【02 一限目・昼休み・放課後】
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・【02 一限目・昼休み・放課後】
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一限目は菜緒さんへの質問タイムになり、みんなめちゃくちゃ質問している。
答えるの面倒クサそうだなぁ、と思いながら、ぼんやり眺めている。
二限目から普通の授業だけども、みんな何か菜緒さんを気に掛けている感じ。
昼休みになったところで、まためちゃくちゃ菜緒さんに集まってきて、まあ何もイベントの無い高校だからなぁ、とは思った。
昼休みを終えた菜緒さんはちょっと疲れているようだった。
嫌なクラスメイトたちがいる教室と思われたら嫌だな、とは思った。
放課後になったところで、また菜緒さんの周りに人が集まってきたんだけども、それをホームルーム終わりの早坂先生も近寄ってきて、
「しっしっ! こっから部活!」
とハエを払うような手振りでそう言って、それは教師として良くないのでは、と思った。
俺も多分部活の一部だろうから、ずっと座って待っていると、一緒に座っている菜緒さんと目が合ったので、会釈した。
でも菜緒さんは何だか元気の無いようで……って当たり前か、ずっと質問攻めに遭っていたんだから、と思っていると、急に菜緒さんが俺へ、
「さすけね? 一緒に部活、本当にしてくれる?」
と聞いてきて、最初の文字列が全然理解できなかった。
”さ・す・け・ね”とリスニングしたけども、合ってるのだろうか。
すると、早坂先生が後ろ頭を掻きながら、
「菜緒、それ方言」
すると菜緒さんは顔を真っ赤にしながら、
「出てましたか! えっと! じゃああの! さすけね? と同じの状態のヤツのソレで部活、本当にしてくれる?」
さすけねと同じ状態と言われても“さすけね”が分からないし、と思いながら、俺は早坂先生へ、
「えっと、早坂先生、さすけねって何になりますか、ね」
早坂先生はWHYといった感じの身振りで、
「それが分かれば苦労しないよ」
と言って、使えない先生だな、と思った。
俺は即座にスマホで検索すると、
「大丈夫、という意味ですね」
「それぇ!」
と菜緒さんは急に大きな声で指差してきたので、俺は吹き出してしまうと、
「あー! みばわりー!」
と言って机に突っ伏してしまった。
次は”みばわり”かと思いながらまたスマホで検索している途中に早坂先生が、
「見栄えが悪いのは今だぞ、机に突っ伏すのは陰キャのすることだから」
と言い出して俺は溜息をついてから、
「そういうこと教師が絶対言ったらダメなヤツ」
と俺が言うと、早坂先生は、
「そうだったのか……」
と絶句して、何だコイツとは思った。
すると早坂先生は、
「でもアタシはこうだったからなぁ、アタシは自分を陰キャだと思いながら高校生活は突っ伏していたから、仲間ってことだよ」
「そうとは誰も捉えないですよ……みばわり、は、みっともないですね」
「じゃあその突っ伏している今だよ!」
そう言って笑った早坂先生、えっ、何コイツ、サイコパスとかなの? まあ去年からそんな感じだけどもさ。
菜緒さんは顔を上げて、前髪を手で直しながら、
「その、方言ばかりでゴメンなさい……」
俺はマジで別に、なので、
「別にそんなんはどうでもいいよ、あと最初の質問ね、俺は別に部活どうでもいいと思ってるよ」
と言ったところで、言い方悪かったなと思って、
「どうでもいいというか、別に暇だからやってやってもいいよって話」
って言うのも何か偉そうだな、もう少し緩和して言ったほうがいいな、
「ホント、マジでどっちでもいいだけだから。俺の行動が誰かの役に立つならそれでいいって感じ。うん、部活大丈夫だよ」
