18.精密と適合、異形のマナ獣(ビースト)との連携戦
1. 未開の森の異変
レオンとリゼルは、クロードが指し示した未開の森の奥深くへと進んでいた。森の内部は昼間にもかかわらず薄暗く、予測不能なマナの揺らぎが常に周囲の環境を歪ませていた。
「レオン。警戒を怠らないで。この森のマナの揺らぎは、私の解析ではランダムです。通常の魔物でさえ、このマナの影響で異常な挙動を見せる可能性がある」リゼルは、常に解析盤を片手に、マナの波長を読み取っていた。
レオンは、リゼルの円形防御結界の外側に、薄い影のマナの黒い霧を張り巡らせていた。これが、クロードとの特訓で会得した影のマナによる瞬間的な環境適合だ。リゼルの結界は、この「膜」によって外部マナの影響を最小限に抑えられていた。
その時、リゼルの解析盤が激しい警告音を発した。
「来ます!前方、マナ反応が急激に巨大化!……これは、普通の魔物ではありません!」
茂みから飛び出してきたのは、この森に通常生息するはずのない、異形のマナ獣だった。それは、四肢を持つ狼のような形をしていながら、全身がまるで不安定な青い炎のように燃え上がり、その周囲にはマナの残像が揺らめいている。
「あれは、不安定な環境マナを過剰に取り込み、『マナ過剰変異』を起こした魔物です!物理攻撃が効きにくい!」リゼルが叫んだ。
2. 結界の限界と適合の連携
マナ獣は、レオンたちに向けて咆哮した瞬間、その全身から青い炎のマナを、無数の誘導弾として放ってきた。
「防御!レオン!」
リゼルは即座に円形防御結界を強化したが、誘導弾が結界に当たるたび、結界の安定性が急激に低下していく。
「だめです!誘導弾は、この森のランダムなマナの揺らぎを利用して、結界の最も脆弱な一点を狙ってくる!私の精密な結界が、マナの乱雑さによって予測不能な誤差を生んでいます!」
リゼルが焦燥を見せたその時、レオンは決断した。
(リゼルの精密な防御魔法を、環境から完全に切り離す!)
レオンは、全身の影のマナを一気に放出し、リゼルの結界を完全に包み込んだ。影のマナによる瞬間的な環境適合を、防御用途に特化させたのだ。
黒い霧が結界全体を覆うと、マナ獣の誘導弾は、リゼルの結界の表面ではなく、その外側の黒い霧に触れた瞬間に無力化され、霧散した。
「な……!誘導弾のランダムなマナ波長が、影のマナに吸収され、『適合』している!」リゼルは解析盤を見て驚愕した。「貴方の影のマナが、私の結界を環境の変化から守っている!」
「今だ、リゼル!結界を保て!」レオンは叫んだ。
3. 超収束貫通型の実践
防御をレオンに任せたリゼルは、即座に次の指示を出す。「レオン!マナ獣の炎は、その不安定なコアが暴走している証拠です。貴方の超収束貫通型で、その『コア』を貫通し、マナの流れを破壊してください!」
マナ獣は、防御結界の外側に纏う影の霧に戸惑い、一瞬動きを止めた。
レオンは、指先に全霊を込めた。影のマナの奔流を、リゼルの精密な理論に基づき、一点に集束させる。
超収束貫通型!
漆黒の稲妻は、青い炎のバリアをまるで無視するように貫通し、マナ獣の胸部に正確に命中した。
パァン!という、ガラスが割れるような音と共に、マナ獣の全身を覆っていた青い炎が消え失せ、その巨体は、ただの燃え尽きた灰となって地面に崩れ落ちた。
「成功です。一撃で変異コアを破壊した」リゼルは冷静に解析盤を閉じ、深く息を吐いた。「貴方の貫通力と、貴方の適合。この二つが合わされば、この森の環境にも対応できる」
レオンは疲労困憊でその場に膝をついた。影のマナの持続的な使用は、彼の体に大きな負担をかけていた。
4. 追跡の気配
リゼルはレオンにマナ回復薬を飲ませ、周囲を警戒した。
「レオン。貴方の故郷を救うためには、一刻の猶予もありません。ですが、無理は禁物です。クロード先輩から預かった薬草を飲むように」
レオンが薬草を飲み、わずかに体力を回復させたその時、リゼルは森の奥から、遠いマナの波動を感知した。
「……追跡の術式ではありません。あれは、『精密誘導術』。解放派の上級魔術師が、マナの乱雑なこの森で、物理的な追跡を行っています。彼らは、王都から最短ルートで魔女の炉に向かっている可能性が高い」
解放派は、レオンたちが裏ルートを選んだことを察知し、先回りしようとしているのか。それとも、レオンの超収束貫通型の威力を恐れ、集団で追撃に来ているのか。
レオンたちの旅は、依然として予断を許さない状況にあった。彼らは、解放派に先んじ、魔女の炉の『調和の器』を手に入れなければならない。




