19.クロードの裏切りと、炉への突入
1. 魔女の炉の入り口
未開の森を抜け、レオンとリゼルは、ついに目的地である「魔女の炉」の入り口へと辿り着いた。
そのダンジョンは、巨大な火山岩の塊に囲まれた、異様な熱気を放つ深い亀裂だった。亀裂からは、煮えたぎるような濃密なマナが噴出しており、周囲の岩盤すら歪ませている。
「ここです。古文書に記された、影のマナの活動が最も激しい場所……」リゼルは解析盤でマナの波動を測定し、緊張感を高めた。「レオン、周囲に警戒を。マナの変動が強すぎて、遠距離の解析が不安定です」
その直後、二人の背後、森の境界線から、複数のマナ反応が一気に近づいてきた。
「見つけたぞ、リゼル・ヴァイスベルク!」
現れたのは、五人の上級魔術師。彼らは全員、解放派のローブを纏い、リーダー格の男はアルベルトの家系に近い、学院でも名の知れた実力者だった。
「裏ルートで逃げたか。愚かな。王都から最も近いこの入り口で、貴様らを待ち伏せていることは予測できたはずだ」リーダーの魔術師が冷酷に言った。「リゼル嬢。これ以上の抵抗は無意味。古文書を渡せ。そして、その制御不能の異端者を我々に渡せば、命は助けてやる」
2. 絶体絶命の窮地
リゼルは即座に円形防御結界を展開した。レオンも影のマナによる瞬間的な環境適合で結界を覆う。
「レオン。ここは通路が狭く、超収束貫通型で複数人を相手にするのは危険です。私の結界で持ちこたえる間に、貴方はダンジョンへ突入する道を開いて!」リゼルは冷静に指示を出した。
「分かった!」
レオンがダンジョンの入り口である岩の亀裂を貫通しようと集中した、その瞬間、解放派の魔術師たちが一斉に魔法を放った。
五人の上級魔術師による連携攻撃は凄まじかった。圧縮された氷の弾丸、雷の連鎖、そして大地を揺るがす重力魔法。リゼルの精密な結界は、瞬時に悲鳴を上げ、亀裂が走り始めた。
「くっ!マナが強すぎる!レオン、急いで!」リゼルが歯を食いしばる。
「間に合わない!」
レオンが超収束貫通型を放つ直前、リーダーの魔術師がレオンのマナコアを直接狙う『抑制』の術式を仕掛けた。レオンの全身のマナが一時的に硬直し、力が抜け落ちる。
「ふん、これで終わりだ。異端者は、我々の秩序に屈するのだ!」
リゼルも、これ以上の防御は不可能だと悟った。結界が砕かれれば、二人は無力な状態で捕らえられる。
3. クロードの予想外の介入
絶体絶命のその時、突如として、レオンたちの頭上から大量の煙幕と、異臭を放つ液体が降り注いだ。
ボフッ!
「ぐ、ぐえぇ!なんだこの匂いは!?」
「目が見えない!マナが乱れる!」
解放派の魔術師たちは、煙と異臭、そしてマナの乱れによって、一瞬で連携を崩された。術式が不完全に中断され、辺りは混乱に陥った。
そして、煙幕の中から、聞き慣れた飄々とした声が響いた。
「いやぁ、君たち。ダンジョンへの旅立ちには、やはり『臭い消し』が必須だろう? 私特製の『猛毒マナ消臭剤』だよ!」
そこにいたのは、煙幕を巻き上げる特殊な魔導具を手に、にこやかに微笑むクロードだった。
「クロード先輩!なぜここに!?」リゼルが驚愕した。
「ふむ、リゼルちゃん。君の理論は、人間が完璧な理論で動くと想定しているが、『愚かな裏切り者の存在』という変数を忘れていたね」クロードは魔術師たちを一瞥した。「アルベルトくんが君たちを裏切って情報を流したのは、予想通りさ」
クロードはレオンを見た。「レオンくん!今だ!奴らのマナ連携は崩れている!ダンジョンの入り口を超収束貫通型で破壊しろ!」
4. 炉心への突入
レオンはクロードの魔導具によって抑制が解かれ、全身に力が戻った。
「くそっ、クロード!貴様も裏切り者か!」魔術師たちが怒鳴り、クロードに向かってマナを放とうとする。
クロードは笑いながら、新たな魔導具を起動した。「残念!今の君たちには、私の『簡易麻痺結界』を破る余裕はない!」
レオンは、解放派とクロードが交錯するその一瞬の隙を見逃さなかった。
超収束貫通型!
漆黒の稲妻が、魔女の炉の入り口である硬い岩盤の亀裂へと放たれた。岩盤は、レオンの力によって、内部の亀裂が致命的なレベルまで破壊され、一瞬で崩落した。
「今です!リゼル!」
レオンはリゼルの手を引き、崩壊した亀裂の穴へと飛び込んだ。
「クロード先輩!後の処理はお願いします!」リゼルが叫んだ。
「任せろ!君たちが『調和の器』を見つけるまで、学院の連中をここで足止めしておくさ!」クロードが笑いながら応えた。
レオンとリゼルは、崩れ落ちる岩盤と、解放派の怒号を背後に、影のマナが煮えたぎる「魔女の炉」の深淵へと突入した。故郷の命運を賭けた、彼らの命がけの探索が今、始まる。




