【10 茎立】
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・【10 茎立】
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次の日、校門をくぐったところで、菜緒さんが嬉しそうに竹のザルを持って立っていた。
相変わらずその野菜そのものは新聞紙に包んであって何だかは分からない。
茎立……と心の中で反芻しながら、菜緒さんへ、
「おはよう、今日は茎立だっけ?」
「はい、茎立です!」
もう言わなきゃ分かんないんだろうな、と思いながら、
「茎立って何?」
「簡単に言うと折り菜です!」
「お、折り菜も分かんないんだよな」
とちょっとアホな裸の大将みたいなことを言ってしまうと、菜緒さんは、
「じゃあ職員室で一回開けて見てみましょう!」
と答えて、教えてはくれないんだと思った。
いや折り菜以外の言い方が無いということか?
折り菜ってマジで何だろう、いや茎立なんだけどもさ。
二人で職員室へ着いたところで、早坂先生が、
「早く茹でてくれよ」
と開口一番言ってきて、茹でるモノということは分かった。
というか真っ先に生徒に言うことじゃない。普通に挨拶だろ。
というか早坂先生は茎立が何だか分かっているわけか、何か悔しいなぁ、と思っていると菜緒さんが、
「永嗣くんも早坂先生と一緒で茎立が何だか分かっていませんでしたよ」
と言ったので、昨日教えてもらったということか、と思って、心の中でガッツポーズした。
早坂先生だけが知っていることなんてないよなぁ、と失礼なことを思ったけども、これは失礼じゃないとする。
菜緒さんが新聞紙を開けると、そこにはいわゆる菜っ葉が出てきた。
茎は太めで、葉っぱが緑緑しい、何か見たことある、新潟でもある、茹でると甘いヤツだ、味はブロッコリーの芯とかに似てるヤツ。
でもこの茎立は何か二種類あって、もう片方はあんま茎が太くないかもしれない。だけども両方とにかく綺麗な緑で健康食感がすごい出ている。
菜緒さんがフフッと笑ってから喋り出した。
「これは荒久田茎立とちりめん茎立でぽきぽきと摘みとる野菜です」
ああ、それで折り菜ということか。
折って収穫するから。
「雪溶けの早春に伸びた花茎は、 越冬前とは比べ物にならない程柔らかく甘みが増していくんです。会津地方の食卓には三食のみならず間食のお茶請けにも食される程親しまれているんです」
「お茶請けかぁ、というとあんまり臭みが無いということ?」
「そうですね、臭みは全く無いですよ、荒久田茎立よりやや遅れて旬をむかえるのがちりめん茎立で、 着物のちりめんのように葉が重なり合い、ちぢれていることが特徴です」
なるほど、じゃあこっちの茎が太いほうがちりめん茎立かな?
菜緒さんは続ける。
「同じ茎立ではありますが、荒久田茎立はつけ菜の仲間で、 高菜や野沢菜の和種と同グループ。ちりめん茎立は洋種などと同じ仲間で、江戸時代には見られなかった野菜なんです。会津若松市町北町荒久田周辺の茎立が会津平野で最も美味しいと言われていて、また生産量も最も多いところから次第にこの呼称が茎立の代名詞になったんです」
「しっかり歴史、有難うございます」
と頭を下げた俺。
「どういたしましてっ」
と菜緒さんも会釈をして、何だか笑い合ってしまった。
俺は気になることを聞くことにした。
「つまりというか茹でると甘くなるヤツだよな、こういうのって」
「ですです」
「じゃあ早坂先生に買ってきてほしい食材を伝えておくか」
「それがいいですね!」
そう手を合わせた菜緒さん。早坂先生も「おっ」と声を漏らした。
すると菜緒さんは、
「すりごまと、人参と厚揚げがあると有難いです」
早坂先生は嬉しそうに、
「和風だぁ」
とホクホク顔になり、じゃあ俺は、と思って、
「いつも通り卵と、ツナ缶と餃子の皮を買ってください。あと弁当に使う銀紙の仕切り」
と言うと早坂先生はホッコリとした笑顔で、
「餃子だぁ」
と言った。
いやまあ餃子以外にも考えがあるんだけども。
俺もただただ菜緒さんのお手伝いで終わる気は無い。
俺の茶碗蒸しの可能性を無限に広げる計画があるのだ。俺の中で。
