38.虚無の化身、覇王の「影」との対峙
1. システムの拒絶反応
レオンが放った究極奥義『世界調和』は、始原の炉の中枢へと深く浸透し、数万年続いてきた「マナの抑制」を書き換え始めた。しかし、その瞬間、炉全体が不気味な黒い光を放ち、空間が歪み始めた。
「レオン、下がって!システムの書き換えに対し、古代文明が残した『自己防衛プログラム』が起動しました!」リゼルが解析盤を抱えながら叫ぶ。
始原の炉の中心から、物理的な実体を持たない、純粋な「影」の塊が溢れ出した。それは、レオンが持つ影のマナの源流でありながら、意思を持たない破壊の衝動そのものだった。影は瞬時に形を成し、レオンと瓜二つの姿を持つ「虚無の化身」へと変貌した。
「これは…俺の影か?」レオンは、五極の調和マナを構えながら問う。
アルベルトは、その影の圧力に弾き飛ばされ、壁際で呆然としていた。「嘘だ…システムが、自らを破壊しようとしているのか?」
2. 覇王装備の真実
虚無の化身が口を開いた。その声は、レオン自身の思考が直接脳内に響くような、冷徹な響きだった。
『調和とは、停滞なり。解放とは、混沌なり。覇王よ、汝が求める「第三の道」は、世界の理を乱す毒である』
虚無の化身が指先を向けると、そこから絶対零度の影の奔流が放たれた。レオンは即座に炎と土の特性で防御壁を展開したが、化身の影はその属性ごと「虚無」へと還してしまった。
「属性が効かない!?リゼル、どういうことだ!」
「レオン、あの化身は『マナそのものを無効化する性質』を持っています!古代人が、システムの暴走を防ぐために用意した最後の消去装置……それが、貴方の持つ影のマナの正体だったのです!」
リゼルの解析によれば、レオンの影のマナは、他の四元素を「中和し、無に還す」ために存在していた。四つの属性を統合するための「器」としての影は、同時に全てを消し去る力でもあったのだ。
3. 自己との対話
虚無の化身は、レオンの弱点を突くように猛攻を仕掛ける。かつての絶望、村を追われた孤独、そして力への渇望が、影の波動となってレオンの精神を削っていく。
「お前は俺だ…俺の中にある、全てを壊したいという衝動だ」レオンは、激しい痛みの中で自らの内面を見つめた。
覇王装備が五つの核を求めたのは、単に力を得るためではない。この「虚無」という暴走しがちな性質に、炎、水、風、土という「世界の色彩」を与えることで、影を破壊の道具から、生命を育む基盤へと変容させるための儀式だったのだ。
「俺はもう、ただの破壊者じゃない。リゼルが、クロード先輩が、そして世界が、俺に属性をくれたんだ!」
レオンは、古代の鎧を通じて、マナコアに眠る五つの属性を、影のマナの『中心』ではなく、『円周』へと配置し直した。影を「消去」に使うのではなく、四元素を包み込み、守るための「絶対的な静謐」へと昇華させたのだ。
4. 影の統合
レオンは、虚無の化身に向かって真っ直ぐに歩み寄った。攻撃を仕掛けるのではなく、自身のマナコアを無防備に開示した。
「来い。お前を消しはしない。俺の一部として、新しい世界を見せてやる」
虚無の化身は一瞬躊躇したが、レオンの圧倒的な「受容」の意思に触れ、咆哮と共に崩壊した。化身を構成していた純粋な影のマナは、光の粒子となってレオンの身体へと吸い込まれていった。
その瞬間、レオンの背後には、五色の翼を持った漆黒の巨人が幻影として現れた。真の覇王装備の完成――それは、自らの闇を受け入れ、それを世界の礎に変えることだった。
「リゼル、準備はいいか。今度こそ、本当の『解放』を始める」
レオンは始原の炉の中枢に手を置いた。もはや拒絶反応はない。システムは、正当な管理者としてレオンを認めていた。




