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【04 料理部、開始?】

・【04 料理部、開始?】


 調理実習室に戻ってきて、しっかり手洗いうがいしたところで、キャベツを包丁でカットしようとすると、菜緒さんが、

「永嗣くん、キャベツは芯のところ以外、ちぎっていいんですよ。そっちのほうがいろんな大きさになって食感も出るよ」

 そう言われて、そうなんだ、という思いと、菜緒さんは敬語とタメ口が同時に出ているな、と関係無いことも考えていた。

 言われた通りキャベツはちぎって、芯だけは菜緒さんが細かめに切っていった。

「何で細かく切るの?」

「これは私の好みなんだけども、芯って火が葉よりも通りづらいから、小さくしたほうが味が馴染みやすいんだ」

 どうやら菜緒さんは料理部をしたいと言っていただけあって、ちゃんと料理のことは詳しいらしい。

 これなら勉強になっていいなぁ、なんてことを思っていながら、じゃあ俺はもやしのほうだと思って、もやしをザルに入れて、水洗いし始めると、菜緒さんが、

「あっ、もやしは工業製品で綺麗だからいちいち洗わなくてもいいですよ。水を使わないこともエコです!」

 と何かドヤ顔をした菜緒さん。何か可愛い。何かってめっちゃ思っちゃったけども。

 ただ可愛いって口に出したら普通にセクハラなので言わないけども、

「じゃあもやしはもう水を当てないで、乾かしておくって感じ?」

「そのままザルの中に置いておいてくださいっ」

 何か俺、結構料理音痴かもしんないな、めんつゆと酢で早坂先生にマウント取ってる場合じゃないな。

 そうだ、

「このもやしのヘタ? 何か黄色い部分で取らなくていいのかな?」

 菜緒さんはうんうん頷きながら、

「気になるなら取る場合もあるけども、そこも普通に栄養素ですし、取らなくても美味しく食べられますよ」

「そうなんだぁ」

 何か母親がいちいち取っていたイメージあったけども、そういうこともしなくていいのかぁ。

 いやめっちゃ勉強になるじゃん。流されるまま料理部に入ったけども、これ当たりでは?

 まあそれはいい、それはマジでいいんだけども、何でずっと早坂先生はじっと俺たちを見ているのだろうか。

 顧問だから? つまり監督者だから? でも明らかに俺より物事知らなそうなんだよな……現に俺よりもデカい相槌で学んでいってるし。

「じゃあチャッチャッと炒めちゃおうかっ」

 とフライパンを持った菜緒さんがすごく頼もしく見えた。先生って感じだ。早坂先生の二億倍先生だ……って、

「油買ってないんじゃない?」

 斜め上を見て固まった菜緒さん。

 菜緒さんはゆっくり頷いて、

「でもまあ油ナシでも作れるけどね」

 と言ってフライパンを温め始めた。

 何この子、めっちゃ心強い。

 油って無くていいんだ、いやでも、

「油が無いと焦げとか付かないんじゃないの?」

「そんなことないよ。食材をフライパンの中で動かさなけば、じっくり焦げは付くよ。油を使わずまるで干すように焼く技法もありますし」

「そうなんだぁ」

 何だ俺、そうなんだぁ製造機か。

 そして早坂先生は深い頷き製造機か。

 というか菜緒さんって料理の話になると、スラスラと言葉が出てくるせいなのか、全然”の”を連発しないなっ。

 菜緒さんは続ける。

「まあ油って結局コクの部分が多いから、ちょっと深みの無い野菜炒めになるけども、でもそこはめんつゆとか使って、旨味を足してしまえば、そんなに気にならないよ。こっちのほうがヘルシーですし」

