表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン・アカデミア  作者: 綾瀬蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/40

06.初級ダンジョンと崩れた制御

1. 初めての本物のダンジョン

合同実習の当日、レオンたちは学院の専用馬車で、王都からほど近い場所にある「初級ダンジョン:灰色の回廊グレイ・コリドー」の入り口へとやってきた。

ダンジョンの入り口は、巨大な岩盤に開いた黒い口のようで、周囲の大気とは明らかに異質の、冷たいマナの圧力が漏れ出ていた。模擬ダンジョンとは比べ物にならない、本物の危険な匂い。

「諸君、この灰色の回廊は、初級だが油断は許されない。内部の探索は2時間。目標はマナの結晶の回収と、チームワークの評価だ。各自、慎重に、そして教授の指示に従って行動せよ」

グレイヴ教授の最終確認の後、生徒たちが続々とダンジョンに入っていく。レオンのチームは最後尾に控えていた。

「レオン、いいか。もう一度確認する」

リゼルが冷徹な声で言った。

「貴方の役目は、私の『マナ圧縮弾コンプレッション・バレット』の着弾点で、逃げ惑う魔物を狩り漏らさないための保険だ。絶対に、私の指示なく、あの粗野な破壊魔法を使ってはならない。マナの乱れは、アルベルトの防御結界にも影響を及ぼす」

「分かっている」レオンは頷いた。

「フン。頼むぞ、田舎者。お前のせいでリゼル様の評価が落ちるようなことがあれば、許さない」アルベルトが、上質な盾を構えながら、嫌味を言った。

2. リゼルの完璧な指揮

ダンジョン内部は、湿った土と岩肌に覆われ、視界は暗く、僅かに空気中のマナが青白く輝いているだけだった。

「進行方向、左斜め四十五度。マナ反応、小型ゴブリン二体。アルベルト、マナ・シールドは不要。レオン、私の合図で」

リゼルは先頭を歩きながら、手に持つ水晶球でマナの流れを精密に解析し、完璧な指示を出す。

「コンプレッション・バレット!」

リゼルの指先から、圧縮された高密度のマナの塊が放たれる。その威力は、初級ゴブリンを一撃で消し飛ばすには十分だが、周囲の環境に影響を与えないよう、完璧に制御されていた。

「レオン、二時の方向」

リゼルに言われるがまま、レオンは自分の持てるマナを素早く絞り出し、初級の「ライト・ボルト」を放つ。その威力は控えめだが、確実に残りの魔物を仕留めた。

(これが、学院のやり方……。確かに、効率はいい。無駄がない)

レオンの心には、リゼルの完璧な効率性への感嘆と、自分の力を制限されていることへの強い焦燥感が渦巻いていた。この速度では、覇王装備に近づくことなどできない。

3. 予期せぬトラブル:スタンピード

探索開始から約一時間後、チームはダンジョンの比較的深いエリアに到達していた。リゼルは最も大きなマナの結晶が眠るポイントを見つけ、回収を始めていた。

その瞬間、ダンジョン全体が振動した。

「な、なんだ!?」アルベルトが驚愕に声を上げる。

リゼルの顔にも、わずかな動揺が走った。

「マナの乱れが急激に……予測外の反応!数が多すぎる!」

奥から、唸り声と地を這う音が、一気に増幅した。リゼルの水晶球が示すマナ反応は、数十、数百という単位に跳ね上がっていた。

「スタンピード(魔物溢れ)だと!?この灰色の回廊で!?」アルベルトが絶叫する。「ありえない、初級ダンジョンでは起こるはずがない!」

教授たちが想定していた初級魔物の数倍の群れが、彼らのいる通路へと押し寄せてくる。

リゼルは冷静さを保ち、指示を出す。

「アルベルト!最大出力で広範囲の防御結界バリアを張れ!レオン、指示があるまで待て!結界を乱すな!」

「くそっ、ワイド・シールド!」アルベルトは最大のマナを込めて、透明な防御壁を張った。だが、押し寄せる魔物の群れの圧力は凄まじく、結界はすぐに軋み始めた。

「まずい!結界がもたない!この数、マナ制御では間に合わない!」アルベルトの顔が、恐怖で青ざめる。

4. 制御を破る一撃

その時、レオンの脳裏に、故郷の村が魔物の群れに蹂虙される光景がフラッシュバックした。マナ制御だの、効率だの、そんな悠長なことを言っている場合ではない。

この壁を破らなければ、三人全員が、魔物の波に飲み込まれる!

リゼルの冷たい命令が耳を貫く。

「レオン!動くな!結界が崩壊する!」

「うるさい!!」

レオンは叫んだ。彼はリゼルの制止を無視し、アルベルトの結界のすぐ隣に立った。そして、両手に、先日の実技試験で見せた、規格外のマナの奔流を集中させ始めた。

青白い光が、レオンの身体から溢れ出し、周囲の壁を焦がす。

「レオン!やめろ!貴方の暴走で結界が崩れる!」アルベルトが叫んだ。

「制御なんて知るか!破壊こそが、この状況で唯一、俺たちを救う道だ!」

レオンは、アルベルトの結界の端、魔物が集中しているたった一点に向けて、全てのマナを解き放った。

「ライト・ボルトォォォ!!」

ダンジョン全体を揺るがす轟音。閃光が通路を焼き尽くし、押し寄せていた魔物の群れを、文字通り蒸発させた。

ドオオオオォン!!

一撃で、目の前の通路に、魔物の残骸と焦げた臭いだけが残った。スタンピードの波は、完全に途絶えた。

レオンは、全身の力を使い果たして崩れ落ちた。

リゼルは、初めて、完璧だった表情を崩した。彼女の瞳には、驚愕と、そして深い憤りが宿っていた。

「レオン……貴方、契約を破ったな」

だが、彼女の口から出た言葉は、予想外のものだった。

「……だが、あの判断が、私たちを救った」リゼルは震える声で言った。「貴方の『一点突破』は、確かに制御された破壊より、この状況に適していた。レオン、貴方は、私の想定の枠外だ!」

そして、魔物の残骸が消えた通路の奥、通常のマナ反応とは異なる、微かで異様なマナの気配が、三人に向かって流れてきた。

「……何だ、あれは?」

レオンが力を振り絞って顔を上げると、通路の奥、本来このダンジョンには存在しないはずの、黒く蠢く影のような存在が、彼らを静かに見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