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ダンジョン・アカデミア  作者: 綾瀬蒼


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09.理論と野生の衝突、力の再定義

1. 三人体制の特訓

翌日から、レオンの特訓は学院奥の結界訓練室で、リゼルとクロードの監視の下、開始された。

特訓は、まさに理論と野生の、静と動の衝突だった。

リゼルは、複雑な解析盤を前に、レオンの全身のマナの流れを一秒単位で記録する。

「レオン。影のマナの放出トリガーは、貴方の感情的な『焦燥』と、肉体的な『疲労』が重なった時。この二つの変数を同時に満たし、かつ、私が出す制御限界ラインを越えるな」

彼女の指示は、まるで緻密な実験計画のようだった。

一方、クロードの指導は全く逆だ。彼は訓練室の片隅で薬草を煎じながら、ぼんやりとレオンに指示を出す。

「いいね、レオンくん。もっと焦燥を感じろ。もっと疲労しろ。その力の暴れたがっている声を聞け。制御なんて、まず暴れる力を知ってからでいい」

レオンは、両極端な指示に板挟みになった。リゼルの指示に従えばマナは安定するが、影のマナの奔流は生まれない。クロードの指示に従えば、力が溢れ出すが、リゼルの解析盤は危険信号で真っ赤になる。

「クロード先輩!そんな野蛮な方法では、この子のマナコアが崩壊します!」リゼルが声を荒げた。

「ふむ、崩壊するかもね。でも、崩壊しなければ、レオンくんは一生自分の影のマナを『制御された危険な力』としてしか使えない。リゼルちゃん、君の理論は『安全な力』を作ることに特化しすぎているよ」

2. 視えないマナの壁

リゼルは、クロードの「野性」を無視し、自身の理論の正しさを証明しようと、レオンに新たな課題を出した。

「貴方のマナの制御を妨げているのは、貴方の肉体だ。肉体が、影のマナの奔流を『危険』と判断し、無意識にロックをかけている。クロード先輩、貴方の薬草で、一時的に彼の肉体的なマナへの警戒心を麻痺させなさい」

クロードは肩をすくめた。「面白い実験だね。はい、レオンくん。ちょっと苦いけど、これを飲んで」

レオンが薬草を飲むと、身体の感覚が鈍くなった。リゼルはすぐに指示を出す。

「いいですか、レオン。今、肉体は貴方のマナコアに干渉できない。影のマナを解放してください。ただし、放出はせずに、身体の周りで壁を形成する。マナの壁、防御結界の応用です」

レオンは集中した。影のマナがコアから溢れ、身体の周囲に集まってくる。それは黒く、荒々しい雷雲のような形状を保とうとする。

「そのまま、そのマナを外へ逃がすな!内部で圧縮し続けろ!」リゼルが鋭く指示した。

レオンは全力でマナを押し込めたが、それは無理だった。影のマナは、制御の概念を拒絶する。壁を作ろうとすれば、その反発で自己破壊を起こそうとする。

バチバチッ!

レオンの身体の周囲で、マナの壁は一瞬も持たず、内部から弾けるように崩壊した。

「だめだ!制御できない!この力は、一箇所に留まると自壊する!」レオンは息を切らして訴えた。

3. クロードの答え:力の再定義

「やはり、君の理論は間違っている、リゼルちゃん」クロードが言った。

「貴方の何が理論だと言うんです!」リゼルはクロードを初めて怒鳴りつけた。「貴方のやり方は、ただの感覚論です!」

「その感覚論が、この子の命を繋ぐんだよ」クロードは静かにレオンの隣に立った。「レオンくん。君の影のマナは、留まると腐る『淀み』だ。だから、防御結界のような『静的な制御』は不可能だ」

クロードは訓練室の壁に描かれた古代文字の模様を指さした。

「君の故郷のダンジョンのマナも、灰色の回廊の影のマナも、すべて『流動』している。君の力も、流さなきゃいけない。君の『ライト・ボルト』が破壊的なのは、君が瞬間的に全てのマナを『一点』に押し込めて、無理やり押し出しているからだ」

「それが、一点突破だろ?」レオンは首を傾げた。

クロードは首を横に振った。

「違う。それは『暴発』だ。真の『一点突破』は、その荒々しい力を、マナを『流動』させながら、まるで『水が細いノズルから噴き出す』ように、一点に集中させて、『継続して』放ち続けることだ」

クロードはレオンの両手の平に、そっと自分の掌を重ねた。

「いいか、レオンくん。目を閉じろ。マナを『檻』に入れるな。マナを『川の流れ』だと思え。君の影のマナは、その川の中で、最も激しく、最も早く流れる『急流』だ。急流を一点に集めろ。押さえるな、導け」

4. 僅かな希望

レオンはクロードの指導に従い、目を閉じた。彼のマナは、川の流れのように体中を駆け巡る。影のマナの奔流は、確かに抑圧されることなく、自由に、しかし特定の経路を辿っている。

そして、その急流を、指先という「ノズル」へと導く。

ビリッ。

レオンの指先から放たれた「ライト・ボルト」は、前回とは全く異なっていた。それは轟音ではなく、高周波の震動音を伴い、閃光は青白い雷ではなく、漆黒の稲妻のようだ。

訓練室の結界壁に着弾した黒い稲妻は、爆発しなかった。代わりに、結界の壁を深さ数センチにわたり、まるでレーザーで焼き切ったように、滑らかな穴を開けた。

リゼルは解析盤の数値を見て、息を飲んだ。

「……破壊の精度が、限界値の1000倍。マナの収束率が、従来の理論の800パーセントを越えている……!これは、理論上の『超収束貫通型ハイパー・フォーカス・ペネトレーター』……」

レオンは全身から汗を吹き出し、その場で座り込んだが、その顔には初めて、力が解放された喜びが浮かんでいた。

「これなら……故郷を救える……!」

リゼルは、初めて自分の理論が完璧ではないことを知った。彼女は、レオンとクロード、そして解析盤のデータを見比べ、静かに言った。

「クロード先輩。貴方の感覚論は、私が探求すべき『未知のパラメータ』です。レオンの訓練は、貴方の『流動』と、私の『精密』を組み合わせた、新しい特訓計画で進めます」

レオンの異質な力は、「制御」ではなく、「流動」と「精密」という二つの相反する概念によって、初めて真の「覇王の片鱗」を見せたのだった。

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