、

「いっぱい! ……言葉、いっぱいで、分からないよ……」

 その場にへたり込んだ菜緒さんに俺は近付いて、しゃがんで、

「つまりみんな仲良くしたいということだよ。今、みんな菜緒さんと仲良くしたい。それが真実だ」

「そうなのかな……本当にそうなのかな……」

「だって菜緒さんって女子からそう言われることが嫌なんでしょ? それを今まで誰も言わなかったことが証明だよ」

「それは単に私が可愛くなくて」

「いいや、菜緒さんは可愛い。方言も会津愛も仕草も全部可愛い」

 ……あれ? これ言っていいヤツか? でも流れ上、言わないとダメだし、そもそも実際に可愛いし。

 まあ言っても今は問題無いだろと思っていると、菜緒さんが深呼吸してからこう言った。

「私、信じるよ。永嗣くんが言ったこと」

「そうしてくれよ」

「勿論可愛いのほうじゃなくて、みんな仲良くしたいってところね」

 と言って頬を赤らめた菜緒さん。

「勿論、賭けてもいい。俺と菜緒さんが一緒に教室に戻ったら、みんな受け入れてくれると思うよ」

「そんなこと賭けていいの? そこは別にいいよっ」

「ううん、ウチのクラスメイトってそうだから」

 俺と菜緒さんは二人で並んで教室に戻ると、即座に杉下が、

「マジでゴメン! アタシバカだからさ! もうでも! 本当! 菜緒ちゃんのことは大好きだから!」

 と言ってきて、そこから矢継ぎ早に、

「菜緒さん! 戻ってきてくれて有難う!」

「会津さん! 杉下がアレで本当ゴメン!」

「菜緒ちゃん、戻ってきてくれたぁ」

 すると菜緒さんはその場でボロボロと涙をこぼしながら、

「私なんかにそんな言ってくれて、ありがとなしぃぃいいい……」

 と言うと、

「ありがとうなんて別に!」

「別に、気になってるだけだし」

「というかこっちのこと気にすんなぁ!」

 と声をみんなで掛けて、何か大団円って感じになって、菜緒さんがこう言った。

「あの、私のこと、別に可愛くないと思いますけども、別に、そう言ってくださっても、もう大丈夫です。みんななら大丈夫です」

 すると即、男子が、

「菜緒ちゃん、めちゃくちゃ可愛い!」

「これ見よがしに言うな! 男子!」

「でも会津さんって方言可愛いよね」

「それな」

「会津、会津さんじゃなくて、会津の話を田中としている時、めっちゃ目を輝かせて可愛いよね」

「菜緒さんのガチ勢いたし」

 チラリと菜緒さんのほうを見ると、菜緒さんは和やかに微笑んでいて。

 本当に大丈夫になったんだと俺は胸をなで下ろした。

 みんな、ある意味、本当の意味で普通になったある日、俺がいつも通り、朝から菜緒さんと会話していると、球磨川が俺に話し掛けてきた。

「田中、放課後話があるからちょっと時間空けてくれ」

「いや俺のほう? 菜緒さんじゃなくて」

「絶対田中のほう」

「別にいいけども」

 と会話してまたすぐに菜緒さんとの会話に戻ったんだけども、正直球磨川のことがちょっと気になって、あんまり頭に入ってこなかった。

 というか俺なんかしたっけ、ヤバイ、心当たりが無さ過ぎて、叱られ一直線じゃん、と一限目に思っていた。

 一限目終了直後に球磨川が後ろを向いてきて、

「放課後、絶対だからな」

 と言って妙に優しく微笑んできて、逆に怖かった。

 すると、球磨川の視界に菜緒さんが映ったのだろう。

 今度は菜緒さんのほうを見ながら、球磨川が、

「いやいや最後は永嗣が、だからさ」

 と言って何かちょっと怪しく笑って、何なんだマジで、と思っていながら菜緒さんのほうを見ると、菜緒さんが俯いてしまったので、

「何か、隠語で良くないこと言ったか?」

 と球磨川へちょっとキツめに言うと、

「ホント田中は誰にでも優しいな」

 と球磨川から言われてしまい、またちょっと自分のお節介トラウマが滲んできてしまったので、

「別に全然優しくないわ!」

 と何か声を荒らげてしまい、即座に俺は、

「いやデカい声出してゴメン」

 すると球磨川は笑いながら、

「そういう何かいろいろ思考するところもいいなぁ、田中は」

 と言いながら振り返ることを止めて、前を向いた。

 一体なんなんだ、菜緒さんは何か元気無くなってしまったし。

 そのまま時間は経過して、昼休みになった。

 いつも通り一緒にお弁当を食べながら会津の話かなと思っていると、菜緒さんは急に立ち上がり、

「急用を思い出した」

 とまるで棒読みのように言ったので、あまりにも変だったので、

「どうしたのっ?」

 と俺も中腰になって、立ち上がるように声を掛けると、

「大丈夫、私一人でやることだから」

 そう言って俺を振り切るようにどこかへ走っていってしまった。

 何だかショックを受けてしまった俺。

 でも何でショックを受けたのかどうか自分の中で考えてみる。

 別に何か本当に用事があれば別に、いやいや絶対何か用事があるような感じじゃなかった。

 まるで俺を避けるように……俺なんか避けるようなことしてしまったのか、また気付かず、変なお節介でもしたのか?