菜緒さんも驚いてくれると嬉しいな、と思った。
教室に戻り、稀子も話し掛けてきて、菜緒さんは稀子にまず会津野菜、そして茎立の説明をし始めた。
意外と稀子はこういう時、真面目に話を聞いていて、それはできるんだ、と思った。
昼休みは何か普通の雑談で消費し、ついに放課後になった。
改めて職員室から茎立を持ってきて、早速まずは茹でることになった。
菜緒さんは料理によって茹で加減を変えるということで、これ以上熱さない料理はしっかり茹でて、茹でたあとからも熱す料理は軽く茹でた。
その行動を見ていた稀子が、
「茹でるだけでも二種類!」
と驚くと、菜緒さんが、
「熱し過ぎると茎立がズルズルに柔らかくなってしまうのです」
と答えて、稀子は深く感心しながら、
「もう奥深い……」
と言っていた。俺も思ったけども、稀子と一緒は癪なので、言わないことにした。我ながら卑怯だと思った。
まず菜緒さんはすりごまと砂糖とめんつゆと、深く茹でた茎立を混ぜ合わせ、最後に塩を一つまみ入れて、胡麻和えを完成させた。
するとずっと黙って見ていた早坂先生が開口一番に、
「うひょー!」
と言って、稀子が不思議な動物を見るような目をした。
俺と菜緒さんはもう慣れているけども、稀子は初めてか。
そうか、そうなんだぞ、早坂先生は徐々にリスペクトできなくなっていくもんなんだぞ。
俺も早速頂くと、
「胡麻の風味と茎立の爽やかな青さがすごく合う! 砂糖の甘みもあるんだけども、茎立そのものの甘みも濃くてすごく美味しい!」
稀子も早坂先生も食べていき、
「これはこれは」
「ほほう」
と何故か昔の偉人みたいなリアクションをしていた。何なんだコイツら。
次に菜緒さんは浅く茹でたほうは冷水につけて、しゃっきりさせておき、人参と厚揚げを短冊状に切り、フライパンで順番に炒めだした。
みりんと醤油で味付けをして、炒め煮の完成、否、歓声となった。
「「うひょー」」
稀子、オマエもか。
オマエも早坂先生グループだったんだな、そんな感じがしていたぜ。
まあ俺も同じように頂くわけだから同じだけども、と思いつつ、俺はしっかり感想を言う、と思いながら、
「滋味深い味付けが茎立に合う! 食材の柔らかさが一緒だから口馴染みが良くて、本当に美味しい! 食べやすい!」
と言ったところで、俺の番だな、と茹でて刻んだ茎立とツナを混ぜて、調味料を入れたところで、餃子の皮で包むことにした。
「稀子、オマエも餃子作り手伝って」
「アタシの出番だな! 初めての共同作業ってヤツだ!」
「そういう冗談は嫌い」
という言葉を出したのは俺じゃなくて早坂先生だった。
早坂先生はつらつらと喋り出した。
「何だよ高校生で男女みたいなヤツ、早いんだよ。アタシが全然まだなのによぉ、アタシは大人だよ。大人のアタシを差し置いて恋愛とかちゃんちゃらおかしいぜ、なぁ。ションベンクサイガキどもが。自分で稼いだ金で遊べよ。そう思うだろ、なぁ。養われている身分で恋愛とかバリキモイぜ。なぁ」
時折挟まる”なぁ”が怖過ぎる……稀子は震え上がってしまい、そこからは黙って餃子を包みだした。
「私もするねっ」
と菜緒さんも一緒にしてくれているわけだが、何か俺が一番下手だ。
いや菜緒さんが上手いことは分かる。でも稀子、マジでセンスの塊過ぎる。慣れるのが上手すぎる。あと早坂先生もやれよ。オマエはやるべきだよ。本当は。
ある程度包んだところで具が無くなったので、これでおしまいとなった。
すると早坂先生が、
「餃子の皮はまだあるぞ! 茎立もまだあるからな! というか弁当で使う銀紙の仕切りって餃子で使うんじゃないのか!」
と言ったところで菜緒さんが、
「餃子の皮のアレンジ考えたので大丈夫です!」
と言って正直俺は内心『えぇぇえ!』と思ってしまった。
どうしよう、俺と被っていたら。
いやでも、
「銀紙の仕切りは俺のアレンジレシピで使うので」
と言うと菜緒さんがニコッと笑ってから、
「アレンジレシピ対決ですね!」
と言って、対決になるといいけどな(俺のクオリティ的に)と思った。
餃子は普通に焼いて完成となった。
真っ先に食べたのは早坂先生だった。その行動を見ていた稀子は少しだけ不満そうな顔をした。いいぞ、ヘイト溜めろ!
