04.ダンジョン学概論と覇王の系譜
1. クラス分けと初日
合格者名簿の貼り出しから数日後、入学式を終えたレオンは、自分のクラスが上級クラスの一つである「マナ制御I組」に決定したことを知った。試験結果がギリギリだったにもかかわらず、彼の「規格外の破壊力」が評価され、厳格な指導が必要と判断された結果だろう。
そして、案の定、そのクラスの名簿には「リゼル・ヴァイスベルク」の名前もあった。
初日の授業は、学院の基礎となる「ダンジョン学概論」だった。教室は、歴史ある石造りの壁と、マナを増幅させるための水晶が埋め込まれた机が並んでいた。
レオンの隣の席は、試験で見下すような態度を取っていた貴族の青年、アルベルトだった。アルベルトはレオンに視線も送らず、持参した豪華な装丁の教科書を広げている。
やがて、白髪で恰幅の良い、歴戦の探索者だったらしい教授、グレイヴが入室した。グレイヴ教授は、壁に設置された巨大な魔力スクリーンに、一枚の地図を投影した。
「諸君、我々が扱うマナとは、この世界に溢れる恩恵であると同時に、危険でもある。だが、最も危険で、同時に最も価値のある存在が、この世界を穿つダンジョンだ」
投影された地図には、世界各地に点々と、赤い円が描かれていた。それは、全てダンジョンの出現地点を示していた。
2. ダンジョンの真実と覇王装備の系譜
「ダンジョンが出現してから300年。我々はまだ、その発生原理も、最終目的も理解できていない」
グレイヴ教授の声が、厳かに響く。
「ダンジョンは内部のマナ濃度が異常に高く、そこで発生する魔物は、我々が地上で遭遇する魔物とは比較にならないほど強力だ。だが、諸君がここに集まったのは、その危険な深淵に挑むためだろう」
教授は、投影を切り替えた。今度は、甲冑、武器、装飾品など、様々な形の武具のスケッチが映し出された。どれもが、ただならぬ魔力を放っているのが見て取れる。
「これらは、これまでダンジョンから回収されてきた、最高位のアーティファクト。すなわち、覇王装備の記録の一部だ」
レオンは、身を乗り出した。これこそ、彼が学院に来た理由だ。
「覇王装備は、一万のマナ結晶よりも価値がある。なぜなら、その全てに固有スキルが宿っているからだ」
グレイヴ教授は、ゆっくりと話し始めた。
「固有スキルとは、装備者のマナと共鳴し、人智を超えた力を発揮する、神にも等しい能力だ。例えば、古代に発掘された『覇王の籠手』には、『全ての防御魔法を貫通する一撃を放つ』というスキルがあった」
教室がどよめいた。全ての防御魔法を貫通する。それは、このマナに満ちた世界において、絶対的な優位性をもたらす力だ。
「しかし、いいか。覇王装備は、ダンジョンの最深部にしか眠っていない。そして、そこにたどり着くには、並大抵の力では不可能だ。装備を手に入れたとしても、その強力な固有スキルを使いこなせなければ、マナの暴走により自滅する」
レオンは、固く拳を握りしめた。彼の「一点突破の魔力」は、まさに制御が難しい暴走寸前の力だ。覇王装備を手に入れても、使いこなせずに自滅する可能性――教授の言葉が、レオンの胸に重くのしかかった。
3. リゼルの考察
ここで、隣の席のリゼルが、初めて口を開いた。彼女の冷徹な声が、教室内に響く。
「教授。その固有スキルは、装備者のマナ制御の精密度によって、発動の安定性が変わる、と学術書にありました。籠手を装着した古代の英雄が自滅したのも、精密度が足りなかったためでは?」
グレイヴ教授は頷いた。「その通り、ヴァイスベルク嬢。固有スキルは、諸君の魔法の基礎理論が完璧であるほど、安定する」
アルベルトが、レオンに向けて鼻で笑うのが聞こえた。『精密な制御』、それはレオンが最も苦手とするところだ。
レオンは、隣の天才少女を見て、再び彼我の差を痛感した。彼女は、力だけでなく、知識においても完璧だ。
(精密な制御……俺に一番足りないものだ。覇王装備を手に入れても、自滅するかもしれない。だが、それでも、俺は……)
レオンは、自分の心の中の炎を再確認した。彼が目指すのは、完璧な魔法理論ではない。故郷を救う、絶対的な力だ。
「教授」
レオンは立ち上がり、他の学生たちが驚く中、真っ直ぐに教授を見た。
「覇王装備を見つけ出す、実戦的な訓練は、学院にあるのでしょうか?」
グレイヴ教授は、レオンの目を見てわずかに微笑んだ。
「もちろんある。だが、それは生半可な訓練ではない。諸君は近々、合同実習という形で、初めて本物の初級ダンジョンの入り口付近へと向かうことになるだろう」
そして、教授はリゼルとレオンを交互に見た。
「その実習では、チーム編成が必須だ。諸君は、自分の弱点を補い、生かし合う相棒を見つけなければならない」
チーム編成――それは、レオンのような異端の存在にとって、最初の大きな壁となるのだった。