 何だかまたあのトラウマが滲んできて、あぁ、俺って本当にダメなヤツなんだなと反芻する。

 というか単純に何かキモイことがあったのかもしれない、その可能性は十分高い。

 だって俺はあんまり女子と積極的に会話してこなかったから。

 いやそれならば今だって別に積極的ではない。

 向こうが話し掛けてくるだけで、だから俺も流れに合わせて喋っているだけで。

 じゃあ俺は別に菜緒さんのこと、別にどうも思っていないのか? いや友達だとは思っているけども。

 でも積極的にやり合う友達ではない、と。でも俺ってずっとそうだったし。あのトラウマの日以来、ずっとそうだったし。

 今更変わることもおかしいし……なんて考えていると、いつの間にか後ろを振り返っていた球磨川が、

「まあ早いほうがいいか、私的にも」

 と口を開いた球磨川は俺の腕を引っ張りながら立って、

「田中、ちょっとツラ貸せや」

 と言ってきて、もうひとけの無いところで殴られる展開じゃん、と思った。

 球磨川はどこか紅潮していて、怒りの憤怒で燃えている感じだった。ヤバ過ぎる。

 そんな怒髪天なことあるぅ? もしかすると菜緒さんが球磨川に何かを相談していて、代わりに殴ってあげるとかそういうことぉ?

 でも殴られるようなことをしたのならもう仕方ない。

 甘んじて受け入れようと思い、俺も立ち上がり、球磨川に校舎裏へ連れて行かれた。

 蹴りか? まず蹴りから入って調子を伺うのか? と思っていると、球磨川が、

「田中……いや永嗣」

 名前呼び? 名前呼びすることにより何らかの呪いが発動するのか?