「うわぁああ! ちゃんと餃子だぁぁああ! オイル込みのツナ缶の脂さとサッパリとした茎立がマッチするぅぅうう!」
さて、といった感じに菜緒さんが、
「どっち先に作る?」
と言ってきたので、俺は、
「自販機で牛乳買ってくるわ」
と答えると、菜緒さんが、
「じゃあ私が先に茎立のスープを作っておきますね」
と言って、よしっ、被っていないし、タッパづらいだろうと思っていると、早坂先生はニコニコ余裕そう。
コイツ、スープも全然余裕にタッパに詰めるのか、相当良いタッパを持ってきているな、生徒が作る料理に対して。
そんなことを考えながら自販機のほうへ走り出した。
調理実習室に戻ってくると、もう良い香りがしていて、
「そろそろ基本の部分は完成です。茎立の味噌スープです」
菜緒さんの鍋を覗かせて頂くと、味噌と醤油のあいのコのようなつゆモノが完成していた。
茎立と残った人参と厚揚げに、さらに卵を溶いて、彩り鮮やかだ。
どんな味か楽しみにしていると稀子が、
「基本の部分ってなんだ?」
と言って、確かにとは思った。
すると菜緒さんが、
「永嗣くん、まだ餃子の皮、使ってもいいですよね?」
「うん、まだまだ大丈夫かな」
「じゃあちょっとだけ」
と言いながら餃子の皮を細く切って、そのままスープの中に入れたのだ。
菜緒さんがニッコリしながら、
「餃子の皮を麺にしてみましたっ。それと」
と言って今度は油を敷いたフライパンに細い餃子の皮をパリパリになるまで焼いて、
「これはトッピングのパリパリで自分で食べる時に掛けてください」
それに対して早坂先生がデカい声で、
「すごぉぉおおおおおおおおおおお!」
と叫んだ。
今日一だ。何なんだ、コイツは。
稀子も嬉しそうに、
「すごいアレンジレシピだぁぁぁあああ!」
と声を荒らげて、何なんだ、コイツ・ファミリーだ、と思った。
とは言え、俺は静かなだけで、しっとりと食うコイツとして、頂くと、
「味噌と醤油とめんつゆも入ってるかな? スープは勿論美味しくて、炒め煮と同様、食材の口当たりが全部一緒で食べやすくて、麺役の餃子の皮も美味しい! また小麦粉がスープに溶けだしてより深みがある! さらにトッピングを入れることで、食感に変化が加わって、これはこれで面白い! というか美味しい! トッピングの餃子の皮の揚げ感が香ばしい!」
本当にマジで美味しい……これ、俺が餃子の皮と言ったあとに思いついたということだよな……末恐ろしい子……。
俺のいつか、なかなか柔らかい食材がきたら、やってやろうと思っていたとは訳が違う。
菜緒さんはマジで尊敬できる。これはガチ。
いや負けてられない。
「俺もアレンジレシピやりますか……」
とちょっとカッコつけた言い方になり、何かめちゃくちゃ恥ずかしく思えてくると、案の定、早坂先生が、
「イキってますな」
としっかりイジってきて、穴があったら入りたかった。ことわざのマジのヤツ。
すると菜緒さんが優しく、
「永嗣くんのアレンジレシピ、楽しみです!」
と言ってくれて、本当に有難いと思っていると稀子が快活に、
「やってやれ! 菜緒に負けるな!」
と言ってくれて、コイツも何だかんだで良いヤツじゃないかと思った。
俺は茎立をちょっと強めに茹でてから、卵と牛乳と調味料を混ぜ始めた。
すると早坂先生が、
「茶碗蒸しじゃん」
と言ってきて、稀子が早坂先生にどういう意味か聞いて、答えていた。
いいやこれは茶碗蒸しじゃない!
