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【12 夏休み突入】

・【12 夏休み突入】


 夏休み中、育てている会津野菜の収穫は好きな時に誰が採ってもいいことになった。

 基本的に晴れが続く時は校長先生が見てくれて、収穫も校長先生がすることもあるという話になった。

 今はもう夏休みに突入した。

 あんなに顔を合わせていた菜緒さんや稀子に会えないのは若干寂しいなと思いつつ、俺はどうせ暇だし、高校へ行って、会津野菜を見に行くことにした。

 水撒きは朝早くが良いらしいので、かなり朝早く、いつも登校する時間よりも早く、高校へ行った。

 すると、なんとそこには会津野菜に水をあげている菜緒さんがいたのだ!

「菜緒さん!」

 と目を丸くしながら声を掛けると、菜緒さんもビックリしながら、

「永嗣くん! どうして!」

「いや会津野菜が気になって……」

「私もそうだよ、だって私たちが育てている野菜ですから、校長先生に任せっきりは良くないと思ったんです」

「でもそうか、こう被ってしまうかぁ」

 と会話したところで、景気の良い自転車のブレーキ音が聞こえてきて、そっちに目を向けると、なんと稀子まで来ていた。

「あー! みんないる感じぃっ?」

 そう日差しを手で避けながら歩いてきた稀子。

 俺はふと、

「これじゃ効率悪いかもしれないな」

 と言ったところで菜緒さんが、

「じゃあ連絡手段を交換して、順番を決めて来ることにしませんか?」

 稀子はサムズアップしながら、

「それでいこう!」

 ということで、手っ取り早くLINEで連絡先を交換した。

 じゃあ、

「今後はこれで確認しながら来ることにしよう」

 と言って俺と菜緒さんと稀子はやることを済ませて、家路に着いた。

 というかそうか、LINEという手があったか。

 何かずっと高校で一緒だからそんなこと考えつかなかったな。

 おトボケだなぁ、と思ってしまった。みんなだけども。

 というわけで逐一それぞれの予定をLINE上に書いて、空いてる人が行くことになり、今日は俺が行く日。

 菜緒さんは普通に家でお休みで、稀子は前のチームメイトの応援をしに新潟市に行くらしい。

 新潟市の、特に市街なんて行ったことあんま無いなぁ、と思いつつ、そのLINEを朝眺めていた。

 まあ早朝に水撒いて、実っていたら収穫して、家で何か料理しようっと。麻婆茄子作ろうと思っている。しかも一から。ノー・クックドゥ・デイをかましてやろうと思っている。

そんなことを考えながら畑の近くまで来ると、何故か菜緒さんがしゃがんで草むしりをしていて、俺日付間違えたか? と思って、すぐにスマホを取り出した。

 まだ遠目から見ている段階なので、引き返せると思いながらLINEを見たのだが、どう見ても俺の日で。

 菜緒さんったらあわてんぼうガールなんだからっ、と思いながら、俺は近付き、

「菜緒さん、今日俺の日だよ」

 と言うと、菜緒さんがこっちが向き、頬を赤らめていたので、やっぱり間違えていたんだと思い、

「ちゃんとLINE見てないと、休みの日が無駄打ちだよ」

 と言ったところで菜緒さんが立ち上がって、俺の瞳をじっと見ながら、こう言った。

 そんなガッツリ謝罪してほしいわけじゃないんだけどな。

「ゴメンなさい、あのっ」

「いやそんなガッツリした謝罪はいらないよ、せっかくだし分け合おうかっ」

「そうじゃなくて、その、今日は永嗣くん一人の日って知ってました……」

「……ん? 俺の日って知ってた?」

「そうです」

「じゃあなんで」

「えっと、あの……永嗣くんに会いたくて……じゃ、ダメですか?」

 そう小さく頭を下げた菜緒さんに俺は何だか心臓が高鳴ってきて、何これ、可愛いと思ってしまった。

「い! いや! 全然ダメじゃないけどもぉっ?」

 と声が上ずってしまって恥ずかしい。

 でもまさかそんなことを言われるなんて。そんな日があるなんて。

 俺は何か、慌てている時の菜緒さんみたいにあわあわしてしまうと、菜緒さんがまた俺を見ながら、こう言った。

