14.影のマナによる適合と、極秘書庫の深淵
1. 夜の特訓:罠を避ける力
リゼルとの最終特訓が終わった夜、レオンは学院の裏手の森でクロードと合流した。クロードに手渡された乾燥した薬草は、飲むとマナの経路が一時的に不安定になる、危険なものだった。
「リゼルちゃんの特訓で君は『貫通の理論』を身につけた。今から教えるのは、『生存の本能』だ」クロードは静かに言った。
クロードは森の中に、数十種類の初級から中級の魔法陣を組み合わせた「複合罠」を仕掛けていた。リゼルの理論では、マナを安定させ、正確に放つことがすべてだが、クロードの指導は真逆だった。
「君の影のマナは、周囲の環境マナを極度に乱す。これは防御結界には致命的だが、罠を感知するには最高の特性だ」
クロードはレオンに薬草を飲ませた。マナの奔流が体内で不安定に暴れ始める。
「いいか、レオンくん。マナを『流れる血』だと思え。そして、罠に近づいた時、その血の流れが『共鳴』するのを感じろ。その共鳴を、君の肉体ではなく、影のマナで受け流す。それが『影のマナによる瞬間的な環境適合』だ」
レオンは、激しいマナの揺らぎの中で、一歩足を踏み出した。すると、大地に仕掛けられた『拘束の鎖』の罠が起動する直前、彼の影のマナが微かに「黒い霧」となって足元を包み、鎖を一瞬だけ透過させた。
「そうだ!その感覚だ!」
レオンは何度も失敗し、全身打撲とマナの疲労に苦しんだが、夜が明ける頃には、彼の影のマナは、リゼルの教えた超収束とは全く異なる、「異質なものを一時的に無効化する」能力を会得していた。
2. 極秘書庫への潜入
次の夜。リゼル、レオン、そして情報分析役として同行を命じられたアルベルトの三人は、学院の王立図書館の裏手に潜んでいた。
「アルベルト。貴方の防御魔法は信用できませんが、この潜入ミッションにおいて、貴方の『極秘書庫の配置図』と『警戒マナ結界の解析情報』は不可欠です」リゼルは淡々とアルベルトに指示を与えた。アルベルトは悔しそうだが、リゼルの命令には逆らえなかった。
「書庫の入り口には、学院最強クラスの『封印術式』が施されています。貴族の家伝のマナで二重に封鎖されているため、解読には数時間かかる」リゼルはレオンに視線を移した。「レオン。貴方の超収束貫通型で、その封印の鍵穴となっている一点の魔力経路を、一瞬で無効化してください」
「了解だ」
レオンは、リゼルの解析によって示された、封印術式の中でも最もマナが集中する一点に、指先を向けた。
超収束貫通型!
漆黒の稲妻が、結界の鍵穴をまるで精密機械のように貫通した。バチリという微かな音と共に、図書館の極秘書庫の重厚な扉を覆っていたマナの光が、瞬時に消え去った。
「突破成功。流石です、レオン」リゼルが低く称賛した。
3. 罠の連続と影の適合
レオンの貫通力で封印は破られたが、書庫の内部は闇に包まれていた。
「入ります。アルベルト、光を。レオン、貴方は私の指示で、私を援護して」リゼルが慎重に中へ足を踏み入れた。
その瞬間、書庫の通路の床から、数十本もの光の槍が、リゼルをめがけて自動的に出現した。これは、外部封鎖が破られた際に起動する、物理的な破壊を伴う防御罠だ。
「くそっ、この罠は解析になかった!」アルベルトが焦ってシールドを張ろうとするが、光の槍の速度には間に合わない。
「リゼル様!」
リゼルは咄嗟に防御体勢を取ろうとしたが、その瞬間、レオンの身体から、クロードとの特訓で会得した影のマナの黒い霧が噴き出した。
影のマナによる瞬間的な環境適合!
レオンの影のマナは、彼の周囲だけでなく、リゼルをも微かに包み込んだ。光の槍は、レオンとリゼルの身体を寸分違わず透過し、背後の壁に突き刺さった。二人の身体には、何の損傷もなかった。
「な……!?」リゼルは驚愕に目を見開いた。「今のは、空間転移ではない。マナと物質の物理的な干渉を一時的に無効化した……?私の理論にない力!」
レオンは息を切らして言った。「クロード先輩が、罠を避ける力だと言って……リゼル。進もう。時間は無い」
レオンの貫通と適合という二つの異質な力が、リゼルやアルベルトの理論の範疇を遥かに超えて、学院が築いた防御システムを無力化していった。
4. 上級ダンジョンの古文書
書庫の最奥部、厳重に施錠された石の台座の上に、目的の古文書が鎮座していた。
リゼルは古文書を手に取り、その表紙に触れた途端、彼女の瞳が驚きに満ちた。
「これは……!この羊皮紙の素材は、『魔女の炉』のダンジョンコアの一部だ。内部には、そのダンジョンに関するマナの記録が、生きたまま刻まれている」
リゼルは急いで内容を読み解き、持参した特殊なマナ複写器で、その情報を高速で写し始めた。古文書には、そのダンジョンの深層構造、そして影のマナが生まれる『炉心』に関する記述、さらに……
「あった……!これが、覇王装備の真の力『完全起動条件』だ!」
リゼルは震える声で叫んだ。古文書には、覇王装備が影のマナを完全に制御し、使用者に真の力を与えるために必要な、特定のアイテムの存在が記されていた。
> 『覇王は、影を鎮める*「調和の器」*と共にこそ、光となる。その器は、炉心の最奥、マナが最も乱れる場所にあり、最も静謐である』
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「調和の器……」レオンは故郷を救うための具体的な手掛かりに、強く胸を熱くした。
しかし、情報複写の終了直前、書庫全体を激しいマナの波動が襲った。
「誰か来たぞ!」アルベルトが叫んだ。
書庫の入り口から、学院の警備隊ではなく、ローブを纏った数人の上級魔術師が現れた。彼らのローブの袖には、アルベルトの家系が近しい『解放派』の紋章が刻まれている。
「やはり、先に動いたか、リゼル・ヴァイスベルク。そして、そこにいる異端のマナコアを持つ者。学院の秘密を盗み出すのは、許されない」
彼らは、レオンたちの動きを読んで、待ち伏せていたのだ。ミッションは、学院の闇の派閥との衝突へと発展した。