「銀紙の仕切りに餃子の皮を器になるように入れて! 卵液と茎立を入れて! オーブンで焼く! これはキッチェだ!」
「「「キッチェ!」」」
とトリプル・ユニゾンした三人はそれぞれ、早坂先生、稀子、菜緒さんの順で口を開いた。
「キッチェってなんだ!」
「お洒落な女子かよ!」
「その手がありましたか! すごい!」
早坂先生だけザコだなと思いつつ、俺はオーブンでそれを焼き始めた。
そろそろかなと思ったところで開けると、卵液はしっかり固まっていた。
俺は言う。
「火をあとから入れるのだが、茎立はあえて強めに茹でた。何故なら中身が柔らかい同士で繋がるよう、あえてズルズルの食感のほうが卵液と合うからだ!」
すると早坂先生のデカい声が聞こえてきた。
「講釈はどうでもいいから食わせろぉい! ……! また茶碗蒸しとは違うこの焼き感! プリンとも違うプティング感! 餃子の皮も卵液の無い部分はカリカリで、卵液の部分はしっかりしっとりとしていて! ちゃんと美味しい!」
菜緒さんも稀子も笑顔で食べてくれて、本当に良かった。
たくさん作った料理はどんどん早坂先生がタッパに詰めていき、お開きとなった。
小声で稀子が「タッパもありか」と言っていて、ライバル現るだな、と思った。
また時間が経過し、昼休みに野菜の追肥をすることにした。
それと同時に今日の放課後には胡瓜の”手”を作るらしい。
ついに”手”がベールを脱ぐわけか、楽しみだな。
昼休みの追肥は稀子が本当に役に立つ。
力作業はお手の物といった感じだ。
「稀子は本当に何でもできるなぁ」
となんとなくそう言うと、稀子は急に顔を真っ赤にして、
「何でも! じゃ! ないけどな!」
とガハッと笑った。
何そのリアクション、稀子らしくないな、と思ったんだけども、何か、俺のほうがどんどん恥ずかしくなってきて、あんま言わないほうが良かったかもと思った。
ちょっとだけお節介のトラウマも思い出してしまった。余計なこと言わないようにはしているんだけどなぁ。
放課後、手を校長先生と作ることになった。
”手”とは結局、胡瓜が伸びてきた時にツタが絡まる場所で、人間の感覚から言うと、手すりのようなモノだった。
土によく刺さる緑色の棒を立てていき、時に麻紐で棒を横にして縛っていき、ザックリ言うと格子状に作っていく。
こういう細かい作業も稀子が本当に得意で、マジで何でもできるんだから恥ずかしそうにするなよ、とは思った。
でもつい、
「稀子は本当にこういうのも上手だなぁ」
と言ってしまうもので、その度に稀子は頬を赤らめるし、菜緒さんは菜緒さんで何だか不満そうな顔をするし、大変だった。
菜緒さんの俺のことが好きも、もしかすると持続しているのか? 勝手にもう済んだことと思っていたけども、まさかまだ持続しているのか?