「今度の日曜日、稀子さんが野菜当番の日、私と一緒に会津旅行しませんかっ?」

 さっきより深く頭を下げた菜緒さん。

 そんな、まさか遊びの誘いを受けるなんて。

 というかそれ、

「俺でいいの?」

「はい……永嗣くんに実際に会津へ来てもらいたくて……」

 なるほど、会津の良さを分からせるとかそういうことか。

 それならば、

「まあ時間もあるし、いいよ、だって俺暇だし」

 と言ったところで菜緒さんがグイッと前に一歩出てきて、

「その、適当に、流されているとか! じゃないですよねっ! 本当に良いんですよね!」

 なるほど、俺の言い分や性格を知ってそう言ってきてくれているわけか。

 いやいや、本当に暇だし、何も無いし、

「うん、そういうわけじゃないよ。暇とはいえ面倒なことは基本ちゃんと面倒と感じるからね。だってもっと会津のこと知りたいし」

「ありがとなし!」

 そう飛び跳ねた菜緒さん。

 髪が揺れて、笑った菜緒さんにドキッとしてしまい、つい俯いてしまうと、

「永嗣くん、やっぱり、嫌、ですかね……?」

 と不安そうに言ってきたので、これじゃダメだと思って、顔を上げて、

「全然! 全く嫌じゃないよ!」

 と言ってから一緒に水撒きをして、収穫して帰っていたんだけども、自分の部屋に着いてから、なんというか事の重大さに気付いてしまった。

 これ、もしかするとデートに誘われたのでは? いやいや菜緒さんって俺のこと好きってまだ継続してんのかな?

 もう好き終わった可能性もあるけども、また続いている可能性もにわかにあるんだよな……俺、どんな服着ていけばいいんだ?

 いや普通の、いつもの、今日着ていった服でいいよな、別にデート用の服とかも無いし。

 何か、変に意識してきたかも……ヤバイ……好き終わってる可能性だってあるのに、ただの友達として誘われた可能性だってあるのに。

 でもあの反応、というか、最初から頬を赤らめていたあの感じって……急に稀子の顔が浮かんだ。

 いや、何かちょっとした背徳感もあるし、いやいや稀子こそ、俺のこと好き終わってる可能性あるだろ、あれこそ適当だろ。

 背徳感みたいなことは違う、それだけは違う。

 そんなことを考えながら、あっという間に当日になった……否、当日までめちゃくちゃ長かった。

 ずっと何か悩んでいた。こんなに時間の進みは遅いかと思ってしまった。結局考えることは同じようなことばかりなのに。

 友達! 友達として! 会津の良さを分からせるみたいなそういうこと! と脳内で叫んで終わるだけなのに。

 最寄りの駅で待ち合わせしていると、菜緒さんが、

「さすけね?」

 と話し掛けてくれた。

 大丈夫って俺、何か相当不安そうな顔をしていた? いやいやだって、どっちか全然分かんねぇんだもん。

「大丈夫だよ、菜緒さん。全然元気だよ」

「気分が悪かったらすぐに帰ろうねっ」

 そう優しく微笑んだ菜緒さん。

 菜緒さんはいつもより花柄の服で、見たこと無い長めのスカートで、明るいカラーリングだった。

 対する俺はザ・陰キャ学生のコーディネートで完全に浮いてるし、もしかしたらアレじゃん、好き終わってない可能性あるじゃん、と思ってしまった。

 でも『俺のこと好き?』なんて陽キャ中の陽キャ発言なんてできないし、俺はただただ電車に揺られるしかなかった。

 揺れているのは電車なのか、俺の心の中なのか、なんて陳腐なことを考えてしまって、マジでしょうもなかった。

 電車には人があまりいなかった。最初は会話あんまりだったけども、目的の駅に着く頃には結構喋っていた。

 野沢駅という西会津の駅に着いた。

 降りてから開口一番に菜緒さんが、

「ここの道の駅、大きいから歩いて見に行こう!」

「近いんだ」

「うん、全然遠くないですよ」

「じゃあこの西会津でいっぱい遊ぶって感じ?」

「う~ん、西会津で降りちゃうと電車の本数的にも時間が無くなって、南会津のほうへの乗り換えはできなくなるから、喜多方に行って遅めだけどもラーメン食べようかなって思ってるの」