 そう言ってまずもやしをフライパンの中に入れた菜緒さん。

 俺はすぐさまキャベツの準備をすると、

「ううん、キャベツはもっとあとでいいです。もやしは生だとクサイので、もやしにちゃんと火が通ってから、調味料とキャベツを入れましょう」

 なんでもできる子じゃないか……と心の中で震えた。

 その後、菜緒さんは軽く塩と胡椒を振ってから、キャベツを投入し、めんつゆを軽く入れて、加熱を続けた。

 すると美味しそうな香りが舞ってきた。

 めんつゆの香りは勿論、火の通ったもやしというのは何でこんなに良い豆の香りなのか。

 キャベツはより生き生きした色合いになっていき、これはもう食べごろだと思ったその時だった。

「最後に醤油を小匙1入れますね」

 そう言いながら菜緒さんが醤油を入れると、一気に焦がし醤油の香りがしてきて『これだ!』と脳内で叫んでしまった。

 いやいや、

「菜緒さん、何でめんつゆと醤油は同時じゃないの?」

「めんつゆは野菜に浸透させる味、醤油は最後に香りを立たせるために完成直前に入れるといいんですよ」

 そう言いながら野菜炒めを皿に盛りつけた。

「うっ! うまそぉぉおおおおおおお!」

 と叫んだのは早坂先生だった。一瞬俺だと思ってしまった。

 菜緒さんはその流れでそのままフライパンを洗い出したので、

「いやさすがに俺がやる!」

 と言ったんだけども、

「いいよ、これくらい。フライパンの手渡し危ないですし」

 と言ってそのまま菜緒さんが手際よく洗って、布巾でフライパンの水気を拭き、火を止めたコンロの上にフライパンを置いた。

「洗い終わったフライパン」

 と俺が声を出してしまうと、菜緒さんが、

「まだフライパンには水気があるので、まだ余熱が残っているコンロの上に置くと蒸発するんです」

 家庭の知恵過ぎる……俺とは雲泥の差がある……俺はまた震えてしまった。

「食べていいか?」

 と言ったので早坂先生だった。一瞬俺だと思ってしまった。

「勿論! 是非食べてください!」

 そう菜緒さんが言い切る前に早坂先生は食べ始めていた。俺過ぎる。全部俺じゃなかったけども。

「シャキシャキで焦げの香りもして旨過ぎるぅ~! 何この深み!」

 さすがにそれは俺も分かったので、

「菜緒さんの技術とめんつゆです」

 と答えると早坂先生は、

「技術、そしてめんつゆだとぉっ?」

 と目を皿にした。

 菜緒さんは少し恥ずかしそうに、

「技術はそんな無いですけども、めんつゆは確かに美味しいですからねぇ」

 そんなこんなで俺と菜緒さんも野菜炒めを食べ始めたんだけども、半分食べたところで、早坂先生がどこからともなくタッパを取り出して、

「食材費、今日はアタシなので」

 と言いながら、なんと野菜炒めを入れ始めたのだ。

「もう少し食べますよ、俺」

「ダメ、もうアタシのモノ」

 そう言ってささっとタッパに詰め終えてしまった早坂先生。何だコイツ。

 終わったところで思った。

 でも、何か、なんというか、これの何が部活なんだ、とは思った。

 ただ料理して食べて、いや学んだ、だいぶ学んだ、学びが部活と言えばそうなんだけども、ちょっと部活らしさが薄いといった感じもしている。

 何か、俺、表情に出ていたかもしれない。

 菜緒さんが俺のほうを見ながら、

「ここからです」

 と言い出して、俺は何か内心ワクワクしてきた。

 こんなワクワク、正直久しぶりだ。

 何でも周りに流されるまま、ずっと生きてきたけども、何このイベント感。

 しかも”ここからです”って、こんな頼もしい子からそんな言葉が出てきたら、否が応でも反応してしまうもので。

「はい」

 と真面目に返事をしてしまうと、何故か早坂先生が偉そうにこう言い始めた。

「では菜緒、元々思い描いていた方針を述べよ」

 何でこんなマジで偉そうなんだ、そのワンクッションいらないじゃん、と思っていると、菜緒さんが口を開いた。

「実は私はおばあちゃんから会津野菜を送ってもらうことになっていて、その会津野菜をみんなで料理していって、会津の良さを分かってもらいたいんですっ」

「会津の良さを、分かってもらいたい?」

 俺は何か気になったところをそのままオウム返ししてしまうと、菜緒さんは嬉しそうに頷きながら、

「はい! 会津の良さを知ってほしいんです!」

 会津の良さ……菜緒さんの地元のことか。

 まあ別に、それはマジでどうでもいいけども、何かまた料理の勉強できるのなら、それでいいかと思って、

「分かりました。よろしくお願いします」

 と頭を軽く下げると、

「そんなかしこまらなくてもいいのにぃ!」

 と菜緒さんは笑った。

 すると早坂先生は、

「部費も浮くし、ちょうどいいなぁ」

 と何か食いしん坊少年みたいなイントネーションでそう言って、コイツ、ずっとタッパに詰める気だな、と思った。

 というかそういうことか、早坂先生の魂胆は。

 何で顧問を即するような流れになったか、まあまあ疑問だったけども、コイツ、食費を浮かせたいんだ。

 だから間に人が入らないタイミングで俺を料理部に入れて、その場で完結させたかったんだ。

 全ては早坂先生の思惑……!