と言ったところで、何か俺、長々と喋っちゃったなと思っていると、早坂先生が、
「田中は本当に良く喋る」
「今気になったとこ即言うなよ」
と俺はツッコんでおいた。
さて、菜緒さんは、と思っていると、
「ありがとなし! あ! ありがとう!」
と言ってきて、いやまあニュアンスでそれは分かるし、とは思ったけども、一応スマホで検索していた。
やっぱり”ありがとなし”もありがとうか、だとしたら”ナシ”って言うなよ、とは思った。方言に対して思うことじゃないけども。
そんな会話をしたところで、早坂先生が、
「じゃあ調理実習室に移動して、調理器具でも洗ってもらうかな」
あぁ、まず洗うところからスタートするんだ、いや調理実習室ってあったっけ? と思いながら、早坂先生についていくと、本当に調理実習室が一階にあった。
うちらの教室がある二階から近くて良かったと思っていると、菜緒さんは目を輝かせながら、
「本当に最初から料理部ができたぁ!」
と言っていて、嬉しいのなら良かったと思っていると、早坂先生が頷きながら、
「うちのクラスにはTHE暇がいるって言っていただろ?」
と俺を見ながら言って、最初からそんな話していたんかい、とは思った。まあ暇だからいいけども。
菜緒さんは何ならちょっと鼻唄を出しながら、調理台の下の棚から調理器具を取り出したその時だった。
なんと、愕然とした表情で呆然と立ち尽くしたので、何だろうと思っていると、なんとその調理器具がまあ汚いのだ。
「早坂先生、買ってきましょう。新しいヤツを」
「おぉ、倒置法」
「倒置法じゃなくて。粒立てたなぁ、じゃないんですよ」
「でも大丈夫、そこのヤツはそうだけども、こっちの教師用のほうはまだ綺麗だし、そもそもあんま使ってないから、そっちだけ使えばいい」
そう言って早坂先生は教壇近くの棚を開けて、フライパンを取り出すと、
「ほら、ホコリだけ」
と言ってきて、でもまあ何か若干嫌なサイズのホコリがついていた。
「ヤなサイズのホコリ」
と俺がハッキリ言ってしまうと、菜緒さんは、
「でもこれなら洗えば大丈夫です!」
俺はポジティブだなぁ、と思っていると、菜緒さんがそのフライパンを受け取ってから、
「まず乾拭きをして、そこから水を付けて洗いましょう!」
ナイス・リーダーシップと思いながら、俺は近くにある乾いた布……も、無い。
「じゃあティッシュでいいよな、乾拭きするヤツ」
と俺が菜緒さんに言うと、菜緒さんは同調するように、
「さすけね! あっ! 大丈夫です!」
と答えて、方言可愛いなぁ、とは思った。
俺たちの住む新潟県って、あんまりゴリゴリの方言使う若い子とかいないんだよね。
ほぼ標準語の県、それが新潟県。
菜緒さんは鼻唄っぽく、少しメロディを付けながら、
「乾きのティッシュの布で、特技の方法の料理のフライパンを拭くー」
と言っていて、何だコイツとは思った。
一人でいる気持ちでいるのかな、一応俺も咳払いして、いますよアピールするか、早坂先生もいるし、と思った刹那だった。
早坂先生が、
「鼻唄で上機嫌だな!」
とマンキンでツッコんで、菜緒さんは恥ずかしそうに俯いて黙った。
「早坂先生!」
って俺は早坂先生に対して不快そうにそうツッコんでしまうと、早坂先生は少し慌てながら、
「でもまあそういう矯正も、必要だって、その、田中も思っただろ?」
「別にそんなことないですよ、矯正って嫌な言い方っ、教師なんだから言い方もう少し考えたらいいんじゃないんですか?」
「何だよ、田中、はは~ん、菜緒のこと可愛いって思ってるなぁ」
「思ってないです!」
という俺の声を追い越すくらいの早さとかき消すくらいの大きさの声で、
「違います! すみません!」
という声が菜緒さんからした。
違います? すみません? 両方台詞が違うけども、それも方言か? と思っていると、菜緒さんが、
「本当にすみませんでした!」