「喜多方ラーメンってよく言うなぁ」

 そんな会話をしていると、割とすぐに西会津の道の駅に着いた。

 思ったより大きいというか、大きな建物が二個あって、ギリギリ繋がっていないといった感じだった。

「まずは野菜のところから見ていこう、西会津はミネラル野菜と銘打ってあって、より体に良いんだぁ」

 ミネラル野菜なんて美味しそうなこと言いやがってと思いながら、建物の中に入っていった。

 そこにはまだ開いていないけども、フードコートもあって、俺らの住んでいるところよりはちょい栄えてるけど、フードコートまであるとは、と少し恐れおののいてしまった。

「野菜いっぱい!」

 そう言って手を広げた菜緒さんがすごく可愛かった。

 いやだってそんな小さい子みたいなアクションされたら、そりゃ可愛いでしょ。

「トマトとか色いいね」

「まさにミネラル野菜だよ!」

「喜多方には直売所とかもあるのかな?」

「普通に地元のスーパーもあるけども、あんまりそういう買い物は電車で来た時しないよっ」

「そ、そっかっ」

 と何だか恥ずかしくなってしまった。というか出不精なのがバレてしまった。

 でもトマトとか買って、近くで洗って丸かじりしたいなと思っていると、俺は冷蔵ボックスにありえないモノを見つけてしまった。

「ブルーシールって沖縄のアイス屋さんのヤツじゃん!」

 俺は出不精の耳年増で、いらん情報ばっかり知っているのだ。

 ブルーシールって確か沖縄のサーティーワンみたいなヤツのはず。何で西会津にブルーシールのカップアイスが売っているんだ。

 菜緒さんは自慢げに、

「西会津は沖縄と提携していて、沖縄の食品から雑貨までいっぱい売ってるんだよ!」

「そんなこと! あっていいのかよ!」

 と何かバカのツッコミみたいな言葉が出てしまった。

 食べたい、めちゃくちゃ食べたい、否、食べる。

「菜緒さん、俺おごるから一緒に食べようよ」

「おごらなくてもいいよ! 私が連れてきたんだから!」

「だからこそおごるよ! ブルーシール食べられるなんて!」

 俺は興奮のまま、黒糖味を選択し、菜緒さんは紫芋味を選択した。うん、両方沖縄感マックスだ。

 ブルーシールのカップを隣の情報館で食べようとすると、

「こういう時は外のほうが気持ち良いよ!」

 と菜緒さんが言ったので、一緒に外のベンチで食べることにした。

 今日は八月の割に涼しい日で、外にいてもあんまり苦じゃない。

 というか情報館はトイレと直結らしくて、雰囲気が出ないらしい(雰囲気とは? まあトイレアイスはあんまだもんな)。

 ブルーシール、というか黒糖味のアイスなんて食べたことないので、若干緊張していると、菜緒さんが、

「早く食べようよっ……そうだ、最初の一口だけ交換しよう! それならスプーンも汚くないよね!」

 と言って、別に菜緒さんのスプーンは汚くないけども、あぁ、俺のほうがね、と思いながら、

「うん、菜緒さんの味も食べたいからそうしよう」

 と言ってそれぞれ最初の一口を交換した。

 最初に食べるのが自分じゃないほうの味というのが変な感じだけども、それも二人で旅をしている醍醐味という感じでむしろ良かった。

 それにそれぞれの味の感想が言えるし、菜緒さんは地頭が良いなぁ、と思った。

 紫芋のほうはもうまさしく芋で、芋の優しい甘さがして、色もすごい紫で、野菜の力ってすごいと思った。

 黒糖のほうは普通の砂糖には無いコクのある甘みで、本当に美味しかった。両方美味しかった。

 食べ終えたところでまた道の駅の、今度は物産館のほうを入ると、入り口の近くにデッカイぬいぐるみが置いてあった。