 でもまあ俺としてもどうせ暇だし、料理の勉強して、あとなんだ、会津野菜の良さというのも勉強できればそれでいいか。

 でも、でもだ、そんなに会津が好きなら、何で転校してきたんだろうか。

 会津野菜を広めるため? いやそんな身の切り方無いだろ。まあいいか、いろいろ事情もあるんだろう。

 そんな感じで今日の料理部の部活は終了し、それぞれ家路に着いた。

 菜緒さんとは帰る方向が真逆だったので、校門で別れた。

 さて、俺は今、どうなんだろうか。

 いつも通り流されるまま、こういう感じになったけども、うん、別に悪くない。

 いや元々流されていてもずっと悪くは無いんだけども。

 でも特に悪くないかもしれない。語彙少ないけども。

 会津野菜って何なんだろうか。

 京野菜とかあるけども、そういうことなのかな? いや京野菜も良く知らないけども。

 まあいつも通り流されて、自分であんま思考しなければいいだろう。

 次の日、普通に登校して校門をくぐったところで、なんとデッカイ竹のザルの上に新聞紙でぐるぐる巻きの何かを乗せた、菜緒さんが立っていたのだ。

「おはよっ」

 そう言った菜緒さんに俺は即座に、

「いつから待ってたの?」

「ううん、今来たばっかりだよ。これ雪中あさづき(せっちゅうあさづき)って言って匂いのあるモノだから教室には持って行けなくて」

「えっ、匂いあるモノならどうするの?」

「でも一応新聞紙で包んでるし、早坂先生が職員室なら大丈夫だって言ってくださって」

「そうなんだ」

 と相槌を打ちつつも、俺は正直その雪中あさづきが気になっていた。

 早速やって来た会津野菜というモノ。

 雪中あさづき、雪中って雪の中ということだよな、あさづき……聞いたことないな。

 匂いのあるモノらしいけども、一体どんなモノなのだろうか。

 まず一緒に職員室へ行くと、早坂先生も職員室にいて、まずはその中身を見ることにした。

 菜緒さんは、

「匂いがあるモノなので、すぐに新聞紙の中に戻すけども」

 と言いながら開けると、そこには太くて短くて白いもやしのようなモノがいっぱい入っていた。

 いやちょっと例えベタか、なんだろう、細くて白いラッキョウ? というかうん、ラッキョウ系の香りがする。葱というかそんな感じ。

「こんな感じで」

 そう言って新聞紙の中にまた戻した菜緒さん。

 全然見たこと無い野菜だった……これが会津野菜……。

 俺と菜緒さんは一緒に教室に戻ったところで、早速といった感じで俺は菜緒さんへ聞くことにした(廊下では普通に挨拶と昨日のことだけ喋っていた)。

「雪中あさづきってどういう野菜なの?」

「わー、興味持ってくれてありがとなし!」

「いやいや普通に気になるよ」

「どこから喋ろうかなぁ」

「全然、いっぱい喋っていいよ。というかホント教えて」

 と隣同士で座って、会話し始めた。

「まず東北の会津の地域の会津野菜の説明からするね!」

「慌てなくていいよ」

 と俺は”の”が多く出る時は慌てていると仮定して、そう言うと、

「全然慌ての焦りのソレは無いよ!」

 とサムズアップしてきて、それはじゃあ何なんだ、とは思った。

 まあいいか、別に意味が分からないわけじゃないし。

 菜緒さんは喋り出した。

「まず日本の伝統野菜と呼ばれているシャキシャキの美味しさの塊の野菜はねっ」

 また”の”を連発したところで、ここイジってもいいのかどうか気になって、俺は口を挟んだ。

「シャキシャキの美味しさの?」