と頭を下げてから、フライパンを調理台の上に強めに置いて、その場にしゃがみ込んでしまった。
あまりの拒絶行動に俺はどうすればいいか分からず、とりあえず早坂先生のほうを見ると、早坂先生は耳の裏を掻きながら、
「まっ、まっ、あとは若い者に任せてっ。終わったら職員室にいるアタシの元へ来なさいっ」
と言って足早に調理実習室から逃げるようにいなくなって、マジで何だコイツとは思った。
いや、急に何か、トラウマ発動したような転校生と一緒になっちゃって、どうしようと思ったけども、何か行動するなら早いほうがいいなと思って、菜緒さんの近くに俺は行って、一緒にしゃがんで、
「何か気に食わないことあったら言ってほしい、言ってくれれば同じミスをしないからさ」
トラウマが何なのかは聞かなかった。
多分聞いたほうが早いんだけども、初手からやることじゃないと思うから。
でも菜緒さんは黙ったままで。
さて、どうするか。
こういう時は菜緒さんに話し掛けるよりも、もしかしたらこっちの話をしたほうがいいかもしれない。
もっと俺が話しやすいというか、親しみやすいと思ってくれたほうがいいかもしれない。
今のところ、俺の印象もそんなに良くないだろうから。
何かイヤイヤ料理部に入ってあげてる感もちょっとあるし。
少なくてもそんなことは無いということを伝えて、俺は敵意なんてないことを伝えなきゃ。
「俺さ、料理部、むしろ良いと思うよ」
一瞬菜緒さんの耳あたりの筋肉が動いたような気がした。
俺は続ける。
「俺ってあんま目標無くてさ、そのせいでまあ流されることも多々あるんだけども、この料理部は割と良いとマジで思ってるよ。むしろ何か美味しいモノが食べられるならそれでいいっていうか」
とは言え、俺も嘘はつきたくないので、こんな言い方になってしまう。
もっとハッキリ『料理部、最高!』とか言えるヤツなら楽なんだろうけども。
でもまあそういうことを言ったら、いつかバレそうだし、こんな感じで言って、あとはそうだなぁ、もう、少しだけ身を切るか。
あんま菜緒さんってイジってくる感じの人じゃないし(むしろ鼻唄など言動はイジられ)ここは言ってもいいかもしれない。
もうちょっとこっちの弱みを見せて、親しみを出したほうがいいかもしれない。
「俺さ、目標無いって言ったじゃん。でもあったんだよ、本当は。宇宙飛行士になりたくて。でもそういうのって結局最初から都会に住んでいて、お受験とかやってるヤツが一生懸命勉強してなれる職業で、こんな田舎に生まれて、当たり前のように地元の中学生になったヤツがなれる職業じゃないんだよな。だからもう中学一年生くらいの時に、もう全てを悟って諦めたんだよ。だから暇は暇なんだよね、それは事実で。だから学級委員もやってるし。だから料理部も全然俺からしたら普通だし。さっき言った通り、美味しいモノが食べられればそれだけで得だし」
……ちょっと喋り過ぎたか、ちょっとキモかったか、果たして、と思っていると、菜緒さんが顔を上げて、こっちを見て、
「宇宙飛行士の夢! 諦めないほうがいいよ!」
と言ってきて、なんとか元気になってくれて良かったけども、あんまそこのイジりはしないでほしいなとは思った。
いやまあ自分から言い出した話だから、もうしょうがないんだけども。
「菜緒さん、一緒に続きをしよう」
「永嗣くん、さすけねぇー、あっ、ありがとなし、ありがとう」
全部どっちだろうと思ったけども、それはまあいいとした。こういうのはスルー推奨だろう。
俺も菜緒さんも立ち上がって、一緒に作業を再開した。
さっき、俺はまだ何もしていなかったけども、教壇下の棚から別の調理器具を取り出して、ティッシュで拭きだした。
まあ菜緒さんが元気になってくれて良かった。
喋り過ぎなところイジってこないし、こういう人となら一緒にいても嫌じゃないなぁ、と思った。