「ゆるキャラってヤツだよな」

「うん、こゆりちゃんというキャラクターだよ」

「デカいのも小さいのもある……値段ってあんまり変わらないもんなんだな」

「そんなこと無いよ、西会津のこゆりちゃんだけ値段があんまり変わらないだけだよ、このサイズで八百八十円ってぬいぐるみじゃ考えられないよ!」

「お買い得だったんだ」

 とちょっと吹き出してしまうと、

「ゆるキャラがお買い得とかちょっとおかしいよっ」

 と菜緒さんも笑った。

 物産館の中は会津から福島のお土産がズラリと並び、奥のほうには沖縄の特産品がたくさん並べられていた。

 普通に沖縄のほうが気になるな、と思っていると、菜緒さんが、

「永嗣くんって西会津初めて?」

「そうかもしれない。あんま両親が旅行に連れてくほうじゃないし、俺も行くほうじゃないし」

「じゃあ男の子はあんまり興味無いかもしれないけども、あのこゆりちゃんの小さいほう、私が買うからもらってくれないかな?」

「いいよ、じゃあ俺が自分でお金出すよ」

「いやいや興味無いでしょっ、だから私が払うよ」

「ううん、俺結構ぬいぐるみ好きだよ、思い出にちょうどいいじゃん」

 そんな会話をしながら、二人でこゆりちゃんのぬいぐるみ(小)を買った。

 この拳よりも小さいサイズなら全然かさばらないし、そもそも可愛いからかなり良い。

 一緒にそれぞれバッグに入れて、物産館を改めて見て回った。

 こゆりちゃんというモノを認識してからこの道の駅見ると、結構そこら中にこゆりちゃんいるなぁ、ということに気付く。

 ゆるキャラってそういうもんかと思いつつ、ついこゆりちゃんがパッケージに描かれた、西会津の名産品らしいキクラゲの煮物を家族の土産に買っていくことにした。

 あと菜緒さんには悪いけども、沖縄のお菓子を結構買い込んだ。こういうのってマジで家の近くでは見ないから。

 俺と菜緒さんは時計を見ながら、また野沢駅に戻り、今度は喜多方のほうへ進んで行った。

 電車内は段々人が多くなってきたんだけども、つい会話してしまった。

 でもそんな大声にならないように注意はしていた。

 喜多方駅に着いて、一緒に喜多方の蔵町というヤツを見ていくことにした。

「喜多方は蔵の町で、昔ながらの家がいっぱいあるんだぁ」

 と菜緒さんが説明してくれている。

 確かに全然情緒というか雰囲気が違う。

 全体的に木造というか、これはこれでお洒落というか、レトロな趣がある。

 町を歩くと、ラーメンというか醤油の香りがしてくる。

「喜多方は醤油文化でラーメンもほとんど醤油ラーメンなんですっ」

「俺、醤油ラーメンが好きだから楽しみだなぁ、まあ全部好きだけどね、ラーメンなら」

 菜緒さんはフフッと笑ってから、

「私もですっ」

「じゃあ一緒で良かった」

「私も一緒が良いですっ」

 そんな会話をしながら、とあるラーメン屋さんに入ろうとしたその時だった。

 急に菜緒さんが踵を返しそうになったので、どうしたのかな? 犬のフンでもあったのかなと思ったら、目の前にいた女子二人組が声を出した。

「あれれ? ナオニーじゃない?」

「あー、自分可愛い可愛いのナオニーじゃーん、可愛いー」

 ナオニー……? 菜緒さんのこと? それにしても何だそのリスペクトの欠片も無いあだ名は。

 その女子二人組は何だか人を小バカにしているように、

「わー、ナオニー可愛いー、一人で喜多方来たんだぁー」

「可愛いところみんなに見てもらいに来たのぉー? 可愛いねぇー?」

 というかこの”可愛い、可愛い”って、コイツらが菜緒さんをイジメていた連中か?

