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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

気まぐれ企画 妻を泣かす奴は、異世界の奴でも許しません

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/01/01

時々、とんでもない事態にも、なるのです。

 差し入れ先が二つになってしまったが、まあ労力を考えれば安いもんだと夫婦は考えて、本日も異世界へと向かった。

 本日は、二人連れの方にレンを送った後、妻は父親の方に向かう予定だ。

「……地図と少しだけ、位置がずれているという事は、ここ辺りを目指せば丁度いい、かな?」

 真剣に考えている妻を、レンは二つの折り詰めを両手に抱えて見守る。

 この手の事では使い物にならないが、今日の行先に関しては気楽に送ってもらうだけでは済まない。

 何故なら、数あるゴーレムの里の一つが、ミヅキたちのいる場所に近いのだ。

 いくら遠くでの解散でも、この間のようなことがあっては困ると、警戒はマックス状態だ。

「よし、行こう」

 無感情に呟いたセイが、こちらに頷いて見せたので、レンも頷き返して傍に寄った。

 一瞬の眩暈と共に、自宅の家内から風景が変わり、乾いた大地が広がる平野に出た。

 その少し先に、件の里があるらしい。

「うん、何とか間違わなくなった」

 無感情に満足する妻に微笑みながら、レンは持っていた折詰弁当の包みの一つを、差し出す。

「こっちは任せろ」

「うん。頼んだ」

 二人頷き合って別れようとしたとき、足下が大きく揺れた。

 よろめく二人の足首を、それぞれ何かがつかむ。

 すぐに振りほどいたレンは、そこから這い出てきた物を見て、顔を引きつらせた。

 乾いた砂状の大地から這い出たそれは、土人形だった。

 陶器を思わせる滑らかな肌と、人のような顔立ちの、精巧な人形。

 その目が、ぎょろりと二人を見上げた。

「っ」

 その目を見返したレンは、すぐにそれを粉砕した。

 そして、立ち尽くしたままの妻の方に駆け寄る。

 妻を見据えたまま這い出し、そのままその体に縋ろうとする前に、思いっきり人形の頭を蹴り上げていた。

 頭が粉々に砕けて倒れたそれに見向きもせず、立ち尽くしたままのセイの肩を引き寄せる。

「おいっ、しっかりしろっ」

「? ? あれ? あれ、ゴーレム? 嘘だろ? あれは……」

 混乱する妻を抱きしめつつ、レンは必死に言葉を紡ぐ。

「セイ。良く聞け。今のは、ただの土の塊だっ」

「はっ? そんなはず……」

 無茶な主張に反論するセイの背を、男は必死にさすって言いつのった。

「そうなんだよっ。だからお前は見なかったことにして、このまま義父さんのところに行けっ。いいなっ? 冷静になるまで、迎えに来るなよっ?」

 無茶な言いくるめ方だが、こちらの必死さが伝わったのか、混乱したまま頷いたセイは、レンの目を見返して頷いた。

 そしてすぐに、男の腕の中から消える。

 残ったぬくもりを噛みしめながらも、消えた妻の目が潤んでいたのを思い出し、目の前が怒りで真っ赤に染まった。

 そんなレンの足下から、今度は無数の人形が這い出て来る。

 その気配は感じていたが、男の目は空を仰いでいた。

「……たかが土人形の癖に、随分と生意気だなあ」

 笑おうとして失敗したレンの声は、我ながら完全に怒りで籠っている。

 自分の女房は、自他ともに認めるほど強い。

 そんな女を混乱させて泣かせた存在を、それを作っただろう奴を、どうして許してやる必要があるだろう?