「そう! 勿論シャキシャキ以外の野菜もあるよ! 玉葱は煮ればトロトロ!」

 どうやらこの部分は本当に自分の中でおかしいと思っていないのかもしれない。

 じゃあ普通にその部分を使って会話しても良いらしい。

 だからって、そこを粒立ててイジるように喋ることはさすがにNGだろうなぁ、とは思った。

 菜緒さんは続ける。

「伝統野菜というモノは五十年以上の栽培歴を持ち、各地域でその野菜の種を採って、 栽培されている野菜のことを言うの」

「じゃあ京野菜とかもそういうことなの?」

「永嗣くんの県の長岡野菜もそうだと思うよ!」

「長岡野菜」

 とオウム返ししたけども、正直長岡野菜が何なのかは分からない。地元ではないし。というか俺が言い出しているけども京野菜も分からない。

 でもまあ全ての伝統野菜は五十年以上の栽培歴のある野菜ということか。まず一つ勉強になった。早坂先生も知らないんじゃないかな。

「で、会津伝統野菜の条件は、五十年以上の栽培歴があること、地域に根付いた種であること、そして地域の名前や人名が付いていることが主な条件!」

「人名が付いていることあるんだ」

「そうそう! 健次茄子がそうだよ! 健次ケンジという人の名前なんだよ!」

「自分の名前が付くって何か夢があるよな」

 と俺が普通に相槌を打ったところで、菜緒さんが、

「やっぱり惑星に自分の名前とか付けたいよねぇ」

 あれ? これ俺の宇宙飛行士憧れイジられてる?

 いやまあすぐイジられてるとかイジられてないとか気にするの良くないけども。

 というかつい“過去のトラウマ”でこういうことが気になってしまう。

 菜緒さんに悪意があるはずないじゃないか、こんな感じの子に。

 疑ってしまうことは良くない良くない。

「まあそうだね」

 と平常心で同調したところで、菜緒さんはところがどっこいというような言い方で、

「慶徳玉葱だけはまだ五十年以上の栽培歴は無いんだけども、 伝統ある玉葱として位置付けられているんだぁ」

「そういった特例もあるんだ」

 とその惑星の部分はすんなり流れたので良かった。

 いやいや、そんなことよりもしっかり勉強しないといけないのに。

 どうでもいいことが気になってしまう。

「じゃあここから雪中あさづきについてだね!」

「本題だな」

「雪中という名前の通り、一メートル以上に積もった雪をかき分けて、待ち遠しさの塊の暖かいイメージの息吹ありの若草色の春を掘り起こすんだ」

「すごい”の”多いね」

 とちょっと言ってみると、菜緒さんはうんうん頷きながら、

「ちょっと興奮しちゃった、自分で言っていて」

 てへぺろ感を出しながらそう言って、これは興奮しているんだということが分かった。

 そしてやっぱりちょっと触れてみても特に害は無いみたいだ。いや漆に形が似た植物みたいに言うな、と自分の中でツッコミ。

 と、思ったら菜緒さんは少し俯きがちになって、

「ついやっちゃうんだよね、この”の”の連発……変って指摘されているからやめたほうがいいのかなぁ……」

 別にと思って俺はあえて堂々と、

「喋り方くらい自分の好きでいいでしょ。少なくても俺の前ではそのままでいいよ」

「ありがとなし!」

 方言も出るんだ、とは思った。

 実際俺は菜緒さんの”の”の連発、そんな嫌じゃないし。

 むしろ楽しく思っているから。

 菜緒さんは話を続ける。

「自生しているあさづきは、会津地方の田畑の土手とかに見られるんだけども、雪中あさづきの大切の大切の産地としては、耶麻郡西会津町や大沼郡三島町の河沼郡柳津町周辺だね」

