16.故郷への焦燥と、魔女の炉への覚悟
1. 情報の共有と分析
極秘書庫からの脱出に成功したレオンとリゼルは、学院の敷地外にあるクロードの隠れ家へと身を寄せた。アルベルトは解放派に回収されたらしく、追撃の気配はなかった。
クロードは、リゼルが複写してきた古文書のマナ記録を解析盤で確認し、その情報量に目を見張った。
「これは素晴らしい情報だ、リゼルちゃん。君の言っていた通り、覇王装備の真の力『完全起動条件』が具体的に記されている」
リゼルは疲労の色を見せながらも、冷静に分析を続けた。「『調和の器』。これが、影のマナの暴走を防ぎ、覇王装備の固有スキルを安定させるための鍵となるアイテムです。古文書によると、それは『魔女の炉』の最奥、『炉心』に存在している」
「魔女の炉か……」クロードの顔が険しくなった。「あそこは学院が創設以来、封鎖しているダンジョンだ。影のマナの濃度が異常に高く、過去に最強の探索者が挑んで、全滅した記録がある」
「しかし、その『炉心』こそ、レオンの故郷のダンジョンで発生している影のマナの奔流の発生源である可能性が高い」リゼルはレオンを見た。
「レオン。古文書には、貴方の故郷のダンジョンが、魔女の炉の『マナ排出口』の一つであると示唆されていました。つまり、魔女の炉の影のマナの活性化が、貴方の故郷の危機に直結しているのです」
2. 故郷からの悲報
その時、隠れ家の窓の外で、一羽の伝書鳥が止まった。レオンが受け取ったのは、故郷の村の長老からの、切迫した手紙だった。
> 『レオン。マナの奔流が、ついに村の結界を破り始めた。魔物の質が変わり、以前よりも巨大で凶暴な魔物が、結界内に侵入してきている。もう、時間の猶予はない。我々は、村を放棄すべきか、最後の決断を迫られている。頼む、どうか……』
>
手紙を読み終えたレオンの手は、震えていた。もはや数週間の猶予もない。彼の故郷は、今、まさに崩壊の危機に瀕している。
「くそっ……!」レオンは、手紙を強く握りしめた。
リゼルは、解析盤から顔を上げ、静かに言った。「レオン。焦る気持ちは分かりますが、感情は理論の敵です。貴方が今、衝動的に魔女の炉に向かっても、命を落とすだけです。貴方には、超収束貫通型があるとはいえ、上級ダンジョンの深層は、制御だけで突破できる場所ではない」
「分かってる!分かってるが、もう待てないんだ!」レオンは立ち上がった。「俺がこの学院に来たのは、故郷を救うためだ。リゼル、クロード先輩、俺は、魔女の炉に行く。今すぐだ」
3. 覚悟と目的の合致
クロードは、レオンの強い覚悟を見て、リゼルを制した。
「リゼルちゃん。彼の『焦燥』は、もはや制御すべき感情ではない。影のマナを発現させる『推進力』だ。これを抑え込めば、彼の力は安全になるが、覇王にはなれない」
そして、クロードはレオンに向き直った。「レオンくん。君が魔女の炉へ行く覚悟は分かった。だが、単独で特攻するのは愚行だ。君の目的と、リゼルちゃんの目的は、今、完全に一致している」
リゼルも、レオンの燃えるような瞳を見て、自分の理論だけでは解決できない現実を理解した。彼女は解析盤を閉じ、毅然とした態度で言った。
「いいでしょう。レオン。貴方の焦燥は、私が『推進力』として解析し、貴方を魔女の炉へと導きます。ただし、主導権は全て私にあります。貴方の力は、私の完璧な指揮の下でのみ、価値を持つ。調和の器を手に入れるまで、貴方の行動は全て、私の理論に従う」
「分かった。リゼル」レオンは頷いた。「俺は、あんたの指示に従う。だから、必ず、調和の器を手に入れ、故郷を救う道を切り開く」
「私も、父の理論の謎を解くために、貴方を最深部へと連れて行きます」リゼルの瞳は、レオンの焦燥とは異なる、氷のような決意を宿していた。
クロードは、二人の天才と異端児の間に結ばれた、この危険な協定を、静かに見守った。
「ふむ。決まったようだね。魔女の炉へのルートは、学院の正規ルートを使えば、すぐにバレる。私の方で、裏の抜け道を用意しよう。そして、道中、君の影のマナの環境適合を、実戦で使えるように、もう一度調整する必要がある」
レオンの故郷を救うための旅は、学院の闇の派閥の監視と、上級ダンジョンの比類なき危険を伴いながら、今、始まろうとしていた。