 いや、全然そんな必要ないよなと、レンは自己完結させた。

「……もう、この世界ごと失くしても、よくねえか?」

 不敵に笑った男は、完全に我を忘れてしまっていた。


 昼過ぎにたどり着いたそこは、砂漠の中にぽつんとオアシスがあり、そこに里があるはず、だった。

「? 可笑しいですね? 地図ではこの辺りに、ゴーレムを作り出す親子がいるという話でしたが?」

 つくしが首を傾げる横で、ミヅキは全く別なものを見止めていた。

 物陰に隠れて震える、大小の人間だ。

 匂いと気配で、カムイの子供と孫で間違いないようだと察し、男はそっとそちらに歩み寄った。

 その日までに二人は、こちらに追放となった元凶と、その伴侶と合流して、色々と情報の交換をしていた。

 コトホギの提案で、カムイの子孫で、まだ害のない者たちを保護し、害のないように養うことにしたことも、その時に聞いていたので、彼らも可能ならば、二人の元へと連れて行くつもりだ。

 初対面の二人を驚かさないように、そっと歩み寄っていたミヅキは、その前方に立った男に気付き、緊張した。

「見つけたぞ、この元凶ども」

「ひいっっ」

 一度も聞いたことがないほどに声を籠らせたその男は、不敵な笑みを浮かべたまま親子を見下ろしていた。

「ちょこまかと、逃げ回りやがって。でく人形は全部壊しちまったんだから、諦めてさっさとお前らも土に戻れ」

「た、助け……」

 請う言葉は、最後まで続かなかった。

 片手に持つ短刀を振り上げた男は、無情にも幼い子供と若い父親の命を、同時に刈り取ろうとしていた。

 が、振り下ろされた刃は、完全に空を切った。

「……何でお前さんが、殺戮してるんだ?」

 素早く間を詰めたミヅキが、父親の首根っこを掴んで、子供ごと刃の先からかすめ取ったのだ。

 優しく尋ねる男に、短刀を手にしていた男が目を見開き、微笑んだ。

「殺戮じゃなく、無機質の人形を壊してただけです」

「……」

 そんなレンに目を細め、ミヅキは慎重に言う。

「この二人は、人間に見えるが?」

「そうですか? 随分精巧な土人形だったもので、見間違えたんですね」

 そう言いながら、まだ親子を見る目は非情な色をしている。

 それを見て、ミヅキは不思議に思った。

 首を傾げて問う。

「レン、何をそんなに怒ってる?」

「怒っていませんよ。オレは、いつもに増して、冷静です」

「嘘つけ。冷静な奴が、無差別に襲い掛かることを、するはずがないだろうが」

 呆れた男の指摘に、レンは笑みを浮かべたまま首を振った。

「ちゃんと、あなたへの用事は、覚えているんですから、冷静ですよ」

 言いながら、もう片方の手に提げていた、差し入れの風呂敷包みをミヅキに差し出した。

「今日は、オレが作りました。今向こうでは、正月なんですよ。だから、おせち仕様にしてます」

「そうか、いつも有難うな」

 頷いてそれを受け取ったミヅキは、その口で続けた。

「そこを、隙と見るんじゃない」

 言いながら、手にしていた竹串で、父親を狙って切りつけた短刀を受けた。

 舌打するレンに、優しく説教する。

「この里は、この親子が身を守るために作った里だ。誰かが侵入しなければ、害はないはずだ」

「へえ、そうですか? オレたちは、里の外で襲われましたがねえ?」

 軽く驚いたミヅキが父親の方を見ると、青ざめて小さく縮こまっている。

「そうなのか?」

「っ。魔人が、侵入してきそうになったならっ、守らせるのは普通だっっ」

「ああ……そうか。この子もオレも、一応お前さんと同じ、人間なんだがなあ」

「う、噓だっっ」

「ああ、嘘でもいいぜ?」

 恐怖で叫ぶ父親に、乱暴な口調のレンが頷いた。

「魔人じゃねえが、似たような存在だとは思ってるんでな。お前らは、オレが全員殲滅する」

「……レン。お前、本当にそれで、冷静だと主張する気か?」

