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【01 田舎の高校】

・【01 田舎の高校】


 高校二年生になった。いや始業式の次の日なので、もう完全になってるんだけども。

 地元の高校をただ選んだだけなので、特にやりたいこともなく、今も適当に登校している。

 道端には草木が無造作に生えていて、本当に田舎丸出しだと思う。

 さすがに大学はもっと都会へ、とかも思うけども、地元で働くところがあれば、それでいいとも思っている。

 俺は地元で収まる男だ。

 向上心は何一つ無い。

 生きていければそれでいい。

 だって最近はAmazonで欲しいモノは何でも買えるし、ネット環境さえあれば、お笑いの劇場でやっているライブの配信を買うこともできる。

 別にそれでいい。自分が自分の体で何かを体験したいとは全く思わない。

 まあ適当にお笑いを見て生きていければそれだけでいい。

 そんなことを思いながら、桜の木を見ると、そよそよと風で揺れていた。

 桜の木って、まんま桜餅の匂いがするよな、そんなことを思いながら校門をくぐった。

 俺と同じ学生はまばら。

 田舎の高校だからだ。

 まず人が全然いない。

 一学年一クラスしかないのだ。

 普通科のくせにまるで人がいない。いや普通科だからか? 何の特徴も無い、田舎のだけの高校だからか?

 まあ他の高校といろいろ比べてみたこともないので、そんな思考はすぐに飽きて、教室に着いた。

 代り映えの無いメンバーが「おーっす」と言ってきて、俺も「ほいっ」と適当な返事をする。

 幸い、俺の学年は仲が良いので、こんな感じでもハブられることはない。

 この、学年が変わっても席替えすらしない教室の窓側の一番後ろの席に俺は座った。

 すると俺の隣に一つ、机があることに気付く。

 去年はこんなところに机なんてなかったのに。

 机の数を数えると、今までのクラスの人数+1だ。

「この机、間違えてるよな」

 と前の席の球磨川に話し掛けると、

「じゃあ片付ければ?」

 と素っ気ない返答をされたので、俺はハハッと笑ってから、

「面倒クサいだろ、それは」

「そりゃそうだよね」

 と言い合って、会話はそれで終わった。

 それにしても”片付ければ”か。

 そんな面倒なこと俺が“自主的には“しないこと知っているだろうに、あんな言いっぷり。

 球磨川は本当にツンデレだな、ツンデレ・ポニーテールだな、今のところデレが一度も無いけども、ものすごいツンデレだな。

 そんなことを思いながら、ずっと窓の外を見ていると、球磨川が俺に話し掛けてきた。

「片付けてないじゃん」

「いや片付けないって話で終わったよ」

「田中は学級委員なんだから片付けたらいいじゃん」

「えっ? 俺、今年も学級委員なの?」

「だって田中は暇じゃん。去年も暇だから受け持ったわけだから、じゃあ今年も暇じゃん」

「まあ暇だけども」

 と俺が少し俯くと、球磨川は語気を強めて、

「みんな部活を一応やってるわけじゃん? 田中は頑なにやらないわけだからやっぱ学級委員は田中でしょ」

「じゃあそっかぁ」

「というわけで片付けたら?」

「俺がやらないといけないわけかぁ」

 と思いながら立ち上がり、俺は球磨川に言われるまま、机を片付けることにした。

 まあ誰かはやらないといけないわけだから、学級委員をするだろう俺がやらないとダメなわけか。

 正直めちゃくちゃ面倒だけども、そう言われたらやらないといけないような気がする。

 すると球磨川が、

「まあイス運ぶのくらい私が手伝ってやるから」

 と言って、おっ、デレ・イベントじゃん、と思ってしまった。

 球磨川のデレ・イベントは貴重だから、これはかなりの良い感じさだな、と思ったけども、別に俺は球磨川のこと好きじゃないし、とも思った。

 球磨川も立って、イスを持ち、俺も机を持ったその時だった。

 ”ざらざらざらざらー!”

 なんと机から大量の教科書が出てきたのだ!