「自生しているって自生しているの?」

「そうだよ、多分この辺にもあると思うよ。あさづきはこの辺なら野良にいっぱいだよっ」

 そんな猫みたいな、野良にいっぱいなんて。

 そうか、知っていてもおかしくない食材だったのか、あさづきは。

 でも俺はそれを知らない。

 まあ確かに野菜のことなんて全然良く知らないもんな。

 ここから学んでいこう。

「でね、特に耶麻郡北塩原村周辺で収穫できる『雪中あさづき』は、弘法大師によって伝えられたとして『弘法あさづき』 と言われているんだ」

「弘法大師ってあらゆるエピソードに入り込んでくるよね」

 すると菜緒さんは吹き出しながら、

「そんな弘法大師様をいっちょかみボーイみたいに言わないでよっ」

 と言ったんだけども、その言い回しに俺も笑ってしまった。

 二人で笑い合って、何かこういうの良いな、と、いっちょ前にエモくなった。

 すると前の席に座っている球磨川が振り返って、話し掛けてきた。

「笑い合うエモしてるけども、何の話?」

 球磨川も笑い合うことエモ認定しているのかよ、と思いつつ、俺は、

「料理部の話で会津伝統野菜を教えてもらっていたんだ」

 球磨川はふんふん頷いて、

「会津の伝統野菜ねぇ、何かいろいろあるの?」

「ザックリしてんな、そうだ、菜緒さん、どのくらいあるのかな、会津の伝統野菜って」

 と普通に聞いたつもりなのに、菜緒さんは黙って俯いてしまった。

 さっきまで普通に会話していたのに。

 すると球磨川が、

「菜緒、さん、こっち見て~」

 と、ちょけた笑顔をした球磨川。

 でも全然菜緒さんはものすごく小さな声で、

「は、はい……」

 と言うだけで、全然球磨川のほうを見る気配が無い。

 急にどうしたんだろうと思ったけども、この感じ、見覚えというか自分覚えもある。

 何かトラウマがあるのかもしれない。

 というか昨日、調理実習室で急に菜緒さんが『違います! すみません!』と言った時もあった。

 ここは思い切ってハッキリ聞いてみてもいいかもしれない。

 少なくても俺のことは信用してくれているみたいなので、あんまり仲が突然断裂することもないだろう。

「もしかすると何かトラウマある?」

 矢継ぎ早に球磨川が、

「デリカシーゼロかよ、田中」

 と言ったんだけども、俺はそれを遮るように、

「うちのクラスの女子、結構イイヤツだよ。勿論この球磨川も。今までの記憶と一緒にする必要無いよ」

「今までの記憶……」

 そう反芻した菜緒さん。

 俺は続ける。

「まあ少しずつって感じで、球磨川もイライラしないように」

「してないし! めっちゃ元気だわ!」

 そうニカッと笑った球磨川を、菜緒さんはチラリと見てから、

「はい、お願いします……」

 とさっきよりも大きな声でそう言うと、球磨川が、

「そうそう! 少しずつ! 少しずついこうぜ!」

 と握手の手を差し出して、菜緒さんはそのままちゃんと握手をした。

 まあ仲良くできそうで良かったと思う。

 トラウマと口に出したことはデリカシーゼロかもしれないけども、そういうことかもしれないと球磨川に伝えることも大切だと思って言ってみた結果、好転して良かった。

 そのタイミングでチャイムが鳴ったけども、まだ早坂先生は来ていないので、俺は小声で菜緒さんに、

「みんな優しいから大丈夫っ」

 と声を掛けると、菜緒さんは俺には微笑みかけてくれて、

「ありがとなしっ」

 と言ってくれた。

 良かった、全然俺と菜緒さんの仲は昨日の部活のままだ。

 でもそうか、菜緒さんには女子に話し掛けられるトラウマがあるのか。

 でも正直俺のようなアホな男子と一緒に喋るよりも、女子と仲良くしたほうがいいような気がするけどなぁ。

 う~ん……と一瞬考えたところで俺自身”うっ”となってしまった。

 いやいや、あんまり深く考えることは止めよう。なんせ俺にだって“トラウマ”はあるんだから。


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