 少し真面目に問う男に、レンは笑ったまま答えた。

「主張すれば、そいつらを渡してもらえるなら、いくらでも」

「嘘と分かっているのに、そんな主張を信じるいわれは、ないな」

「そうですか? なら、先にあなたを消しますか」

 本気だ。

 困ったと思いながらも、ミヅキは冷静に後ろの女に目配せした。

 自分より少し大きい男を見上げ、優しく微笑む。

「ただで消されてやる必要は、ないな。楽しませてもらうぞ」

 余裕に見せる笑みだが、半々だなと思っていた。

 レンの方には、自分に手加減する理由がない。

 ミヅキは既に死人で、一時的に肉付けされているにすぎないからだ。

 対してこちらは、レンに対して敵意がない。

 今も、頭に血が上った状態の男の怒気を散らせるために、挑発したにすぎないから、殺意をこちらに向けるレンに対するには、不利と言ってもいい状況だ。

 だが、引くわけにも行かない。

 完全に戦意のない親子を、レンの怒りの的にするのは、後味が悪すぎるのだ。

 説得ができないなら、拳で納めるしかない。

 そう決断したものの、殺傷力のある武器を手にするレンを、竹串でどこまで相手できるか。

「……見栄を張らず、おもちゃのバットくらいにしておけば、よかったな」

 後悔を噛みしめつつ持参した竹串を握りしめ、レンの攻撃に備えた時、父親が背後で小さく悲鳴を上げた。

 何事かと思いつつも、敵と化した男から目を離さないミヅキは、レンが憑き物が取れたように表情を緩めたのに気づいた。

「? あれ? どうしました?」

 無感情だが若干不思議そうな色が混じった女の声が、緊張した二人の男の投げかけられた。

「っ、セイさん。大変……」

「セイっっ」

 同じように緊張していたつくしが事情を語る前に、レンが素早く動いていた。

 止める間もなく、女房を抱きしめる。

「大丈夫か? もう、何ともねえのかっ?」

「ああ。少し休んだら、何ともなくなったけど……どう、したんだ?」

 答えたセイは、途中で大きく息を吐いて縋りつく旦那に戸惑い、その場にいる面々を見回した。

 里があるはずの場所は、周囲の砂漠地帯と変わらぬ様相に変化していた。

「? ミヅキさん、これは、やり過ぎでは?」

「……オレが来た時には、このありさまだったんだが」

「え? じゃあ、まさか……」

 あらぬ疑いに正直に答えたミヅキの言葉を聞いて、目を見開いたセイに抱き着いたまま、レンは震える声で言った。

「良かった。もう、泣いてねえんだな?」

「はっ? 私が、いつ泣いたっ?」

 更に目を見開いた女房の体から身を放しながら、レンは微笑んだ。

「ああ、今は、泣いてねえ」

「さっきも別に、泣いてないだろっっ」

「ああ。それでいい。いいんだ」

 焦って反論するセイに頷きながら、レンはその頭をなでる。

 そんな旦那に慌てたが、その後ろで生暖かい目を向ける知り合いの男女を見つけ、我に返った。

「セイ」

「は、はい」

 呼びかけに背筋を伸ばした女に、ミヅキは優しく注意した。

「何があったのかは知らないが、これ以上この世界の均衡を壊す行いの原因に、お前がなるのは了承できないぞ」

 当然の指摘に謝罪する前に、旦那が先に答えてしまった。

「こいつに害成す奴らは、殲滅で構いませんよ。あんたが許しても、オレが許さねえ」

「……レン、ちょっと、落ち着こう。私は、大丈夫だから」

 怒り狂うレンも珍しいが、焦って旦那を宥めるセイも珍しい。

 大人の男女としては、色々と聞きたいこともあるし、二人を宥める必要もあるが、取りあえず今は、そんな珍しい二人を観察することにした。



 

温度差夫婦が、ここまで熱々になるなんて、だれが予想しただろうか……。

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