05.チーム編成、天才と悪意の狭間で
1. 隔離された異端者
「ダンジョン学概論」の授業後、合同実習のチーム編成が学院の大きな話題となった。学院の慣例として、初級ダンジョンへの実習は安全管理のため、必ず三人一組のチームで参加することになっていた。
レオンは教室の隅で、ぼんやりと生徒たちの様子を眺めていた。辺境出身で、試験で「暴挙」を働いた彼は、誰からも声をかけられない。
「おい、君。マナ制御が完璧な君と組めば、教授の評価も上がるだろう」
「もちろん!私は回復魔法の訓練を受けています。防御はあなたにお任せを!」
周囲では、貴族や、家伝の魔法を持つ者たちが、互いの利点を持ち寄り、次々とチームを結成していく。レオンの隣に座っていたアルベルトは、既に同じ貴族の友人と高笑いしながら去っていった。
「誰も俺なんかと組みたがらないか……」
レオンはため息をついた。彼の破壊力は認められたかもしれないが、精密な制御ができないという弱点は、ダンジョン攻略において致命的なリスクと見なされていた。
2. リゼルの誘い
その日の夕刻、レオンが学院の古い図書館で、独学で使えそうな制御の簡単な魔法を探していると、背後から冷たい気配が近づいてきた。
「無駄だ。貴方の今のマナのコアでは、どんなに基礎魔法を学んでも、繊細な制御は難しい」
振り向くと、銀色の長髪のリゼルが、分厚い魔導書を脇に抱えて立っていた。
「ヴァイスベルク様……」
「実習のチーム編成についてだ」リゼルは本題を切り出した。「貴方を観察し、その異質なマナの特性を分析するには、実戦が最適だ。よって、貴方は私のチームに入れ」
レオンは戸惑った。天才中の天才が、なぜ最もリスクの高い自分をチームに入れるのか。
「あの、俺はマナ制御が苦手で、危険だと……」
リゼルは感情のない瞳で答えた。「知っている。だからこそ、貴方のチームメイトは、貴方を完全に制御できる人間でなければならない。貴方の破壊力を、私の完璧な制御下に置く。それが、最も効率的な研究方法だ」
それは、誘いというよりは、高圧的な命令だった。彼女はレオンの力に興味があるだけで、彼を仲間として見ているわけではない。
「残りの一人はどうするんですか?」
「それも決まっている。既に、私と協力関係にある者がいる」
リゼルは、図書館の入口付近に視線を送った。そこに立っていたのは、レオンを嘲笑った貴族の青年、アルベルトだった。
3. アルベルトの妨害と条件
アルベルトは、嫌悪感を隠さずにレオンを見つめた。
「レオン。まさか、お前がリゼル様のチームに入れるとでも思っているのか?」
「リゼル様が、俺を誘ってくれた」
「馬鹿な!」アルベルトは苛立ちを露わにした。「リゼル様と私が組むのは既定路線だ。私こそが、彼女の完璧な魔法を最も理解し、サポートできる人間だ。お前のような野蛮人は、チームのリスクを高めるだけだ!」
アルベルトはリゼルの方を向いた。
「リゼル様、このような制御不能の野良犬をチームに入れるのは、ヴァイスベルク家の名誉にも傷がつきます。私が代わりに、最高の防御魔法使いを連れてきます」
リゼルは、アルベルトの言葉に動じることなく、静かに言った。
「アルベルト。私は、効率と、未知の可能性を求める。貴方の完璧な防御は予測可能だ。だが、彼の力は、私の研究欲を刺激する」
リゼルはレオンを指差した。
「貴方をチームに入れる条件は一つだ。チームの決定権、戦闘の主導権は全て私にある。貴方は、私の指示以外で、あの一点突破の魔法を使ってはならない。もし破れば、即時追放する。それが守れるか?」
レオンは迷った。彼女のチームに入れば、ダンジョン実習で確実に成果を上げられる。だが、自分の力を制限されるのは、故郷を救うという目的に反するかもしれない。
だが、ここで孤立すれば、実習自体に参加できなくなる。そして、天才のそばでこそ、自分の力の限界を知り、覇王装備に近づけるかもしれない。
レオンは決意を固めた。
「……分かりました。俺の行動の全ては、あなたの指示に従います。ただし、俺は覇王装備を見つけ、故郷を救うために学院に来た。その目的だけは、譲れません」
リゼルは初めて、わずかに唇の端を上げた。それは笑みというより、興味深い現象を発見した科学者のような表情だった。
「結構。契約成立だ。アルベルト、貴方はレオンの存在を受け入れろ。彼の力は、貴方の防御魔法を凌駕する可能性がある。それを傍で学ぶべきだ」
アルベルトは悔しそうに歯噛みしたが、リゼルの命令には逆らえない。彼はレオンを睨みつけた。
「フン。せいぜい、リゼル様の足を引っ張らないように祈るんだな、田舎者」
こうして、学院最強の天才リゼル、プライドの高い貴族の優等生アルベルト、そして規格外の破壊力を持つ異端児レオンという、極端な三人組のチームが結成された。
彼らはまもなく、初めての初級ダンジョンへと足を踏み入れることになる。




