31.水の核の試練、三つの調和と影炎の究極応用
1. 三属性の奔流とマナコアの悲鳴
レオンが氷の床に空いた穴から、青く輝く「水の核」を手に取った瞬間、水の迷宮全体が、彼を拒絶するかのように激しいマナの変動に見舞われた。通路の氷壁は震え上がり、亀裂から噴き出す高圧水流は、レオンたちの存在を物理的に押し潰し、迷宮の最深部へと閉じ込めようとする。
レオンのマナコア内部は、破滅的な状況に陥っていた。調和の器の「静謐(影)」、炎の核の「活性(炎)」、そして今加わった水の核の「柔軟(水)」という、三つの相反する極端な特性が、激しく衝突し、引き裂かれ合っていた。
「レオン、貴方のマナコアの振動周波数が、制御不能な三つ巴の衝突を起こしています!このままでは、貴方のコアは、熱と冷気、そして高圧によって、内部崩壊します!」リゼルは、悲鳴に近い声で警告した。彼女の防御結界も、この高圧水流の前には、瞬時にエネルギーを奪われ、維持が困難だった。
レオンは、激しい頭痛と吐き気に襲われながらも、どうにか正気を保った。彼の全身からは、白い蒸気が激しく噴き出しており、それは彼の内部で炎と水が衝突し続けている証拠だった。
「くそっ、この水のマナは……まるで粘着質の泥だ。俺の超収束貫通型を、打ち消そうとしている!」レオンは、水の核が持つ『柔軟性』が、自身の影のマナの『重さ』と相性が良すぎるために、逆にその力を吸収・無力化しようとしているのを感じ取っていた。
2. 迷宮の主、シー・ビーストの出現
水流の激しい渦が渦巻く迷宮の中央広場から、巨大なマナの波動が実体化した。それは、体長十メートルを超える、純粋な青いマナと氷塊で構成された巨大な「水のマナ獣」だった。その目には知性が宿っており、レオンたちを「核の強奪者」として認識していた。
マナ獣は、咆哮と共に、周囲の高圧水流を自身の体に取り込み、それを極度の水圧を伴う巨大な「水槌」に変えて振り下ろした。
「レオン!このマナ獣は、迷宮全体の水を自在に操り、物理的な衝撃だけでなく、マナの『柔軟性』で貴方の貫通力を逸らそうとします!『蒸気のマナ』でなければ、この攻撃は防げません!」リゼルは、解析盤でマナ獣の弱点を必死に探る。
レオンは、水槌の直撃を避けるため、瞬時に影のマナによる瞬間的な環境適合で地面に潜り込もうとした。しかし、水の核の力を持つマナ獣は、レオンの影のマナの動きを予測し、地面そのものに水圧をかけて、潜行を阻止した。
3. 三つの要素の統合と応用技の開発
(ダメだ。影の静謐、炎の活性、水の柔軟……どれか一つでも欠ければ、この場で終わりだ。この三つの力を、同時に使わなければ!)
レオンは、極度の危機感の中で、リゼルの言葉を思い出した。彼のマナは、三つの特性を『統合』させようとしている。
彼は、掌に蒸気のマナを集めた。その蒸気は、炎の「熱」を帯びることで水流に引火せず、水の「柔軟性」でマナ獣の動きを受け流し、影の「静謐さ」で周囲の環境マナの乱れを遮断する、完璧な媒介となり得た。
レオンは、水流全体を支配するマナ獣の動きに対し、自分の蒸気のマナを、水流とは逆の螺旋状に展開させた。
「リゼル、俺が水流を『分解』させる!その後の隙を見逃すな!」
超収束貫通型――究極応用技、『蒸気流転』!!
レオンが放った蒸気のマナの奔流は、高圧水流の内部に食い込み、水流の外側を超高温の蒸気の膜で包み込んだ。そして、蒸気の膜は、水流内部の水を一気に「気化」させ、水流の圧力を外部ではなく、水流の『中心』に向けて解放させた。
水流は、その力を内部で相殺され、レオンの周囲に、穏やかな「蒸気の目」のような空間を作り出しながら、完全に無力化された。
マナ獣は、自身の操る水流が意図しない形で消滅したことに、一瞬の困惑を見せた。
4. 氷結螺旋の進化とマナ獣の撃破
「今です、レオン!マナ獣のコアは、水流の制御を失ったことで、『硬直』している!」リゼルが叫んだ。
マナ獣は、レオンの蒸気流転によって、水流を奪われ、防御力を失っていた。しかし、その体は依然として巨大で、単なる貫通力では完全に破壊できない。
レオンは、水の核の力を完全に理解した。水の力は、柔軟だが、極度の低熱にさらされれば、最も硬い「氷」となる。
彼は、次に放つ一撃に、炎の熱ではなく、水の冷気を集約させることを選んだ。
「究極応用技、『氷結螺旋』!!」
レオンの指先から放たれた漆黒の稲妻は、炎の核の活性によって加速され、水の核の柔軟性を螺旋状に纏った。稲妻がマナ獣の氷の体へと食い込むと、蒸気のマナの奔流は、マナ獣の氷の体を瞬時に溶解させながら、その溶けたマナを、稲妻の螺旋の中に巻き込んだ。
そして、稲妻がコアへ到達する直前、レオンは調和の器の「静謐」を一気に解放し、内部の溶けた水のマナを、絶対零度へと急激に冷却した。
マナ獣は、外部からではなく、内部から一気に「超高密度の氷塊」へと変質させられ、凄まじい音を立てて崩壊した。
5. 三つの調和の代償と次の課題
レオンは、マナ獣を撃破し、水の核の真の力までもを応用することに成功した。彼の全身は、疲労困憊であったが、マナコア内部の三つの特性は、以前よりも強いレベルで「共存」を始めていた。
「レオン…驚愕です。貴方は、私の理論の全てを、この場で『統合』させました。これこそ、覇王装備に求められる真の力です」リゼルは、初めてレオンに対し、心からの尊敬の念を抱いた。
しかし、クロードからの通信が、その安堵を打ち消した。「レオンくん、リゼルちゃん。君たちのマナコアは、三つの属性を抱え込んだことで、極めて不安定な状態だ。特に、次の『風の核』が加われば、影、炎、水、風の四つ巴の衝突となり、もはや誰にも制御できなくなる」
リゼルは、解析盤の数値を見て、表情を曇らせた。「クロード先輩の言う通りです。風の核が持つ『拡散性』が加われば、レオンのコアは内部から引き裂かれるでしょう。私たちは、この不安定な状態を解決する『調整』を、次の行動の前に絶対に必要とします」
レオンは、手のひらに握られた水の核の冷たさを感じながら、次の決断を迫られていた。