「私はバカだから単純明快に言うぞ」

 ”殴る”って言いながら殴るのかな、俺は歯を食いしばった。

「永嗣、オマエのことが好きだから私と付き合ってほしい」

「……はぁっ?」

 意外過ぎて生返事をしてしまった俺。

 球磨川が真っ直ぐ俺を見てくるが全然意味が分からない。

「俺、殴られるんじゃないの?」

「私の感情に殴られたか?」

「そうじゃなくて……俺、球磨川に何かした?」

「悪いことみたいに言うな、つーかさ、永嗣って自分が女子から人気なこと知らないのか?」

「俺が女子から人気ぃぃい? 殴りたいランキングみたいなことっ?」

「いっそのことドMなのか? まあ永嗣がそうなら否定はしないけども」

「全然そうじゃないけどさっ!」

 とついデカい声が出てしまうと、呆れるように溜息をついた球磨川が、

「永嗣って分け隔てないから、女子からも何なら男子からも人気なんだぞ? 自分の人望に自分だけ気付いていないって感じ?」

「人望、なんてねぇよ、俺は流されるだけの人間だから」

「そうか? めっちゃ良いヤツに見えるけど」

「だからそれは流されるからだろ、周りに」

「そんなことねぇけどなぁ、そう言えば最近料理部に人が来ないか?」

「それはある、料理の魔力って半端無いよなぁ、それか菜緒さんを見に来てるのかな? 男子ばっかだし」

「永嗣が最近柔和になって、より人気が出てるからだぞ」

 と淡々と述べる球磨川。

 いやいや、

「嘘だろ、それ……」

 と何かヒいてしまうと、球磨川は笑いながら、

「そういう天然なところも好きだ。好きだから付き合ってほしい。なぁ? 答えてくれよ、どっちかさぁ」

「そんなん言われても……」

「ほら、菜緒が来てからより柔和になってさ、周りに優しくなって。あの『可愛いって言うな』もすごい判断だと思ったぜ?」

「いやいや俺はただのお節介おじさんで、そもそもそういうお節介のトラウマもあって、お節介自体も本来苦手で」

「知らんがな、私は今の永嗣を見てるだけだから」

 俺はうーっと何か頭の中がカッカッと熱くなってきた。

 そんなこと言われたことなかったので。

 どう言えばいいのか、ぐるぐる脳内を言葉が駆け巡っているところで、球磨川はこう言った。

「まあ永嗣がドMなことはいいとして」

「ドMではないわ」

 と反射的には言葉にできるけども、と思っていると、球磨川が、

「でもぶっちゃけ、私は束縛したいところあるから、今まで通りの料理部はナシね、女子と二人っきりだからさ」

「早坂先生いるけど」

「教師なんてそんな絡んでこないだろ、実際」

 めっちゃくるけどなぁ、と思いつつ、じんわり菜緒さんの顔が浮かんできた。

 今までやりたいことが無かった俺だったけども、料理部自体は本当に好きになっていて。

 菜緒さんから会津の話を聞くことは好きだし、じゃあつまり、菜緒さんと会話できなくなるということか。

 それは嫌だなぁ、とハッキリそう思ってしまった時に、自分に自我があることに気付いた。

 今までだったら、この言葉に流されて、感情が上書きされていたはずなのに、俺はやっぱり料理部をやりたいんだ。

 料理部の時間が本当に大切なんだ、だから、

「ゴメン、俺、料理部はやりたいよ……」

 すると球磨川はハハッと笑ってから、

「ちょっと遅かったかな? でも永嗣の魅力にここまで気付いたのはそのせいだもんな」

「その、せい、って?」

「永嗣の魅力を菜緒が引き出したってところだろ、じゃあ一応諦めるわ、まだ諦めないかもしんないけど」

 そうニカッと笑った球磨川に今更何だかドギマギしてきてしまった。

 というか俺と、付き合うって、俺と? 俺とだぞ? 何かの間違いだろ。

「ただ一個、勇気を出した私にも得が欲しいからさ」

「えっ? ジュースおごんの?」

「永嗣って人の気持ちあんま分かんないほう? 良質なお節介できないぞ」

「良質なお節介できていなかったほうなんだよ、元々、それがトラウマなんだから言うなよ」

 何だか心臓がバクバクしてきた。 

 それはトラウマをイジられたからか、この球磨川自体に、なのかは分からない。

「私の得、それはこれから私のことを名前の佳世って呼べ。球磨川は遠いだろ」

「……付き合わないんだから遠くても別にいいだろ」

「近く感じて最終的にはって作戦だろ!」

「全部言うなよ」

「ほら! まず佳世って言え! 私のこと!」

「そんな強制パターンあるのかよ……佳世」

「そうそれぇ!」

 そう言って俺を指差してきた球磨川、じゃなくて、佳世。

 佳世、佳世か、コイツ佳世だったんだ。ずっと球磨川だと思っていたけども。

「じゃあ分かった、今後は佳世と呼ぶから許してほしい」

「殴る殴らないの話してねぇわ! 許すとかねぇから!」

 何かずっと心臓の鼓動が止まらない。

 もうそろそろ終わってくれないと何かヤバイ……と思ったところで、

「じゃあな永嗣、あんま言いふらすなよ」

「言いふらさないわ! そこまでアレじゃないから!」

 とマンキンのツッコミをしたら、佳世は去っていった。

 多分佳世も教室に戻るだろうから、俺はちょっと時間を空けてから、教室に戻った。

 すると、佳世は教室にいなくて、

「なんだよ」

 と思わず口から言葉が零れ出た。

 結局五限目も六限目も佳世が戻ってくることはなく、何だか胸が詰まるような思いだ。

 すると菜緒さんが俺へ、

「放課後、どこかに行かなくていいの?」

 と言われたので、

「もう昼休みに言われたわ」

 と適当に答えておくと、また菜緒さんが黙ってしまって何なんだ、と思った。

 もう帰ろうかなと思ったんだけども、もしかすると菜緒さんは告白だと勘付いていて、俺がOKしたと思って、つまり料理部の参加が少なくなるかもしれないということを悲しんでいるんだと思って、俺は言い振らさないように気を付けながら、

「まあ料理部にはいつも通り参加できるから」

 と答えたんだけども、あんま元気無い感じの相槌で、

「はい、はいはい」

 みたいな感じで終わって、何なんだと思いながら、その日はバイバイした。

 菜緒さんは何がそんな不愉快なんだろうか。

 佳世のこととは別に何かあんのか?

 何この同時進行、じゃあ分かんないわ、同時進行なら分かんないわ。

 まあ明日会って、まだこんな感じなら謝罪のカマでもかけてみるかと思った。

 次の日、教室へ行くと、佳世と菜緒さんが二人きりで会話していて、少しだけ珍しいなと思っていると、佳世が俺を見るなり、

「おう! おはよう!」

 と言ってきて、正直ちょっとドキドキしながら、

「おはよう」

 と抑えめに応えると、菜緒さんが笑顔で、

「おはよう、永嗣くん」

 と言ってきて、何だ、もう機嫌治ってるじゃんと思いながら、今度は安堵の気持ちで、

「おはようっ」

 と応えた。

 もう大丈夫そうで良かった。単純に何か体の調子が悪かっただけみたいだ。良かった、良かった。治ったのなら。


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