26.英雄の凱旋と、学院の深淵
1. 故郷を救った英雄
レオンが故郷の村の危機を救ったという報せは、学院に凱旋するよりも早く、王都全体に広まっていた。魔女の炉から逆流する影のマナの脅威が一時的に止まったことで、王都の人々はレオンを「影の脅威から世界を救った英雄」と称賛した。
学院に戻ったレオンは、もはや入学当初の「異端の田舎者」ではなかった。彼の周りには、好奇と尊敬の視線が集中した。特に、彼の背後に控えるリゼルとクロードの存在は、学院内で大きな波紋を呼んでいた。リゼルは「天才理論家が認めた異能の魔法使い」、クロードは「学院の隠れた実力者が手を貸した謎多き協力者」として、新たな学院の「話題の中心」となっていた。
しかし、レオン自身は英雄という名声には興味がなかった。彼の心は、故郷を一時的に救った安堵と、覇王装備の完全な解明への、新たな焦燥感に支配されていた。
「レオン。貴方の故郷のダンジョンは、確かに沈静化しました。しかし、魔女の炉の影のマナが完全に消滅したわけではありません。一時的な封鎖に過ぎない」リゼルは、いつものように冷静に告げた。「調和の器は、貴方のマナコアを安定させましたが、覇王装備の『完全な姿』には、まだ別の鍵が必要です」
2. 学園長の呼び出しと、新たな指令
レオンが学院に戻って数日後、学園長であるヴァイスベルク家当主からの呼び出しを受けた。学園長室には、学園長代理のアルベルト、そしてリゼルの父であるヴァイスベルク家当主が、厳かな表情で座っていた。
「レオン・ハートフィリア。よくぞ戻った」学園長が重々しく口を開いた。「貴方の故郷を救った功績は、学院の歴史に刻まれるものだ。そして、魔女の炉で『調和の器』を発見したことも、深く感謝する」
学園長は、レオンの手に輝く調和の器を見つめた。しかし、その瞳には、感謝だけでなく、深い懸念の色が宿っていた。
「その器は、本来、王家の保管庫に納めるべきものだが……貴方のマナコアとの適合性が異常に高い。無理に引き離せば、貴方のマナが暴走する可能性もある。よって、学院は、貴方に特別任務を与える」
学園長は、羊皮紙に書かれた指令書をレオンに手渡した。
「調和の器は、覇王装備の『鍵』の一つに過ぎない。覇王装備が真の力を発揮し、完全に影のマナを制御するためには、さらに『三つの鍵』が必要だとされている。これらは、王家が秘匿してきた情報であり、魔女の炉の古文書には記述されていない」
リゼルが静かに口を開いた。「父上、それは……『属性の核』のことですか?」
「その通りだ、リゼル」学園長は頷いた。「覇王装備は、影のマナを吸収するだけでなく、『四大元素』の力を完全に掌握し、『調和』させることで、その真の姿を現す。その鍵となるのが、それぞれ異なる高難度ダンジョンの奥深くに隠された『炎』『水』『風』『土』の『属性の核』だ」
3. 解放派の暗躍と、アルベルトの動向
「なぜ今、その情報を開示するのですか?」リゼルが尋ねた。
学園長は、アルベルトを一瞥した。アルベルトは、魔女の炉での一件以来、以前のような傲慢さは消え、憔悴した表情で俯いていた。
「魔女の炉の一件で、解放派が本格的に動き出した。彼らは、影のマナの解放こそが、世界の進化を促すと信じている。レオン・ハートフィリア。貴方の『調和の器』は、彼らにとって、覇王装備の完成形を『解放』へと導くための、究極の道具となる」
「貴方がその力を完全に掌握する前に、彼らは『属性の核』を手に入れ、独自に覇王装備を完成させようとするだろう。それは、影のマナが世界に野放しになることを意味する」
レオンは、自身の力が、再び世界の命運を左右する存在になっていることを痛感した。
「レオン。貴方には、リゼル、クロードと共に、解放派よりも早く、残りの『三つの属性の核』を探し出し、覇王装備を『調和された力』として完成させる任務を与える」学園長はレオンをまっすぐに見つめた。「貴方には、この学院、そして世界の命運がかかっている」
4. レオンの新たな決意と、リゼルの覚悟
レオンは、王都を支配する権力争いと、世界の命運をかけた戦いの狭間に立たされた。しかし、彼の決意は揺るがなかった。故郷を救ったのは、一時的な勝利に過ぎない。覇王装備を完全に制御し、影のマナの脅威を永久に封じることこそが、真の平和をもたらす道だと理解していた。
「分かりました、学園長。俺は、残りの『三つの属性の核』を探し出し、覇王装備を完成させます」レオンは、固い決意を表明した。
リゼルは、学園長の隣で、静かにレオンの決意を受け止めた。彼女の父が果たせなかった「完璧な理論」の完成が、今、レオンの覇王装備によって現実のものとなるかもしれない。
「レオン。貴方を、私が『覇王装備の真の完成者』へと導きます。貴方の異能は、私の理論でこそ、その真価を発揮する」リゼルは、初めてレオンに対し、対等な協力者としての覚悟を見せた。
クロードは、学園長室の隅で、二人の決意を静かに見守っていた。彼の飄々とした表情の裏には、この新たな旅が、学院の、そして世界の隠された秘密を暴き出すことになるだろうという、予感めいたものがあった。
レオンの新たな冒険は、故郷を救うという個人的な動機から、世界の命運をかけた、より大きな戦いへとシフトしていく。