 菜緒さんのほうを見ると、ガタガタと震えだして、顔は青ざめ、一歩も動けなくなっていた。

「菜緒さん!」

 と俺が声を上げると、その女子二人組が俺のほうをチラリと見てから、また菜緒さんのほうを見て、

「あれれ? 男子と一緒なんて可愛いねぇー」

「ナオニー、可愛い可愛いしてもらってんのぉー? 可愛いねぇー」

 と嫌な言い方で言ってくるので、俺はカッとなって、つい、菜緒さんの手を握って、

「そうだよ! 菜緒さんは可愛いよ! うるさいテメェらの何倍もな!」

 凄むように言うと、その女子二人組は俺にビビったのか、そそくさとその場を黙ってあとにした。

 小刻みに震える菜緒さんの両手を握って、

「大丈夫、今は俺がいるから。何かあったら絶対俺が守るから」

 と菜緒さんの瞳を見ながら言うと、徐々に菜緒さんは落ち着いたみたいで、浅い呼吸から、しっかりとした深呼吸ができるまでになった。

 どうやら大丈夫かなと思ったところで、ちょっと離れてから、

「ゴメン、今更だけどお節介だったかな? 何か、変な、言いっぷりもしちゃったしさ……」

 とちょっと反省していると、今度は菜緒さんが俺の手を強く握ってきて、

「全然お節介じゃないです……永嗣くんのソレはお節介とは全然違います!」

 そう言われても、やっぱり自信が持てない俺は、

「というか俺、流されやすいだけで、ただ流されて、というか、菜緒さんにとって悪くないほうへ流されるようにこう言っただけかも」

 と言ってしまうと、菜緒さんは訴えかけるような語気の強さで、

「永嗣くんのは流されているんじゃなくて、淀みなく流してくれているんです! つまりは清らかな、清流のようなものなんです!」

 と言われた時、俺は何だか心の芯から暖まる感じがして、何だか本当に、今までのトラウマが浄化されたような気分になった。

 そうか、俺は淀みなく流していたのか、と心が躍ったところを反芻する。

 こんなことを言ってくれるなんて、菜緒さんは本当に、と思ったところで、菜緒さんが小さな声で、

「私って可愛いかな」

 と言ってきたので、俺はハッキリと、菜緒さんの顔を見ながら、

「可愛いに決まってるじゃん、本当はずっと言いたかったよ。今日の服も可愛いし、勿論菜緒さん自身も可愛いし、一挙手一投足可愛いよ。あんなバカな言い方じゃなくて、真正面に、真剣に可愛いよ、菜緒さんは」

「ありがとなし……」

 結局ラーメンは食べずに、二人で近くのベンチで休んでから、もう電車で戻ることにした。

 喜多方駅で電車に乗り、菜緒さんは早々に俺の隣で寝てしまった。

 まあいろいろあって疲れたんだろうな、と思って、俺もゆっくり外を見て過ごした。

 最寄りの駅に着く直前に菜緒さんを起こすと、菜緒さんは目を丸くしてから、

「寝ちゃってゴメンなさい!」

 と言ったんだけども、

「そんなことはどうでもいいよ」

 と言いながら、俺と菜緒さんは電車を降りた。

 まあ今まで通りまた今度って感じに別れようとすると、菜緒さんが俺の袖を掴んできた。

 何だろうと思っていると、菜緒さんが俯きながら、

「やっぱりダメです」

「何が?」

 と俺が言うよりも早いくらいに、矢継ぎ早に、

「なあなあにしたくないです。永嗣くんのことが好きです。私と付き合ってください」

 と言って俺に手を差し出してきた。

 さっきまで掴んでいたこともあった手が何だか神々しく見えた。

 これに触れたら人生が変わるんだろうな、というような分岐点にも見える。

 俺は、菜緒さんのことをどう思っているのだろうか、って、ずっと可愛いと思っている。

 何よりも、そんな菜緒さんが誰かの恋人になったら、後悔するということも自分の中で分かり切っていた。

 じゃあ断る理由なんて何一つ無くて。

「菜緒さん、俺でよろしければ」

 俺と菜緒さんはその場で抱き合った。

 最寄りの駅だけどもなぁ、と一瞬思ったけども、菜緒さんから甘い香りがしてきたら、もうそんなことはどうでも良くなった。


・【13 エピローグ】


 というわけで、そんなことを稀子にも報告することにした。

 稀子が畑へ来る日に、俺と菜緒さんで突撃して、そのことを言うと、稀子は、

「まあ勝負は結婚するまで続くからな!」

 と快活に言い放ち、コイツはすごいし、好き終わってなかったんだとも思った。

 あと担任は何もすごくないけども。アイツは全然すごくない。今のところ一度も畑に顔出さないし。


(了)


参考文献「会津伝統野菜」著:平出美穂子氏 歴史春秋社

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