 球磨川がデカい声で、

「透明人間が新加入っっっ?」

 と言った。

 俺は机から出てきた教科書を拾いながら、

「いや普通に転校生なんじゃないか?」

 と球磨川にだけ言うくらいの声の大きさで言ったんだけども、普通に教室中に聞こえたらしく、クラスメイトが口々に、

「こんな田舎に転校生が新加入っ?」

「いやいや田舎だぞ、この高校」

「人気の無い高校にわざわざ?」

「転校生が新加入かよ!」

 そもそも新加入って言い方止めろ。プロスポーツ球団じゃないから、ここ。

 教室内は一気にざわざわしていき、球磨川は呆然と立ち尽くしているが、教科書拾うの手伝ってほしい。

 俺が最後の教科書に手を掛けたところで、球磨川が、

「あっ、今! 私のスカートの中、見たかっ?」

「いや見てないし、球磨川も拾えよ」

「残念、見せパンだから」

「見てないって言っただろ」

「まあ田中には別にだし」

 と言って自分の席に座ったわけだが、なんだよ、これもデレ・イベントだったのかよ、とは思った。

 机をちゃんと元の位置に戻して、俺も席に着いたわけだが、まあもう転校生の話題で一色。

 球磨川は自分の隣の席のヤツと喋り始めて、俺は話す相手がいなくなった。

 まあ別にいいかと思いながら、また外を見始めたところで、ホームルームのチャイムが鳴った。

「転校生が来るぞ!」

 と誰かが叫んだけども、何かその声はあんまりって感じで、空を切った。

 何故かその声だけはスベッた感じになったので、ちょっと吹き出しそうになってしまった。

 チャイムの二分後に早坂先生が気だるそうにやって来た。

 こんなローテンションなのに、長い黒髪だけはツッヤツヤで、どこに命を賭けているんだよって感じだ。

 じゃあちょっとくらい化粧しろよ、それを女子に指摘されたら『お水は塗ってるから』と言っていて、めっちゃ教室がウケたなぁ、お水って言い方なんなんだよ。

 早坂先生はいつも通りのやる気の無い声で、

「ずあー、今日は転校生が来ています」

 と言ったところでクラス中が拍手喝采したわけだけども、俺はそんなことより”じゃあ”という枕詞が”ずあー”になっていたほうが気になっていた。

「入っちゃってぇー」

 というアホそうな早坂先生の呼び込みがあると、また教室のドアが開き、そこにはなんと黒髪ボブ(って言うのかな?)の女子が立っていた。ちょっと身長低めかな? 高校二年生にしては。正直中学二年生に見える。

「あの、私はその、東北の福島の会津のとこから来ました、あの、会津菜緒と言います」

 ……何か”の”が多いなぁ。この高校、福島県の会津とめちゃくちゃ近いから何なら会津だけで伝わる。まあ苗字と被ってるから長めに言ったって感じなのか?

「好きな趣味の遊びのことは、あの、台所の料理のご飯作るヤツです。よろしくお願いします」

 ……だとしたら”の”が多いなぁ、やっぱり。台所の料理って何だよ、台所以外に料理って無いだろ。

 野良の草に味噌付けて食べることは料理って言わないからな。

 早坂先生はうんうん頷きながら、

「で、菜緒はやりたいことがあるんだって?」

 何その司会感。早坂先生ごときが偉そうにと思っていると、会津菜緒さんは、

「私はこの高校の下部の組織の料理部を作りたいと思っています」

 下部組織ってサッカーのアンダー世代みたいに言うな、みんなこの高校のこと、サッカー球団だと思ってる?

 会津菜緒さんは続ける。

「だからその、高校の下部の組織の料理部に入ってくれる人はいませんか?」

 すると何故か早坂先生が挙手するように後ろ頭を掻きながら、

「アタシは暇だから顧問をするとして、ほら、田中も暇だろ? 入ってやれよ、二人いると部活になって部費が出るんだよ」

 急に俺が指名されて、目を皿にしていると、会津菜緒さんは嬉しそうな顔をしてから、

「入ってくれる人、いるんですね!」

 と言ったところで、めっちゃ断りづらいなとは思った。

 だってあんな目を輝かされたら、もうなんというか、まあいいか、別に、確かに俺は暇だし。

 いっつもこうやって流されているわけだから、今回も適当に流されよう。

 まあとりあえず誰が田中か分かりやすいように、俺は立ち上がりながら、

「じゃあいいっすよ」

 と答えると、会津菜緒さんは急にこっちへ駆け寄ってきて、なんだなんだと思っていると、会津菜緒さんは俺の手を手に取って握りながら、

「私、会津菜緒です! 呼び方の言い方のそれは、菜緒でいいです! よろしくお願いします!」

 と俺の手を握りながら、その手を軽く揺らしてきた菜緒、さん。まあ最初はさん付けがいいだろうと思って、

「じゃあ菜緒さん、俺は田中永嗣、永嗣でいいよ」

「分かった! 永嗣くん!」

 と言ったところで早坂先生がちょっと大きな声で、

「田中ごときが名前で呼ばせるなよー、じゃあオマエ、今年も学級委員な」

 とめっちゃ軽く学級委員に決まってしまった。別にいいけども。暇だし。

 そんな感じでホームルームが終わり、案の定、菜緒さんは俺の隣の席に座った。


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