03.評価と波紋、そして出会い
1. 採点基準の揺らぎ
実技試験は、レオンが巨大なマナの結晶を持ち帰ったことで終了した。彼は他の受験生よりも圧倒的に大きな成果を手にしたが、採点者の間では議論が紛糾していた。
「あのようなマナの使い方は、暴挙に等しい!制御がまるでなっていない。理論を無視した粗野な行為だ!」
「だが、結果的に最も価値の高い結晶を持ち帰ったのは彼だ。我々が求めているのは、理論の美しさか、ダンジョンを攻略する力か?」
「もし本物のダンジョンで同じことをすれば、周囲を巻き込み自滅する危険性がある。指導する必要がある」
一方、リゼルは完璧な手順と最小限の消費マナで、平均を遥かに上回る成果を上げていた。彼女の得点は文句なしの最高点だった。
最終的に、教授たちはレオンに対して「極端なマナ制御の欠陥」という減点を与えつつも、「規格外の破壊力と判断力」を評価せざるを得ず、彼の最終得点は、リゼルに次ぐ、上位合格ラインギリギリの異例な結果となった。
2. 学院の掲示板
翌日、王立アークライト魔法学院の正門脇に、合格者名簿が張り出された。
合格者たちの間で、レオンは一躍、奇妙な有名人となっていた。
「あの、模擬ダンジョンを爆破した男だろ?」
「結果は残したが、教授陣からは目をつけられているらしいぞ。野蛮人め」
レオンは、自分の名前が載っているのを確認し、深く安堵した。これで故郷に良い報告ができる。
その時、一人の上等なローブを纏った青年が、レオンを鼻で笑いながら通り過ぎた。
「おい、田舎者。お前の試験中の行為は、学院のレベルを下げるものだ。貴族の我々とは違うのだから、授業で恥をかかぬようにな」
「……」
レオンは反論せず、ただ固く拳を握りしめた。彼は学院に入るために全てを賭けた。貴族社会の序列や、洗練された魔法理論では、故郷は守れない。必要なのは、ダンジョンの魔物をねじ伏せる力だ。
3. 天才からの視線
レオンが掲示板を離れようとしたとき、背後から氷のような冷たい声がかけられた。
「待て」
振り返ると、そこに立っていたのは、銀色の長髪を揺らすリゼル・ヴァイスベルクだった。彼女は合格者名簿を見る必要すらなく、ただそこに立っているだけで周囲の空気を凍らせていた。
「ヴァイスベルク様……」
周囲の受験生がどよめく中、リゼルはレオンの目をまっすぐに見つめた。
「貴方の使ったあれは、初級魔法ではない」
レオンは息を飲む。彼女は、彼の使った力が、ただの暴走ではないことを理解したのだろうか。
「私は、貴方のような無駄の多い魔法を見たことがない。効率の点では最低だ。だが、あの瞬間、貴方は私の魔法制御の完璧さを上回る、破壊という結果を出した」
リゼルは、まるで希少な標本を観察するかのようにレオンを品定めする。
「貴方は、マナの扱いは荒いが、コアは強い。なぜ、あんな粗野な使い方しかできない」
レオンは答えた。「俺には、故郷の村を救うために、早く強力な力が必要なんだ。細かく制御している暇はない。ダンジョンから溢れる魔物を止めるには、一瞬で叩き潰す力が必要だ」
リゼルは静かに目蓋を閉じた。
「……愚かだ。ダンジョンは力だけでは攻略できない。だが、その愚かさが、学院の教科書にない特異点を生んだ。面白い」
彼女はそれだけ言うと、レオンに背を向けた。
「貴方を、私の研究対象としておく。学院の授業で、次に貴方が何を見せるか、観察させてもらう」
レオンは、天才からの思いがけない言葉に、動揺を隠せなかった。敵意ではない、好奇心に満ちた視線。これは、学院での生活が、ただの勉強では終わらないことを予感させた。
4. 学院生活の始まり
一週間後。
レオンは、ボロボロの革袋一つを背負い、晴れて王立アークライト魔法学院の門をくぐった。彼が割り当てられた部屋は、学院の寮の中でも最も古く、狭い一室だったが、マナが満ちるこの場所で勉強できることに胸を躍らせた。
(待ってろ、故郷。俺はここで必ず、誰も手に入れられなかった覇王装備にたどり着く)
学院生活が、今、始まる。彼のような辺境の独学魔法使いが、天才たちや貴族たち、そしてダンジョンの謎とどう向き合っていくのか。




