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ダンジョン・アカデミア  作者: 綾瀬蒼


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07.学院が隠す秘密と、異質なマナの影

1. 異質な存在

レオンの一撃で通路は静まり返ったが、空気が一変していた。魔物の死骸が蒸発した焦げ臭いマナの残滓の中に、微かに、そして異様に濃い「黒いマナ」の気配が漂っていた。

通路の奥、光が届かない闇の中に、黒く蠢く影のような存在が立っていた。それは魔物ではない。明確な形を持たず、しかし周囲のマナを急速に吸収し、ねじ曲げている。

「あのマナ……私の知るどの文献にも記録がない」リゼルは、いつもの冷静さを失い、初めて戸惑いの表情を浮かべた。

「あれが、スタンピードの原因か」レオンが呻いた。

アルベルトは恐怖で腰が抜けていた。「な、なんだあれは!早く、学院に報告を!初級ダンジョンにいるレベルじゃない!」

リゼルは即座に判断した。「あれは私たちが扱うべきではない。レオン、アルベルト、即時撤退する!目標物は手に入れた、これ以上はオーバーリスクだ!」

リゼルの指示で、三人は全速力でダンジョンを駆け抜けた。その間、黒い影は追っては来なかったが、その異質なマナの気配だけが、レオンの意識に深く刻み込まれた。それは、彼の「一点突破の魔力」と、どこか似た、荒々しく制御を拒む性質を持っているように感じられた。

2. 契約違反の審判

学院に戻ると、現場の混乱は既に教授たちに伝わっていた。初級ダンジョンでのスタンピードは異例中の異例であり、合同実習は中止となった。

レオンは、グレイヴ教授の執務室に呼び出された。

「レオン。報告は聞いている。お前はチームのリーダーであるリゼル嬢の指示を無視し、マナを暴走寸前まで高めるという、学院の安全規定を完全に破った。本来であれば、即時退学だ」グレイヴ教授の言葉は重かった。

「教授、俺はあの場で、あの判断しかできなかった。あの数では、アルベルトのシールドは持たなかった。全員、死んでいました」レオンは毅然と反論した。

教授は深い溜息をついた。「……結果的にお前がチームを救った、という事実は否定できない。だが、それは賭けだ。そして学院は、賭けによって成り立つ場所ではない。秩序と理論の上に築かれる」

「教授、お待ちください」

そこに、リゼルが入ってきた。彼女は教授に向かって、静かに頭を下げた。

「レオンの行動は、私の指揮下における契約違反です。しかし、彼が使ったマナの奔流は、私のマナ制御論では説明できない、異質な高密度状態でした。そして、あの力のおかげで、私たちはダンジョンの奥で、学院が隠している秘密の一端を目撃しました」

3. 学院の『裏の顔』

リゼルの言葉に、グレイヴ教授の顔色が変わった。

「ヴァイスベルク嬢、何を言っている」

「教授、私たちが遭遇したのは、スタンピードの発生源と思われる、極めて高濃度の異質なマナの塊です。それは、通常の魔物とは全く異なる性質を持ち、周囲のマナを異常に吸い上げていました。そして、そのマナは、私たちの学院が創設以来、徹底して隠蔽してきたマナの特性と酷似しています」

リゼルは、レオンに向かって視線を送り、言った。

「覇王装備の真の固有スキルは、ただ強大なだけでなく、世界のことわりを歪める異質なマナを制御しなければ発動できない、と私は推測していました。貴方の『一点突破の魔力』は、その異質なマナに酷似しています。そして、あの黒い影も、同様の性質を持っています」

グレイヴ教授は、重々しい沈黙の後、ついに折れた。彼は静かに部屋の扉を閉め、レオンとリゼルに向き直った。

「……ヴァイスベルク嬢の言う通りだ。我々、王立アークライト魔法学院は、ダンジョンの出現と覇王装備の謎について、公にはしていない事実を抱えている」

教授は、苦渋に満ちた表情で語り始めた。

「覇王装備は、その固有スキルを発動する際、使用者のマナを極度に『圧縮』し、周囲のマナから『異質な成分』だけを抜き出す。その『異質なマナ』こそが、ダンジョンの奥深くで発生し、時としてスタンピードを引き起こす『影のマナ』と呼ばれるものだ」

レオンは驚愕した。彼の粗野な破壊力は、彼の持つマナのコアそのものが、『影のマナ』を生成しやすい特異体質だったということになる。

「学院が恐れているのは、お前のような制御不能の異端者が、覇王装備を手に入れることだ。なぜなら、制御を誤れば、その圧倒的な影のマナの暴走で、世界そのものが危機に瀕する」

グレイヴ教授は、レオンに鋭い視線を向けた。

「お前の退学は保留する。しかし、お前はリゼル嬢のチームを離れ、今後、リゼル嬢の個人指導を受けること。彼女の完璧な制御理論と、お前の異質な破壊力を融合させる。それが、学院がお前に下す唯一の試練だ」

それは、学院の秘匿された知識に触れ、自分の異質な力を制御下に置くことを意味していた。レオンは、リゼルという天才と共に、世界の裏側に隠された真実へと足を踏み入れることになるのだった。

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