そんなこんなで、会津余蒔胡瓜と会津丸茄子はスクスク育っていく。
こんな感じで俺も成長しているといいんだろうけども、まあ……無理そうだな。
また時は経過し、ついに会津余蒔胡瓜と会津丸茄子が実ってきたところで、教室で菜緒さんがその二つの会津野菜の説明をしてくれた。
「まず会津余蒔胡瓜は江戸時代から産地として知られた会津若松市門田町飯寺周辺で、昭和二十年頃まで会津余蒔胡瓜が栽培されていたんです」
すると俺はいつも菜緒さんに任せて、口を挟まないんだけども、稀子が、
「何で栽培しなくなったんだ?」
と聞くと菜緒さんは少し物悲しそうに、
「経済効果が見られなくなると次第に姿を消してしまったんです。そのまま無くなったのかなと思ったんだけども平成十五年に国のバンクに種の保存がされていたことが分かって、福島県農業総合センターの佐藤睦人氏や福島県立博物館の板橋良英氏によって会津に持ち帰られて、六十数年ぶりにその姿が見られるようになったんです」
稀子は胸をなで下ろすように、
「そんなことがあるのかぁ、戻ってこれてホッとしたぁ」
そんなに感情移入して聞いているんだ、とちょっと驚いてしまった。
稀子はいろんなことに正直なのかもしれないなぁ、正直過ぎて困ることも多々あるけども。
菜緒さんは続ける。
「余蒔とは、余った時間に蒔くところから 余蒔と言って、 胡瓜の他にも余時いんげんや余蒔瓜があるんです。いずれも夏に種を蒔き、晩秋まで食べることができます」
余った時間に蒔く、ということはずっと食べるモノがあるように、ということか。
今の時代はハウス栽培とかあるから、いつでも好きなモノが食べられるけども、当時は無いだろうし、それはその当時の知恵なんだろうなぁ。
「次は会津丸茄子ですね、果肉はとろけそうな柔らかさを保つ丸茄子で、ほぼ会津全域で栽培されています。出荷量は少ないですが、 自家用としての栽培は多いんです」
「それはいいなぁ」
とすぐに相槌を打った稀子。
結構会津野菜に感情移入しているみたいだ。
そういう楽しみ方をしているというか。でもそうやったほうが没頭できたのかもしれないなぁ、俺は聞くだけだったけども。
この聞くだけというのもあんま良くなかったのかもしれないな、聞き流しているというか、この何でも流してしまうところが俺の良くないところだ。本当に。
いや勿論学んで覚えているつもりではいるけども。
菜緒さんは続ける。
「真夏の暑い時にたくさん獲れた丸茄子は、食べやすい大きさに切って天日干しにして保存して、冬期間、これを水でもどして炒め物や味噌汁にする方法も伝承されてきているんです」
「「フリーズドライだ」」
と俺と稀子の声がユニゾンした。
言ってすぐに俺は、
「いやフリーズじゃないけども」
と言ったけども、感覚としてはそんな感じだ。
そういうこともしていたんだ、昔の人って。
いろいろ考えるなぁ、と感心してしまった。
「秋になると会津丸茄子も含めて茄子が最も美味しい時期となって、なすだしは山形県の郷土食として会津地方のマーケットで販売されていますが、会津地方では『今日は何もないからなすだしでも作ろうか』というくらい夏の会津の郷土食の一つとして伝承されてきたものなんです」
稀子は小首を傾げながら、
「なすだし……?」
と言ったので、ここは、と思って菜緒さんよりも早く俺が口を出すことにした。
「なすだし、つまり“だし”でいいということだよな、だしというのは茄子とキュウリと大葉を細かく刻んで、とろろ昆布で粘りを出す料理のことだよ。ご飯に掛けて食べるんだ」
すると菜緒さんが補足するように、
「粘りの部分は、めかぶとか、オクラでも代用するよっ」
と言ってくれた。
稀子はハッとしてから、
「山形遠征で食べたことあるかも! あれめちゃくちゃ飯が進むよな!」
菜緒さんはうんうん頷いているけども、正直俺は食べたことは無かった。
知識だけのしょうもない男だ。この時点で稀子に上を取られてしまったことが寂しい。
いやいや、今回、会津余時胡瓜と会津丸茄子で作ればいいじゃん。
そうすれば並んだも同義。これは楽しみになってきたぞ。
それならば、
「じゃあいざ料理の日は前日に俺に教えてくれよ、炊いた米をお弁当にいっぱい詰めて持ってくるからさ!」
「ありがとなし!」
と即座に菜緒さんが言うと、稀子がニコッと笑いながら、
「方言可愛い」
と言って、いやまた、と思ったんだけども、それに対しても菜緒さんは微笑みながら、
「ありがとなしっ」
と答えて、本当にもう大丈夫になったんだと思って、俺は何だか心が躍った。
俺もこうやってトラウマを克服したいなと思ったけども、それは無理かもしれないな、とふと思った。
お節介をついしてしまい、それが失敗するトラウマの克服方法なんて無いだろと思うから。
会津余時胡瓜も会津丸茄子もどんどん成長していき、いつの間にかもうそろそろ夏休みが近くなってきた。




